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第三十三章
スマートとグラマー
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空路と海路では店までのルートが違う。更に王都の運河は種族間戦争があった時の名残で非常に入り組んでおり、まっすぐ城までは向かえない様になっている。
今回の勉強会の会場、ディノさんのバルは城ではないが貴族居住区の付近にあり、やはり簡単には行けない場所にあった。俺は俺と同じく運河を利用するエルフ達――商業運送に携わる商人がいれば、観光している旅行者もいた――に路を尋ねつつ、それでも約束の時間の少し前に店の付近に到着した。
「おーい! ショーキチ先生!」
どの桟橋に着け管理者に船を預けようか? と周囲を見渡す俺に頭上から声がかかった。
「あ、アリス先生! 早いですね」
「はい! レイちゃんの補講も無かったので! あーっ! パンツ見ないで下さいよー!?」
見上げた先の歩道にはアリスさんがいて、そう言ってスカートを抑えながら警戒して少し後ろへ移動した。運河と脇道には高低差があり、意図せず覗き込む形になったのだ。
「うわ、すみません! 俺、あちらに船を留めて来ますので!」
いや半分、自分のせいやん!? とは思っても口に出さず、俺は顔を背けて前方の埠頭を指さした。チラ見した範囲だが今日のアリスさんの服装は白いフーディーに赤ギンガムのフレアスカートだ。どちらも短い目で上では臍の付近が、下では太股が大胆に見えている。
まさかそんな格好で授業はしてないだろうし、俺と会う為に着替えてきたのかな? いや、女性のお洒落は自分自身のテンションを上げる為にもするというし、ディノさんのお店の雰囲気に相応しいコーディネイトというのもあるだろうし、そんな風に考えるべきではないな。
「どうぞこちらを。素敵な夜をお楽しみ下さい」
俺が船を停泊させた波止場の係員さんはそう言って俺の下船に手を貸し、船の預かり証を渡してきた。因みに係員さんは恐らくドーンエルフの男性だ。預かり証は魔法がかかっているらしく薄く発光している。偽造防止の為か夜間でも見易くする為なのだろう。
「ありがとうございます。それほど遅くはならないと思います」
俺はそう言いながら自分の右手にコインを滑らせ、その手で係員さんと握手をする。手を離した際にはコインが彼の手へ移るという仕組みだ。スマートにチップを渡す手段として有名だよね。
「待って、ショーキチ先生! こういう時おとなはですね」
そこへ女教師がバタバタと駆け寄ってきて、鞄の中から財布を引っ張りだそうとしてきた。
「あ、いや、大丈夫です!」
アリスさんは俺がチップを渡してないと誤解し、更に俺の代わりに払おうとしている!
「えっ? どういう事ですか?」
「あの、後で教えます……」
スマートさが台無しである。俺は彼女の肘の辺りを掴みつつ、店の方へ歩き出した。
視界の隅では、係員さんが必死に笑いをこらえていた……。
ディノさんの店へ歩く途中で俺はやり方を説明し、実践までしてみせた。
「ほえ~。それは失礼しました! でもカッケーやり方ですね! 私も今度やってみようっと」
解説を聞いたアリスさんはしみじみと呟き、豊かな胸の下で腕を組んだ。今度って何処だ? ひょっとしたらまた試合を観に来て、スタジアムの係員相手にやるつもりか?
「もしかして今度って次の試合ですか?」
「ええ! できれば全試合、行きたいと思ってます!」
金髪のエルフはニカっと笑ってそう答えた。ありがてえ……ええ客や。まあそれはそれとして……。
「ありがとうございます。で、返して貰えますか?」
「はい?」
「さっきのコイン」
俺は彼女がチップ渡し実演の時に受け取ったままのお金を回収に入った。
「え? 何のことです?」
「右手」
「ありませんよ?」
アリスさんはそう言うと脇を締め、両手を肩の高さでぱっと開いた。確かにその両手の平にコインは無いが……。
「さっき腕を組んだ時に、左脇に挟みました?」
「ちっ、バレたか……」
デイエルフは少しも悔しくなさそうにそう言うと、笑いながら少し脇を開いて隠していたコインを見せた。それから身体のそちら側を俺に見せ手招きする。
「ほい」
「おおっと!」
俺が近寄るのと彼女が脇を開くのは同時だった。当然、コインが落下したので俺は慌てて手を伸ばし、本来は自分のモノである硬貨を受け止めようとする。
「きゃん!」
「わ、すみません!」
首尾良く落下する円形の物体はキャッチする事ができた。しかし俺の閉じた右拳は、別の円形物を軽く掠めたのだ。
「ショーキチ先生のえっち!」
「ふ、不可抗力です!」
それはつまり、アリスさんのおっぱいである。もちろん彼女も俺の手が伸びた際、ぶつからないように身体を捻ってはいた。しかしもともとさほど俊敏とは言えないドーンエルフの教師である。動きは緩慢であった。これがデイエルフのサッカードウ選手なら回避に成功していたであろう。いやそもそも、こんな悪戯をしようとしないか。
「本当に手が早いんだからっ!」
「違いますって! すみません!」
元はと言えば彼女のせいで、しかも不可抗力は二度目だ。とは言え触ってしまったのは事実なので謝る。
「はい」
「はい?」
彼女がそう言いながら掌を上に出してきたので、首を傾げながらも取り返したばかりのお金をその上に置く。
「よろしい!」
よろしかったのか……。アリスさんは笑顔でそれを収め、歩き出した。いろいろ釈然としないモノがあるが、罰金刑で済んだのはまだ良かった方だろう。
俺は何とか自分を納得させつつ、やっと到着したディノさんのお店へ入った。
今回の勉強会の会場、ディノさんのバルは城ではないが貴族居住区の付近にあり、やはり簡単には行けない場所にあった。俺は俺と同じく運河を利用するエルフ達――商業運送に携わる商人がいれば、観光している旅行者もいた――に路を尋ねつつ、それでも約束の時間の少し前に店の付近に到着した。
「おーい! ショーキチ先生!」
どの桟橋に着け管理者に船を預けようか? と周囲を見渡す俺に頭上から声がかかった。
「あ、アリス先生! 早いですね」
「はい! レイちゃんの補講も無かったので! あーっ! パンツ見ないで下さいよー!?」
見上げた先の歩道にはアリスさんがいて、そう言ってスカートを抑えながら警戒して少し後ろへ移動した。運河と脇道には高低差があり、意図せず覗き込む形になったのだ。
「うわ、すみません! 俺、あちらに船を留めて来ますので!」
いや半分、自分のせいやん!? とは思っても口に出さず、俺は顔を背けて前方の埠頭を指さした。チラ見した範囲だが今日のアリスさんの服装は白いフーディーに赤ギンガムのフレアスカートだ。どちらも短い目で上では臍の付近が、下では太股が大胆に見えている。
まさかそんな格好で授業はしてないだろうし、俺と会う為に着替えてきたのかな? いや、女性のお洒落は自分自身のテンションを上げる為にもするというし、ディノさんのお店の雰囲気に相応しいコーディネイトというのもあるだろうし、そんな風に考えるべきではないな。
「どうぞこちらを。素敵な夜をお楽しみ下さい」
俺が船を停泊させた波止場の係員さんはそう言って俺の下船に手を貸し、船の預かり証を渡してきた。因みに係員さんは恐らくドーンエルフの男性だ。預かり証は魔法がかかっているらしく薄く発光している。偽造防止の為か夜間でも見易くする為なのだろう。
「ありがとうございます。それほど遅くはならないと思います」
俺はそう言いながら自分の右手にコインを滑らせ、その手で係員さんと握手をする。手を離した際にはコインが彼の手へ移るという仕組みだ。スマートにチップを渡す手段として有名だよね。
「待って、ショーキチ先生! こういう時おとなはですね」
そこへ女教師がバタバタと駆け寄ってきて、鞄の中から財布を引っ張りだそうとしてきた。
「あ、いや、大丈夫です!」
アリスさんは俺がチップを渡してないと誤解し、更に俺の代わりに払おうとしている!
「えっ? どういう事ですか?」
「あの、後で教えます……」
スマートさが台無しである。俺は彼女の肘の辺りを掴みつつ、店の方へ歩き出した。
視界の隅では、係員さんが必死に笑いをこらえていた……。
ディノさんの店へ歩く途中で俺はやり方を説明し、実践までしてみせた。
「ほえ~。それは失礼しました! でもカッケーやり方ですね! 私も今度やってみようっと」
解説を聞いたアリスさんはしみじみと呟き、豊かな胸の下で腕を組んだ。今度って何処だ? ひょっとしたらまた試合を観に来て、スタジアムの係員相手にやるつもりか?
「もしかして今度って次の試合ですか?」
「ええ! できれば全試合、行きたいと思ってます!」
金髪のエルフはニカっと笑ってそう答えた。ありがてえ……ええ客や。まあそれはそれとして……。
「ありがとうございます。で、返して貰えますか?」
「はい?」
「さっきのコイン」
俺は彼女がチップ渡し実演の時に受け取ったままのお金を回収に入った。
「え? 何のことです?」
「右手」
「ありませんよ?」
アリスさんはそう言うと脇を締め、両手を肩の高さでぱっと開いた。確かにその両手の平にコインは無いが……。
「さっき腕を組んだ時に、左脇に挟みました?」
「ちっ、バレたか……」
デイエルフは少しも悔しくなさそうにそう言うと、笑いながら少し脇を開いて隠していたコインを見せた。それから身体のそちら側を俺に見せ手招きする。
「ほい」
「おおっと!」
俺が近寄るのと彼女が脇を開くのは同時だった。当然、コインが落下したので俺は慌てて手を伸ばし、本来は自分のモノである硬貨を受け止めようとする。
「きゃん!」
「わ、すみません!」
首尾良く落下する円形の物体はキャッチする事ができた。しかし俺の閉じた右拳は、別の円形物を軽く掠めたのだ。
「ショーキチ先生のえっち!」
「ふ、不可抗力です!」
それはつまり、アリスさんのおっぱいである。もちろん彼女も俺の手が伸びた際、ぶつからないように身体を捻ってはいた。しかしもともとさほど俊敏とは言えないドーンエルフの教師である。動きは緩慢であった。これがデイエルフのサッカードウ選手なら回避に成功していたであろう。いやそもそも、こんな悪戯をしようとしないか。
「本当に手が早いんだからっ!」
「違いますって! すみません!」
元はと言えば彼女のせいで、しかも不可抗力は二度目だ。とは言え触ってしまったのは事実なので謝る。
「はい」
「はい?」
彼女がそう言いながら掌を上に出してきたので、首を傾げながらも取り返したばかりのお金をその上に置く。
「よろしい!」
よろしかったのか……。アリスさんは笑顔でそれを収め、歩き出した。いろいろ釈然としないモノがあるが、罰金刑で済んだのはまだ良かった方だろう。
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