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第三十三章

ワンサイド練習

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 話が激しく脱線してしまったが今日からのトレーニングは守備重視、しかも退場者が出た場合に素早くそれに対応する練習を兼ねて、であった。あの装置も全員参加も、その為である。
 スタメン及び守備側のシステムは1361。GKはボナザさんでDFラインは3バック。クエンさんとリストさんがストッパーでガニアさんがスイーパーとして余る形だ。
 中盤は手厚く6名。WBは左ルーナさん右ティアさん。マイラさんとシノメさんが横並びのボランチで攻撃的MFはダリオさんとツンカさん。FWはリーシャさんの1TOPとなる。
 高さ強さのあるCB3名で中央を固め、中盤も選手を多く配置してスペースを奪う。その分、攻撃は手薄になるがそこは開き直ってリーシャさんの単独突破にかける……という構えだ。
 対する攻撃側チームは1442。GKはユイノさんでDFラインは左からアイラさんシャマーさんムルトさんパリスさん。中盤は台形で底にアガサさんとポリンさん、両ワイドにレイさんエオンさん。2TOPはヨンさんとタッキさんだ。
 かなり攻撃的なメンバーというか守備の強度が明らかに足りないチームであるが、フェリダエチームのド派手な攻撃を再現する為だから仕方ない。それに選手が揃っているとは言え、これは練習試合でも紅白戦でもなくトレーニングである。守備側がボールを握ってしまっても、コーチが任意のタイミングでプレイを止めボールを取り上げて攻撃側へ与える事もできる。
 正直、守備側のストレスはかなりのものだろう。だが実際の試合ともなればフェリダエチームから与えられる困難はこんなモノ――関西弁で言えばこんなん、と同じ文字になる――ではない。これくらいは跳ね返して貰わねば大敗してしまう。
 それにこのトレーニングが与えるストレスはもう一種類あった。

『デデーン! クエン、アウト~!』
 例の装置から大きな音が出て、プレイが止められた。
「え!? 自分がっすか!?」
 クエンさんから抗議の声が上がる。それもその筈、今は彼女がタッキさんのボールコントロールが乱れた所を上手く奪った所だったからだ。
「そうだよー! クエンさん出て、レイさん好きなタイミングで再開してくださーい!」
 俺はベランダの上からそう声をかける。それを聞いても納得いかない感じのナイトエルフの背をザックコーチが押して追い出す、その陰からレイさんが早速ボールを蹴る、と目まぐるしく状況が動いた。
「私が行きます!」
 それを見てシノメさんが慌ててDFラインへ走った。
「わぁ、打ち易いヨー!」
 普通であれば間に合ったかもしれない。しかし攻撃側のナイトエルフが蹴ったボールは逆回転しながらタッキさんの目の前で止まり、モンクはトラップせずダイレクトでシュートを放った。
「ナイスゴール! で、クエンさん抜きでプレイ続行、アガサさんにボール渡して!」
 タッキさんのシュートがボナザさんの脇を抜けてゴールへ突き刺さった……のを確認しつつ、俺は次の指示を出す。それを聞いてナリンさんが慌ただしく動き、また攻撃が始まる。
「シノメー! 失点したが今の対応は間違っておらんぞー! ただ声をもっとかけてもっと早く動くのじゃー!」
 ジノリコーチがボード上の数字を動かしながら事務員さんへ向かってそう叫んだ。この練習方式だとコーチ陣も大忙しである。楽なのは守備をしなくても自分達のターンが勝手に回ってくる、攻撃側チームだけだろう。
「ボランチが退場したCBの所へ入るは、流石にスムーズですね」
 俺は彼女の手元を覗き込みながら言う。
「うむ。しかしこの後じゃな」
 ジノリコーチはそう言いながら顎をさすった。ワールドやゲームの設定によってまちまちだが、少なくともこの世界のドワーフ女性には髭は生えない。にも関わらず彼女がそういう仕草をしているのは、お父さんや兄弟など身近な男性がやっているのを見ていたからだろう。
「きゃあ!」
 そんな事を考えている間にプレイは再開し、アガサさんの送ったふわりとしたパスをタッキさんがヘディングでゴールへ叩き込んだ。マークについたシノメさんを軽く弾き飛ばしながら、である。
「はい、そこストップ! ちょっと集まろう」
 俺はそれを見て、ベランダから階下へ降りて守備側全員を集める。
「ジノリコーチのと繰り返しになるけど、今の対応は間違ってない。間違ってないんだけど、マッチアップが不利そうなら代わろう。例えばこのパターンならガニアさんがタッキさんのマークになって、シノメさんがストッパーとか」
 俺はガニアさんの隣から小走りにタッキさんの方へ移動し、片手でモンクの肩を掴み逆の手を挙げる。
「その際は『9番オッケー!』とか分かり易く身振りと言葉で宣言して。で、シノメさんに下がる様に言う、と」
 そして次にボナザさんとダリオさんを指さして言葉を続ける。
「で、そうした方が良いと思ったならDF以外が指摘しても良いから。特にGKとキャプテン。こういう時こそ声を出していこう」
 俺がそう言うと両者はそれぞれ真剣な顔で頷いた。
「フェリダエ族のニャンプ・ノウスタジアムは五月蠅いからな。ベンチからの声は当てにならないと思え!」
 ニャイアーコーチも俺の助言を補足する。フェリダエ代表チームのGKコーチとしての経験も長い彼女の言葉は重い。早速、数名が側の選手と話し合いを始める。
 これは良い緊張感を持って練習を続けられそうだ。俺は密かに微笑んで、再びベランダへ戻った。
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