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第三十二章

郊外に建ってる城

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 静かになったツンカさんを連れて貴族の居住区を抜け、俺は王城へ入った。時間が時間なのでもちろん正門ではなく通用門からである。番兵さんも見張り用の魔法の目――ソフトボール大の目玉がふよふよと浮いているのである。見たモノをどこかへ伝える、監視カメラみたいな存在だ――も見知った仲なので、軽く会釈で通り過ぎる。
「まさかキャッスルの中なんて……」
 ツンカさんが驚きの声を漏らしながら俺の背に隠れるように続いた。彼女もエルフの代表選手であり、歓迎会や報告会で城へ入った事はある筈だ。しかしそれで出入りするのは一部の場所に過ぎないし、仲間も一緒だ。こんな場所に少人数で来たことはないのだろう。
「見た目が似ているレジャーホテルじゃないよね?」
「はい? レンジャーホテルっすか?」
 なんだそれ? 野外活動する野伏の特殊部隊、レンジャー達が寝泊まりする所か? まあエルフだからそういうのもあるか。
「レンジャーじゃなくてレジャー! カップルとかが……」
「あ、レジャーホテル!」
 レジャー、つまりお楽しみの為の宿! この場合の『お楽しみ』とは大人がエッチな事をするという意味の、ドラクエでお姫様と宿泊した時に宿屋の主人が言う所の『お楽しみ』というやつだ。つまりレジャーホテルとはラブホテルをマイルドに言い換えただけである。
「違います! 確かにラブホってお城っぽい見た目だったりしますけど!」
 あ、ラブホテルって言っちゃった! と慌てる俺と対照的に、ツンカさんは首を傾げていた。
「ラブホ? ホワット?」
「あわわ、何でもないです! でもそれと間違えるなんて不敬ですよ!」 
 矛盾した事を言いながら俺は彼女を廊下の隅の暗がりへ押しやり周囲を見渡す。今の発言を誰かに聞かれたら投獄……はされないだろう。意味分からないし。ただ説明を求められたりして苦境に陥る筈だ。
「どうしたのショー? 部屋まで行かないでライトナウ、始める感じ?」 
 ツンカさんはそんな俺の身体に腕を回し色っぽく囁いた。暗闇にいるのにライトとは変な感じだが、これは灯りのライトではなく今すぐにという意味のライトだ。
「始めません! いや部屋でもしませんけど!」
 確かにラブホって廊下で既に盛り上がってしまうカップルもいるらしいよね! 知らんけど!
「ホワイ!? その為に来たんじゃないの?」
 ツンカさんは不思議そうに眉を潜めて問う。その顔が逆に色っぽくて妙な気を起こしそうになるが、おそらくこの付近30m以内にいて、まだ仕事をしていそうなエルフサッカードウ協会会長の顔を思い出し、俺は首を振った。
「どの為か分かりませんけど、ここには宿泊と仕事を兼ねて来ています。あ、もちろんツンカさんは先に寝ててくれて良いですよ」
 そう言いつつ、なるべく優しく腕をふり解き彼女の手を引いて歩き出す。疑っているのかツンカさんの動きは鈍いが握り返す手の力は強かった。

「あ、ジェフィさんこんばんは。ダリオさんは、まだ?」
 廊下の角を曲がってすぐ目的地に到達し、俺はドアの前のガンス族に声をかけた。
「お疲れ様です。はい、執務中です。ダリオ様、ショウキチ殿とお連れの方がお見えです」」
 今晩の守衛担当らしいジェフィさんがそう言ってから中に声をかけ、ドアを開ける。エルフサッカードウ協会も人員が増えたとは言え、会長のボディガードに他種族を配置するとは懐が深い。いや、チームの多国籍化を進めたのは俺だけど。
「ジェフィさんありがとうございます」
「いらっしゃい。あら、珍しい組み合わせですね?」
 忠犬に礼を言い中へ入ろうとした俺たちに、意外なタイミングでダリオさんからの声がかかった。
「あ、こんばんはダリオさん! わざわざどうも」
 俺は目の前に来たドーンエルフの姫君に挨拶をする。我々が今いるのは受付スペースであり、執務室はもう一つドアの向こうである。しかしダリオさんは自らこちらまで来て出迎えてくれたのだ。それ故、意外なタイミングと思ったのだ。
「だ、ダリオ姫! ミッドナイトに失礼します……」
 驚かされたのは俺だけでなくツンカさんもだった。この人懐こいデイエルフにしては珍しく緊張気味に、ダリオさんに拝謁した。
「ツンカだったのですね! 城の内部だからといってかしこまらないで! 素敵な服装ね?」
 姫様はそう微笑んでツンカさんの二の腕を撫でる。そういう彼女の服装は協会の仕事をする時の正装、タンカースジャケットにタイトスカートだ。しかも仕事感を出すためか、お気に入りの赤眼鏡もかけている。スポーティーで露出度高めのツンカさんとはまた違った色気がある。
「まあ腕が随分と冷たい! ショウキチさん、可愛いツンカを見せびらかしたくて夜道を連れ歩いたのでしょう? 中へ入って下さい。暖かいブルマンがあります」
 元キャプテンはそう言ってチームメイトの腕の内側を何度か揉みながら、冗談めかして俺を睨んだのち中へ誘った。
「いやそんな事しませんって! でも寒そうな格好で歩かせたのは本当ですね。すみません。どうぞ」
 前半はダリオさんへ、後半はツンカさんへ向かって俺はそう言う。腕の下側はエルフのアスリートであってもやはり脂肪があり、脂肪は筋肉より冷えやすいので実際にかなり冷たかった筈だ。あとその部分の柔らかさは胸や唇と同じという俗説があるな。俺、ツンカさんの胸も唇も知ってるけど腕の脂肪は知らないんだよな……。
「ショー? どうしたの?」
「ショウキチさん? いやらしい想像してないで入ってください」
 そんな事を考えていた俺へ、中から2名のエルフが呼びかけてきた。
「すみません、すぐ行きます! あといやらしい想像なんてしてません!」
 いつの間にか一人、そこへ取り残されていた事に気づいて俺は執務室へ入る。ダリオさん、どうして分かったんだ!?
「ごゆっくり……」
 やや笑いが含まれた声でジェフィさんが言う。そして俺の背の方で、廊下へ面するドアの閉まる音がした。
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