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第三十二章

備品倉庫はそこ

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「はっ ! もしかして……」
 モーネさんリュウさんを見送って直ぐ、俺はある事に気づく。
「これはアローズ初の『加入内定選手』ってやつか!?」
 思わず声に出してそう叫び、少し嬉しくなってニヤニヤと笑ってしまった。
 加入内定選手。いわゆる青田買いというヤツで例えばJリーグのクラブなどであれば、まだ高校在学中の選手と契約を結んで次のシーズンから加わるのを先に決めてしまうものだ。
「この世界には無いと思ってたのにな~」
 俺は鼻歌を歌いつつ、更衣室を出る。加入内定選手とはつまりルーキーなので過度の期待は禁物だ。しかし一般的に『新戦力』というだけで心躍るものがあるし、少しでも早く契約をしてしまうということは、それだけ才能が認められているという表れでもある。
 まあモーネ選手はルーキーでも何でもないが。ただ移籍とか高校サッカーからプロへ……とかが無いこの世界で、それに近い出来事があるだけで何となく浮き立つものがあるのだ。
「こりゃレイさんやポリンさんが卒業して正式加入する時も、何かやった方が良いな! テンションあがるし!」
 彼女たちの学生時代は長い。しかもポリンさんに至っては、もしかしたら学業の方を選んでサッカードウ選手にならないかもしれない。だがそれはそれとして、妄想するのは自由である。
 彼女らが卒業する少し前に、いっちょ新規入団記者会見でもしてみるか? でその現場に有料観客を入れるとか、シーズンパス購入者から抽選で何名か招待するとか?
「レイさんなんか、口も上手いしな~。効果的に期待を煽ってくれて、次のシーズンのシーパス売り上げ増加に貢献してくれるかもなあ!」
 俺はそんな事を言いながらスタジアム内の監督室へ向かって歩いていた。クールダウンが終わった選手はたいていシャワーを浴び、更衣室で移動用のスーツに着替える。それが終わるのを待つ間、監督室で一休みしようと思ったのだ。
「ん? ウチの口の上手さ、味わってみたいって?」
 だがそんな声と共に、俺は何者かによって背後から暗闇へ引きずり込まれた!

 何度も確認しているが、異世界の住人の大半は俺よりも夜目が効く。この世界、恒星の光度にこそ違いを感じるほどの差は無いが人工的な灯りがそこまで普及していないし、何より大半の種族が闇に紛れて何かを襲撃する事に長けているからだ。
 鉱山を住処とするドワーフやゴブリン、夜の原野で生きるフェリダエやガンス族、そしてもちろん薄暗い森林の狩人エルフ……。
 その中でもナイトエルフの暗視力はずば抜けている。大洞穴という光のない危険な地下で生き延びるにあたって、尋常ではない眼力を備えるようになったのだ。リストさんに至っては地上では眩しすぎるので、サングラスを使用しているくらいだ。
 そんな二刀流の剣士と比べると見劣りするが、実はレイさんも暗闇に潜む襲撃者として天稟の才を持っていたのだ……。

「レイさん!? クールダウンは? てかここどこ!?」
「行くフリして待ち伏せしててん! ここは灯りを消した備品倉庫やで!」
 姿は見えないが声はすぐ耳元で聞こえた。そしてもちろん、俺の背中にはレイさんの確かな質感が感じられた。
「何で待ち伏せを!? 話があるなら監督室で聞きますよ!」
 そういう間にも俺はグイグイと後ろに引っ張られ、最後にはレイさんと共に柔らかい何かの上に背中から倒れ込む。
「って大丈夫ですか? 俺の体重載ってない!?」
「ううん、もっと身体を預けて……逃げられへんように押さえつけてくれてええで?」
 レイさんは熱い声でそう囁いた。
「いや怪我させたらダメだし後ろからホールドされて押さえつけるなんて無理だしむしろ逃げられへんようにしてるのそっち!」
 俺は耳へ吹きかけられる息に動転しながらも一息にそう叫ぶ。
「くっくっく。ショーキチにいさん、相変わらずスピードのあるツッコミやなあ」
 一方のレイさんは更に余裕をみせながら笑った。その身体が笑い声で揺れる度に、彼女の胸や太股が俺の体に強い主張を残す。
「ううん、変わってへんのはそこだけやなかった。ウチらみたいな子に優しくて親身で格好良くて……惚れ直したわ」
 このナイトエルフが言っているのは、おそらく自分自身とモーネさんの事だ。どちらも訳あって心ならずもチームから離れる事を余儀なくされれ、そしてその境遇に一応、俺が手を差し伸べた形になっている。彼女にとっては自分が救われた状況の再現を見た気分なんだろう。
 いや、まあ、それは過大評価だと思うのでいずれ正さないといけないのだけれど。早急に対処するべきは、今レイさんがやっていること――俺を背後から抱きしめながら首筋や耳を舐めたりキスしたり――を辞めさせる事だった。
「その件はまた今度で良いんですけど、とりあえずそれをやめて身を離しましょうか!」
「んー? どれのこと? これ……」
 そう言うとレイさんはそっと俺の耳朶を甘く噛み、
「それともこれ?」
 次に片手を下へ伸ばし、俺の太股の内側を撫で上げた。
「どっどっどちもですけど! 特に足の方へ……」
「え!? 触ってええん!? やったぁ」
 俺の返答を聞いたレイさんは嬉しそうな、しかし湿った艶のある声を出すと両手を俺の股間の方へ伸ばした。
「(いまだ!)」
 その時を逃さず、俺は襲いかかった!
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