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第三十一章

ターゲットにされたのは

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 その出来事は前半11分の事だったよ。なんで正確に覚えているのかだって? そりゃずっと時計ばっか見てたからね。あの砂かぶり席? での苦行があと何分で終わるか、私の関心はそれ一つだったから。
 ……試合を頑張ってるみんなには悪いけどね。
 話が前後じちゃった。そう、最初の発端が11分。9分で早々にタッキが得点して、ノートリアスのキックオフで試合が再開した直後。
 それは何て事のないファウルだったよ。こちらの右サイドを突破しようとしたガンス族のMFを、エルエルが引っかけて倒しちゃった。笛が鳴ってエルエルのファウルが宣告されたけど、相手も騒ぎ立てなかったしあの子も別に抗議しなかった。普通にノートリアスのFKで試合が再開する筈だった。
 でも違った。え? ラッコが不貞腐れたみたいにボールを外に蹴り出して、遅延行為でイエローカードを貰った? そうか、みんなにはそう見えたんだね。
 違うんだ。あの時ね、私の近くのサイドライン側を歩いていたモーネが、エルエルに声をかけたんだ。
「ラッコ、ボールちょうだい!」
って。
 エルエルは素直な子だしモーネと知らない仲でもないから、あの子は正直にボールをあいつの方へチョン、と蹴った。あいつがFKのキッカーなんだな、って私も……あの子も思ったんだと思う。
 その時、というかエルエルが蹴るモーションに入った時からかな? モーネは顔と身体の向きをクルっと変えて、真ん中の方へ移動した。当然、ボールは誰もいない方向へ転がって、ピッチの外へ出た。
 そうだよ? エルエルは不満でボールを外へ蹴り出したんじゃないんだ。モーネにボールを渡す為に、パスをした筈なんだ。でもみんなには、あと審判にはそう見えなかったんだろうね。
 その後、前半16分でエルエルがまた相手を倒して、2枚目のイエローを貰って退場してしまったね。その5分間で、モーネは右サイドにパスを3本通した。うん、数えていたんだ。
 あいつ、理不尽なイエローカードを貰ったエルエルが動揺しているのを分かって、集中攻撃したんだよ。まあ、そもそも動揺させたのがあいつだった訳だけど……。


「「次は、キックターゲット対決~!」」
 時間は試合当日、キックオフの1時間前まで飛ぶ。ピッチ中央に設置された特設ゴールの前で、ステフとノゾノゾさんが元気に叫んでイベント開始を告げている所だった。
「おお、始まるか」
 ベンチに座っていた俺は思わず立ち上がり、そちらを見る。恒例のピッチコンディション確認やゴール裏への挨拶を終え今は少し暇な時間だ。多少、見物していても大丈夫だろう。
 ちなみにだが今日も魔法無効化のフィールドはギリギリまで展開しないよう、審判のドラゴンさんに依頼してある。でないと通訳の魔法もコオリバー君も機能しないからね! なお俺達がイベントで様々な魔法を使う事はもうお馴染みになっていて、あっさりと許可が降りた。有り難い話だ。
「これはどんなゲームなの、ステフさん?」
「よく聞いてくれたノゾノゾ。見ての通り、ゴールの中に数字が書かれたパネルがあるよな? んでここからシュートを撃って、たくさん射落としたチームの勝ち! という単純なルールだ」
「なるほど! でもここからだと簡単過ぎない?」
「そこでこれだ! あそこに小さなマジックガーディアンが見えるか?」
「うん、可愛い!」
「あれは『コオリバー君』だ。あいつの付近にシュートを撃ったら、全部たたき落としてしまうぞ!」
「うわあ、怖い! そうなると、プロのサッカードウ選手でも難しそうだね!」
「ああ! だからアローズとノートリアス、それぞれから1名づつ助っ人が入るんだ」
「わあ、頼もしい! で、誰が来るの?」
「気になるか? じゃあ早速、登場して貰おう! それぞれの助っ人と、抽選で選ばれたラッキーな一般参加者の入場だ!」
 ステフとノゾノゾさんのMCはバッジョのドリブルの様にスムーズで、俺が描写や口を挟む間も無かった。あいつら、かなり手慣れてきたなあ。
「まずはノートリアスチームから! 本日初めてご来場というパトリシアさん! そして助っ人はノートリアスのMF、ボッシュさん!」
 ノゾノゾさんがそう紹介すると小さな魔法の花火が上がり、ピッチ端の搬入口から背の高いシルエットが二つ、駆け込んできた。
「おおう、長身コンビか」
 煙の中から現れた2名を見て、俺は思わず驚きの声を上げる。ボッシュ選手が長身のガンス族であるのは知っての通り。だが相棒である幸運なお客様がトロールであることは知らなかった。
「ようこそ! キックターゲットへの意気込みは?」
 背が高いだけに足も長く、両者がピッチ中央へ到着するのは一瞬だった。負けず劣らず大きなノゾノゾさんが魔法のマイクを向ける。
「ベストを尽くすだけですワン!」
「コオリバー君ごと……吹き飛ばすでごわす」
 彼女らの言葉は見た目と同じくシンプルで豪快だ。いや吹き飛ばされたら困るんだが。
「続いてアローズチームから! 本日で二回目のご来場というアリスさん! 助っ人はアローズのアイドル、エオンだぜ!」
 こちらの紹介はステフだ。同じく花火が上がり、呼び込まれた2名が手を振りながら走って来る。
「ふーん、こっちは小柄な……ってアリスさん!?」
 愛想良く観客席へ手を振るエルフたちの姿に、俺は先ほどを上回る驚愕の声を漏らしてしまった。煙を割って現れたのは見覚えのあるドーンエルフ、レイさんポリンさんの通う学校の教師、アリスさんだったからだ!
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