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第三十章
眠るコーチの横で
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ナリンさんに心身が落ち着く薬湯を飲ませベッドへ寝かせた俺たちは、その部屋の窓際に設置されたテーブルと椅子について話をしていた。
「……そうですか。では私は安否確認を走らせます」
話を聞き終わるとダリオさんはそう言って立ち上がり出て行く。聞かされた話はショッキングな内容だったろうが、動揺は見せない。やはり他者の上に立つ物として産まれたエルフは違う。
「じゃあ私はショーちゃんのチェックだね! アンデッドの魔力が残ってないか調べるしー脱ごっか!」
「いえ、結構です! 残ってるのは線香の香りくらいですよ!」
一方のシャマーさんも同じ事を耳にした筈なのに変わらない。さっきまで座っていた出窓から――その部屋のテーブルには椅子が2脚しかなく、俺とダリオさんが占領していた――飛び降り、俺の上に迫ってきた。常に俺の上に跨がろうとするエルフは違う!
「こーみえて心配してんだよー?」
「俺はシャマーさんの頭の方が心配です。さっきの話を聞いてそれですか!?」
俺は迫るシャマーさんの両肩を掴み対面の椅子に座らせながら言う。さっきの話、とは死者の使者さんとの対話の事である。
「んーだって話の方向性とか残留魔力の感じとか、急ぎのことじゃないみたいだしー」
やや不満そうに椅子に腰掛けたシャマーさんは、左手で唇を摘みながら言う。
「それは……そうかもしれませんが……」
悔しいし魔力云々はさっぱり分からないが、彼女の言う事には同意せざるを得なかった……。
そう、俺は解剖室で起きた出来事をすぐさまダリオさんシャマーさんへ伝えたのである。いや事の重大さや機密維持の観点から秘密にしておく選択もあったかもしれない。
だがよくよく考えれば、内緒にしておくメリットの方が殆どなかった。これが無闇に話を長引かせ人気が無くなったら打ち切りになる洋ドラなら
「余計な心配をさせないため」
とか言って黙っていて、その事が別の事件を引き起こしたりするのだが。
あとサッカーというのはチームスポーツで、チームスポーツはコミュニケーションのゲームでもある。
「分かっていると思ってた。後で言えば良いと思った」
と伝達を怠った事で大きな失敗に繋がる事が多々ある。それはサッカードウも同じだ。
なので俺は隠さず話す事にしたのだ。まあ使者さんから誰にも言うな、とも言われてないし。それに俺が瞬きもせず解剖とか……摘出された内蔵とかを見ていたという誤解も解きたかったし……。
「ショーちゃん的には前向きに考えてるの?」
悩む俺を勘違いしたのか、シャマーさんがやや心配そうに訊ねてきた。
「前向き、ですか? そうですね……ええ、そうです。もしアンデッドとの友好関係が結ばれて戦闘状態が終わるなら、これほど有益な事はありませんし」
俺はご遺体引き渡しの儀式とそこで見た光景を思い出しながら言う。
「サッカーが戦争を引き起こした」
というのがよくサッカーの豆知識で言われたりする――北中米のある戦争がそれだが実際はそんなに単純な話でもないらしい――が、逆にサッカードウが生命体と不死者の架け橋になり戦闘で兵士が死ぬ事がなくなれば、これほど素晴らしい事もないだろうか?
「確かにー。それでもし実現したら、ショーちゃんの彫像が立っちゃうかもねー」
「ははっ、サッカー界隈はすぐに彫像立てちゃいますからね」
シャマーさんの軽口に俺も軽口で返す。実際、スタジアム近くに有名選手のがあったりするし。
「ふーん……」
が、ふと見ると彼女は意外なくらい真剣な顔をしていた。あれ? サッカードウじゃなくてサッカーって言っちゃったからかな?
「そうなるとショーちゃんが遠い人になっちゃうなー。でもそれが心からの望みなんだよね?」
悪戯娘は少し寂しそうに、だがしっかりと確認するように言う。望み、か。確かにこれ以上、ご遺族の涙なんかは見たくないな。
「彫像は立たなくて良いですが、戦闘は止めたいですね」
珍しくシャマーさんが真面目モードだ。ここはそれに乗っかっておく事にしよう。最近つくづく学んだ事だが、この状態の彼女をからかったり過剰に褒めたりしたら危険だ。
「じゃあ……遠くなって手が出し難くなっちゃう前にー、既成事実を作っちゃおうっと!」
しかしピンク髪のエルフは艶やかに笑うと、また一飛びして俺の上に跨がってきた!
「ちょいちょい! どっちの選択肢を選んでも同じ結果になるクソゲーっすか!?」
「なにそれ分かんなーい。ね、ナリンを起こすと悪いから別室で絡み合わない?」
シャマーさんはそう言いながらまず怪しい視線と腕を俺に絡めて来た。いやまずも何も絡まないけど! 兎に角なにか言って止めなければ……そうだ!
「そ、そう言えば教えて欲しい事があったんです!」
「なに? エルフの女の子の敏感な部分の事? 結局、見れてないんだもんねー」
彼女が言っているのはたぶん解剖の事でそれは間違いではないのだが、俺が教えて欲しい事はそれではなかった。
「ナリンさんやシャマーさんと、今回メンバーにいたノートリアス所属のエルフさんの間に何かあったんですか!?」
「……そうですか。では私は安否確認を走らせます」
話を聞き終わるとダリオさんはそう言って立ち上がり出て行く。聞かされた話はショッキングな内容だったろうが、動揺は見せない。やはり他者の上に立つ物として産まれたエルフは違う。
「じゃあ私はショーちゃんのチェックだね! アンデッドの魔力が残ってないか調べるしー脱ごっか!」
「いえ、結構です! 残ってるのは線香の香りくらいですよ!」
一方のシャマーさんも同じ事を耳にした筈なのに変わらない。さっきまで座っていた出窓から――その部屋のテーブルには椅子が2脚しかなく、俺とダリオさんが占領していた――飛び降り、俺の上に迫ってきた。常に俺の上に跨がろうとするエルフは違う!
「こーみえて心配してんだよー?」
「俺はシャマーさんの頭の方が心配です。さっきの話を聞いてそれですか!?」
俺は迫るシャマーさんの両肩を掴み対面の椅子に座らせながら言う。さっきの話、とは死者の使者さんとの対話の事である。
「んーだって話の方向性とか残留魔力の感じとか、急ぎのことじゃないみたいだしー」
やや不満そうに椅子に腰掛けたシャマーさんは、左手で唇を摘みながら言う。
「それは……そうかもしれませんが……」
悔しいし魔力云々はさっぱり分からないが、彼女の言う事には同意せざるを得なかった……。
そう、俺は解剖室で起きた出来事をすぐさまダリオさんシャマーさんへ伝えたのである。いや事の重大さや機密維持の観点から秘密にしておく選択もあったかもしれない。
だがよくよく考えれば、内緒にしておくメリットの方が殆どなかった。これが無闇に話を長引かせ人気が無くなったら打ち切りになる洋ドラなら
「余計な心配をさせないため」
とか言って黙っていて、その事が別の事件を引き起こしたりするのだが。
あとサッカーというのはチームスポーツで、チームスポーツはコミュニケーションのゲームでもある。
「分かっていると思ってた。後で言えば良いと思った」
と伝達を怠った事で大きな失敗に繋がる事が多々ある。それはサッカードウも同じだ。
なので俺は隠さず話す事にしたのだ。まあ使者さんから誰にも言うな、とも言われてないし。それに俺が瞬きもせず解剖とか……摘出された内蔵とかを見ていたという誤解も解きたかったし……。
「ショーちゃん的には前向きに考えてるの?」
悩む俺を勘違いしたのか、シャマーさんがやや心配そうに訊ねてきた。
「前向き、ですか? そうですね……ええ、そうです。もしアンデッドとの友好関係が結ばれて戦闘状態が終わるなら、これほど有益な事はありませんし」
俺はご遺体引き渡しの儀式とそこで見た光景を思い出しながら言う。
「サッカーが戦争を引き起こした」
というのがよくサッカーの豆知識で言われたりする――北中米のある戦争がそれだが実際はそんなに単純な話でもないらしい――が、逆にサッカードウが生命体と不死者の架け橋になり戦闘で兵士が死ぬ事がなくなれば、これほど素晴らしい事もないだろうか?
「確かにー。それでもし実現したら、ショーちゃんの彫像が立っちゃうかもねー」
「ははっ、サッカー界隈はすぐに彫像立てちゃいますからね」
シャマーさんの軽口に俺も軽口で返す。実際、スタジアム近くに有名選手のがあったりするし。
「ふーん……」
が、ふと見ると彼女は意外なくらい真剣な顔をしていた。あれ? サッカードウじゃなくてサッカーって言っちゃったからかな?
「そうなるとショーちゃんが遠い人になっちゃうなー。でもそれが心からの望みなんだよね?」
悪戯娘は少し寂しそうに、だがしっかりと確認するように言う。望み、か。確かにこれ以上、ご遺族の涙なんかは見たくないな。
「彫像は立たなくて良いですが、戦闘は止めたいですね」
珍しくシャマーさんが真面目モードだ。ここはそれに乗っかっておく事にしよう。最近つくづく学んだ事だが、この状態の彼女をからかったり過剰に褒めたりしたら危険だ。
「じゃあ……遠くなって手が出し難くなっちゃう前にー、既成事実を作っちゃおうっと!」
しかしピンク髪のエルフは艶やかに笑うと、また一飛びして俺の上に跨がってきた!
「ちょいちょい! どっちの選択肢を選んでも同じ結果になるクソゲーっすか!?」
「なにそれ分かんなーい。ね、ナリンを起こすと悪いから別室で絡み合わない?」
シャマーさんはそう言いながらまず怪しい視線と腕を俺に絡めて来た。いやまずも何も絡まないけど! 兎に角なにか言って止めなければ……そうだ!
「そ、そう言えば教えて欲しい事があったんです!」
「なに? エルフの女の子の敏感な部分の事? 結局、見れてないんだもんねー」
彼女が言っているのはたぶん解剖の事でそれは間違いではないのだが、俺が教えて欲しい事はそれではなかった。
「ナリンさんやシャマーさんと、今回メンバーにいたノートリアス所属のエルフさんの間に何かあったんですか!?」
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