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第二十九章

優勝してからスタート

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「グリフォンなのに鳩胸ってなんでだよ!」
 俺は思わず突っ込む。
「ああ、スワッグ! 良い所だったのに何しに来た!?」
 救世主は天使と同じように羽根が生えているが、上半身は鷲で下半身はライオンの生物だった。グリフォンのスワッグだ。
「何しに来たとはご挨拶だぴよ! テル&ビッドの契約から次のイベントから文字通り飛び回っていたのにぴい!」
 いつの間にか食堂に来ていたステフの相棒は、文字通りトサカにきたように羽根を広げて怒っていた。
「そーだよ、スワッグにしては真面目に仕事してたんだから」
 後ろにはノゾノゾさんもいて、ひょこっと顔を出して援護射撃する。見た目は普通? のグリフォンだが正体は風の精霊の一族であるスワッグと、今は普通の大きさだが普段は巨人のノゾノゾさんは幼なじみ同士であり、スタジアム演出部の大事なメンバーだった。
「俺にしてはとはどういう意味ぴよ? そもそもノゾノゾがテル&ビッドの相手を……」
「ああ、二人ともお疲れさま! 座ってすわって、報告聞きたい!」
 スワッグが矛先をノゾノゾさんにまで向けたのを見て俺は慌てて両者に椅子を勧める。もともとスタジアム演出部をミーティングの為に呼び出したのは俺なのだ。しかも、彼らのおかげで今の流れを断ち切れたというのもある。
「ちっ……また今度きくか。で、どうなんだ?」
 流れも俺の心も読んだステフが悔しそうに舌打ちし、話の水を向ける。なんだかんだ言って彼女も仕事そのものは楽しいらしい。
「あいつら、楽器の演奏はもともと悪くないぴよ。だから歌唱の方を中心に、LDHからトレーナーを呼んで特訓する事になったぴい」
 スワッグは首に下げた鞄から器用に嘴で資料を取り出し言った。
「ふむふむ……トレーナーさんの費用はあっち持ちなんだ。太っ腹~」
 俺は魔法の翻訳眼鏡を取り出して呟く。どうでも良いが書類を読む度にするこの仕草、中学にいた老眼の国語教師みたいで懐かしいな!
「ねえねえ! こっちでも少し負担して、その分トレーナーさんを増やす事ってできないかな?」
 国語教師と言えばアリスさんとも打ち合わせしないとなー、と考えていた俺にノゾノゾさんが問いかけた。
「はあ。予算的には……どうだっけ?」
「シノメちゃんに確認しないと、だけど演出部の裁量内で一人二人ならいけるかもだな」
 俺から話を向けられたダスクエルフは横から同じ資料を覗きつつ言う。くっ、ステフもあの癒し系事務員さんと微妙に距離が近いんだよな!
「じゃあさ、可愛い子を連れてきてよ! テル君とビッド君が惚れそうな感じの!」
 そんな事を考える間に、こちらは誰とでも距離の近いノゾノゾさんが提案してきた。
「いやいやトレーナーと教え子の間に恋愛とか起きたらデビュー前から波乱ですから!」
 現在進行形で監督と選手の関係に悩む俺にはちょっと理解できないオファーだ。大変なんだぞ?
「そうだ、あり得ないぴい! そもそも何の為だぴよ?」
 スワッグも俺に同調して問う。いやコイツはもともとノゾノゾさんにアタリが強かったな。
「うーん、そうしたらあの子たちから私へのアプローチも無くなるかな? って」
 幼なじみの詰問にやや傷ついた表情のお姉さんはモジモジしながら応えた。
「ほっほう。あれか~」
 それを見て嬉しそうにするのはステフだ。彼女の言うあれとは、バード天国優勝発表直後のテル&ビッドの行動である。もとはレイさんに惚れていて彼女に良い所を見せようと大会に参加した彼らであったが、その最中でノゾノゾさんに心を奪われステージ上で愛の告白をしたのだった。見事な乗り換えだな。
「そうそう! あれからも顔を会わせる度に愛の賛歌を捧げてくるの。毎回、新曲を。すっごい下手なのを」
 いつも明るいジャイアント娘はこの時ばかりは暗いテンションで言う。愛の賛歌か……。貴女の燃える手で自分を抱き締めて欲しい、みたいな感じかな? ノゾノゾさんの半分は炎の巨人だし実現できなくはないな。
 って毎回、新曲!?
「バード天国から数日なのにそんなに作曲をしてるんっすか!? いやこれはスゴい才能とモチベーションですよ!?」
 俺は素直に驚いて確認する。
「そうだよ~」
「マジっすか……。本音を言うと、だったらむしろずっと彼らのターゲットでいて欲しいみたいな……」
「え!? ひっどい!」
 その言葉にノゾノゾさんは更に表情を曇らせた。
「そうだぴいそうだぴい! ノゾノゾのどこが良いか分からんけど、餌になれば良いぴよ」
「ふん、だ! スワッグのバーカ! でも監督、アーティストと関係者がそういう関係になるのは良くないんじゃないの?」
 はやし立てるグリフォンに悪態をついて、巨人は俺に助け船を求める。
「うーん。教師と生徒とか監督と選手とかみたいに教える側と教え子なら難しいですが、他の関係者ならまあ」
「アタシはどっちでも楽しいと思うぞ!」
 少し考える俺に対してステフは何も考えずに言った。いや実際、昔の中国では師匠と弟子の恋愛はかなりの禁忌だったらしいし、現代日本でもやや眉を顰める場合もあったりするし、あっちは良くてもこっち側はだめだぞステフ?
「もう、二人まで! 僕は嫌だよ~。ねえ監督、君と僕が付き合ってる事にして断わっちゃダメ?」
 ノゾノソさんはそう言うと急に俺の手を握った。
「え? いやダメですよ!」
「なんで? さっき『他の関係者ならまあ』って言ったよね?」
 そんな事は言って……るな!
「いやでもそれくらいで彼らが諦めるとは限らないので」
 握った手を胸に挟み込まれ動揺しつつも、自分の失言に気づいた俺は素早く別方向で説得を試みる。サッカーも交渉も切り替えの早さが大事だ!
「目の前でイチャイチャしてみせれば大丈夫だよ! ねえ、本当に付き合っている恋人同士がするみたいな事をして……良いよ?」
 ジャイアントのお姉さんは魔法で小型化してもなお大きな身体を折り、潤んだ目と赤く染まった頬で俺を見上げて言う。切り替えが早くても、粉砕されてしまいそうな時は……ある!
「そうしたら今度は彼らのモチベーションが……」

『『ビーッ! ビーッ!』』

 その時、殆ど密着しそうな俺たちのすぐ側で奇妙な警告音が鳴り響いた!
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