D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十九章

来いよビーチ

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 ビーチサッカーとはその名の通り、砂浜でやるサッカーだ。ルール的にはフットサルに近く一チームの人数も5人程度。砂の上でやる為に浮き玉やトリッキーな技を使う事が多く海辺の風景も相まってレクリエーションのイメージが強いが、プロリーグやオリンピック競技にもある立派なスポーツである。
 と言っても別にそれをこの異世界へ広めようと思っているのではない。すでにサッカードウという立派な? モノが普及しているのだ。俺はビーチサッカー場をクラブハウスの近くに設置し、トレーニングの一つに加えようとしているのだった。
「え? ショーちゃんまた新しい手で私たちをシゴくつもりなの?」
 俺の説明を聞いたシャマーさんはゲンナリした顔で言った。
「当然です! と言いたいところですけど。どちらかというと遊びとかリラックスの要素が強いんですよ。下が砂だから怪我し難いし、フィールドも狭いからそんなに走らされないし」
 俺は資料をめくってイメージ図――俺の依頼を受けたシノメさんが描いてくれたやつだ――を見せながらドーンエルフに反論する。
「砂ならシソッ湖の岸にも島にもありますけど、あれは小石も混ざっているしそんなに触り心地も良くないんですよ。なので特別にノトジアから輸入する事にしました。ちょっとお高いですけどこっちは足触り良いですよ~!」
 ついで砂の説明のページを見せる。地球であれば粒度がどうとかいったデータがあるだろうが、流石にこの異世界ではそんなものはない。代わりに導入実績――どこぞの金持ちの邸宅で使用されているとか、覇霊寺のお庭でどうとか――がズラズラと並べられている。
「怪我のリハビリにも良いそうで。ショーキチ殿は本当に選手の事を考えておられる!」
「いやそれほどでも、はっはっは」
 ナリンさんが素早くフォローに入り、俺は照れ隠しに笑った。もちろん嘘である。
 いや全部が嘘ではないけど。トレーニング負荷は……実は想像以上にある。何せフィールドは狭いが人数が少ないのでサボる暇がない。そして足下は砂だ。確か公式規則だと深さ40cmくらいは必要な筈だし、それほど深ければかなり足をとられて疲れるだろう。なので
「遊びとかリラックスの要素が強い」
とは完全な出鱈目なのだ。
「砂には不吉なイメージがありましたが、こう描かれると美しいですわね」
「えへへ! 監督に教えて貰いながらたくさん描いちゃいました!」
 ムルトさんが素直な感想を述べシノメさんが応じる。エルフの中でも特にデイエルフの皆さんは森の住人で、やはり砂や砂漠への忌避感みたいなものがある。
 そこで俺はシノメさんにお願いして明るいイメージの絵を描いて貰ったのだ。参照にしたのは奇しくも昨日の対戦相手ハーピィの街アホウ。そこのリゾートビーチだ。
 何故シノメさんに依頼したかと言うと、彼女がたまに書類の端々に小さなイラスト――小さなキャラが「ここ記入漏れなく!」とか「締め切り厳守」とか叫んでいる可愛いの――を描き込んでいるのを目にしていて、彼女なら描けるんじゃないか? と思ったからだ。
「本当に短時間でよくここまで作ってくれましたよね」
 俺は感心して呟く。ビーチサッカー場の建設を思いついたのは試合の一日前、鳥乙女たちの前日練習を見ていた時だ。実はその後でナリンさんたちに連絡して計画を詰めたのだが、メインで動いていたのはシノメさんだった。いくらハーピィ戦では控えにも入ってなかったとはいえよくやってくれた。
 ……という事でもう一つの嘘を告白。砂の実物を俺はまで見ていない。触ってもいない。だから
「足触り良い」
というのも大嘘だ。
「ふーん。まあ分かったけどー。ずいぶんとバタバタした計画ね。ショーちゃんらしくないー」
 シャマーさんは納得と不審がまだ混ざった表情で言った。
「何が俺らしいか分からないですけど、スマートじゃないのは認めますよ。思いついたのがつい最近で、もともとノトジアから色々と運んで貰う予定があって、急にそれをくっつけたので」
 嘘に気づかれたくないので、俺は彼女の言葉を素直に肯定した。
「うん? なんかあやしいなー」
 しかしその態度は駆け引き巧者に余計な疑念を与えてしまったようだ。シャマーさんは自分の唇を摘みながら俺の顔と書類を交互に見る。
「いや、別に……」
 俺はナリンさんかダリオさんに助けを求めそうになるのを必死に我慢しつつ応えた。ここで他者に顔を向けるのは、後ろめたいことがある証拠になってしまう。いやそもそもビーチサッカーがまあまあ厳しいトレーニングである事をそこまで隠す必要も無いんだけど!
「あ、分かったー!」
 と、そこでシャマーさんは資料の一角を指さして言った。
「ショーちゃんのお目当て、これでしょ!?」
 そこは砂のフィールドのイメージ図……の端の方で、ちょっとしたイラストがある場所だった。
「はい? いやこれはただの資料ですが……」
 それはただの絵で実在する訳じゃないんだけどな、と思いながらシノメ画伯の手による作品を見る。そこにあったのはなんて事無い、誰をイメージしたとも分からない可愛いエルフの少女がウインクしながら
「レッツ、エンジョイ!」
と言ってるだけの挿し絵だ。水着姿で。
「みんなが水着姿で砂の上でボインボインする姿が見たいんでしょー」
「ちゃうわ! そもそも水着でやらんし!」
 ついに急所を突いた! という顔で宣言するシャマーさんの言葉を、俺はすぐさま否定する。ビーチバレーは着るけど、ビーチサッカーは別に普段通りだし!
「なるほど! ショウキチ殿らしいです」
「確かに帰ってきてから詳細に説明してくれました。やけに熱心だなとは思っていましたが……」
 ダリオさんがシャマーさんの言葉に頷き、シノメさんも賛同する。姫様あなた腐れ縁のドーンエルフに騙され過ぎだし、会計さんもこんな手の込んだイラスト――女性が描く女性の方が水着下着が細かかったり肉付きがエッチだったりするよね!――を描いたのが元凶でしょうが!
「違うんですよ! ナリンさん、俺は本当は厳しいトレーニングを選手に課すタイプですよね?」
 今度ばかりはなりふり構わずナリンさんへ助けを求める。しかし……
「確かショーキチ殿は『一石二鳥どころか五鳥くらいになる』トレーニングだと仰ってましたが、そういう意味で」
 俺の右腕は曲解ではなくおそらく本心でそう応えた。
「はっ……」
 残った一名のエルフは静かに震えていた。
「ムルトさん、違うんで……」
「破廉恥ですわーっ!」
 会長さんはそう叫んで、書類を机に叩きつけた……。
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