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第二十九章
鳥法規的措置
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「「トナーさん!?」」
「「マジだ! 変わんない可愛い!!」」
俺より先に反応し声を上げたのは生徒さんたちだった。大騒ぎしながら、元選手でアイドルで現ハーピィ代表チーム監督を迎える。そうか現役時代を見ているんだなこの子たち。
「トナー監督でしたか! お疲れさまです」
さっきまでハーピィ代表チームと共に周回していた筈の彼女の方を向き、俺は頭を下げる。。
「本当なら今日は監督お休みの君に言う台詞じゃなかったんだけど……。今なら本心から言えるね。お疲れさま」
笑顔と言葉の裏に棘を潜ませながらトナー監督は言った。能ある鷹は爪を隠す、出来る鳥乙女の監督もその類か。
「いやいや俺は何も。下からここまで飛んで来られたんですか?」
俺はその空気に気づかないフリをして訊ねた。
「まあね。アレだけの事を仕込んで、どんな気分で高見の見物をしていたのか知りたくなって」
とぼける俺に業を煮やしたのか、トナー監督はやや直接的な表現になってきた。
「仕込みと言えばドミニク選手のパスは見事でしたね! ストライカーは辞めてボランチに転向させるんですか?」
「君こそ前半でFWを変えたのは……」
「あのー!」
表向きはにこやかに、裏では相手チームの情報を探ろうとそれこそ水面の下で足を蹴り合う水鳥の様に戦っていた俺たちにアリスさんが挟まってきた。
「はい?」
「ご紹介頂きたいのと、今は何の話をしているのかなー? っと」
アリスさんはやや怯えながらも頑張って笑顔で問う。そうか、放ったらかしに剣呑な空気にと悪いことをしたな。
「すみませんでした。こちらはハーピィ代表チームの監督、トナーさんです」
「そうですか! 私は教師をしているアリスと申します。今日はショーキチ先生に生徒ともども試合観戦へお招きに預かりまして。はい、みんな挨拶!」
俺の言葉を聞いたアリスさんは素早く自己紹介をすると同時に背後に手を振った。
「「こんにちは!」」
目の前の光景に戸惑っていた生徒さんたちもそれに併せて頭を下げる。紹介して欲しい、と言いつつも自分で名乗って生徒さんにも挨拶させるとは彼女らしい。
「あ、はい! こんにちは!」
それを受けてトナー監督も、今度は本心からにこやかに挨拶を返す。こちらはこちらで凄い豹変っぷりだ。だがファンを大切にするこの姿勢は見習う必要があるな。
「それで、さっきの話なんですけど?」
だがアリスさんはそう言って質問をぶり返す。ああ、せっかく空気が和んだのに!
「そうそれ! このカレシ、かなりあくどいんだよー」
アリスさんや生徒さんが加わった事で方針を変えたようだ。トナー監督は俺よりも学院の皆さんへ向けて言葉を続ける。
「どんでもない音痴ばかり集めてヒドい音楽を聞かせて、私たちのメンタルをボロボロにしてっ! やり方が汚いだけじゃなくて、アートへの冒涜だよ!」
監督と言うにはやや貫禄に欠ける言い方でハーピィは訴えた。まあアリスさん達の同情を引くには有効的かもしれないが、
「あの策は効きました!」
と自己申告するのは勝負師として減点だね。
「え、そうなんですか!?」
そんな思惑を知ってか知らずかアリスさんは驚き、しかしすぐに頷く。
「道理で個性的な音楽家ばかり出てくると思いました! しかしショーキチ先生……」
と、ここで俺の顔を見て、
「面白い事を考えますね! まあテル君とビッド君が出てる辺りで想像はついていましたが!」
そう言いながら、再びワンツーパンチを俺の肩へ打ち込んできた。嘘付け普通に分かってなかっただろ!
「え!? 面白い!? どん引き案件じゃなくて?」
トナー監督は実際にその風景にどん引きしながら言う。
「ええ、面白いじゃないですか! サッカードウの対戦相手の調子を狂わせる為にここまでするなんて!」
一方のアリスさんは今度はフックを打ちながらニコニコとしている。トナー監督、完全に思惑が外れましたね……。
「(すみません、トナー監督。ドーンエルフはこういう連中で)」
何故か俺は小声で謝罪していた。うん、デイエルフさん達ならハーピィに同情していただろうけどね。ドーンエルフは騙すとか策を張り巡らすとかが大好きなんですよ。トナー監督の片親も……エルフだけど、残念ながらデイエルフの方だったよな。
「そっか……そういうのもアリなんだね……」
俺の言葉を聞いたトナー監督はそう言って俯いた。おや? 声のトーンが今までと違う。どうしたんだ?
「じゃあさ。き・み・の・ちーむ・の・じ・ゃ・く・て・ん・を・お・し・え・て?」
フクロウの様に首を捻る俺に、トナー監督が次にかけた言葉はそんなものだった。いやいや教える訳ないやん!
「ラインの上げ下げやビルドアップがまだ、特定の選手に依存しているところですね」
俺は少し考えてそう口にした。
「と・く・て・い・の・せ・ん・し・ゅ? ぐ・た・い・て・き・に・は?」
「DFの中心でもあるし、攻撃のスイッチを入れる選手でもあります。良くも悪くも彼女への信頼感が高すぎるので」
まさか教えてしまう訳にもいかないので、俺は回りくどく言葉を続ける。いや、でも教えてしまっても良いよな? トナーさんが聞いているんだし。
「えっと、凄い問題児だけど頭が良くて献身的で可愛くて……」
「だめっ! ショーキチ先生!」
そこで急に大きな衝撃が背中を襲い、俺の首に腕が回された!
「「マジだ! 変わんない可愛い!!」」
俺より先に反応し声を上げたのは生徒さんたちだった。大騒ぎしながら、元選手でアイドルで現ハーピィ代表チーム監督を迎える。そうか現役時代を見ているんだなこの子たち。
「トナー監督でしたか! お疲れさまです」
さっきまでハーピィ代表チームと共に周回していた筈の彼女の方を向き、俺は頭を下げる。。
「本当なら今日は監督お休みの君に言う台詞じゃなかったんだけど……。今なら本心から言えるね。お疲れさま」
笑顔と言葉の裏に棘を潜ませながらトナー監督は言った。能ある鷹は爪を隠す、出来る鳥乙女の監督もその類か。
「いやいや俺は何も。下からここまで飛んで来られたんですか?」
俺はその空気に気づかないフリをして訊ねた。
「まあね。アレだけの事を仕込んで、どんな気分で高見の見物をしていたのか知りたくなって」
とぼける俺に業を煮やしたのか、トナー監督はやや直接的な表現になってきた。
「仕込みと言えばドミニク選手のパスは見事でしたね! ストライカーは辞めてボランチに転向させるんですか?」
「君こそ前半でFWを変えたのは……」
「あのー!」
表向きはにこやかに、裏では相手チームの情報を探ろうとそれこそ水面の下で足を蹴り合う水鳥の様に戦っていた俺たちにアリスさんが挟まってきた。
「はい?」
「ご紹介頂きたいのと、今は何の話をしているのかなー? っと」
アリスさんはやや怯えながらも頑張って笑顔で問う。そうか、放ったらかしに剣呑な空気にと悪いことをしたな。
「すみませんでした。こちらはハーピィ代表チームの監督、トナーさんです」
「そうですか! 私は教師をしているアリスと申します。今日はショーキチ先生に生徒ともども試合観戦へお招きに預かりまして。はい、みんな挨拶!」
俺の言葉を聞いたアリスさんは素早く自己紹介をすると同時に背後に手を振った。
「「こんにちは!」」
目の前の光景に戸惑っていた生徒さんたちもそれに併せて頭を下げる。紹介して欲しい、と言いつつも自分で名乗って生徒さんにも挨拶させるとは彼女らしい。
「あ、はい! こんにちは!」
それを受けてトナー監督も、今度は本心からにこやかに挨拶を返す。こちらはこちらで凄い豹変っぷりだ。だがファンを大切にするこの姿勢は見習う必要があるな。
「それで、さっきの話なんですけど?」
だがアリスさんはそう言って質問をぶり返す。ああ、せっかく空気が和んだのに!
「そうそれ! このカレシ、かなりあくどいんだよー」
アリスさんや生徒さんが加わった事で方針を変えたようだ。トナー監督は俺よりも学院の皆さんへ向けて言葉を続ける。
「どんでもない音痴ばかり集めてヒドい音楽を聞かせて、私たちのメンタルをボロボロにしてっ! やり方が汚いだけじゃなくて、アートへの冒涜だよ!」
監督と言うにはやや貫禄に欠ける言い方でハーピィは訴えた。まあアリスさん達の同情を引くには有効的かもしれないが、
「あの策は効きました!」
と自己申告するのは勝負師として減点だね。
「え、そうなんですか!?」
そんな思惑を知ってか知らずかアリスさんは驚き、しかしすぐに頷く。
「道理で個性的な音楽家ばかり出てくると思いました! しかしショーキチ先生……」
と、ここで俺の顔を見て、
「面白い事を考えますね! まあテル君とビッド君が出てる辺りで想像はついていましたが!」
そう言いながら、再びワンツーパンチを俺の肩へ打ち込んできた。嘘付け普通に分かってなかっただろ!
「え!? 面白い!? どん引き案件じゃなくて?」
トナー監督は実際にその風景にどん引きしながら言う。
「ええ、面白いじゃないですか! サッカードウの対戦相手の調子を狂わせる為にここまでするなんて!」
一方のアリスさんは今度はフックを打ちながらニコニコとしている。トナー監督、完全に思惑が外れましたね……。
「(すみません、トナー監督。ドーンエルフはこういう連中で)」
何故か俺は小声で謝罪していた。うん、デイエルフさん達ならハーピィに同情していただろうけどね。ドーンエルフは騙すとか策を張り巡らすとかが大好きなんですよ。トナー監督の片親も……エルフだけど、残念ながらデイエルフの方だったよな。
「そっか……そういうのもアリなんだね……」
俺の言葉を聞いたトナー監督はそう言って俯いた。おや? 声のトーンが今までと違う。どうしたんだ?
「じゃあさ。き・み・の・ちーむ・の・じ・ゃ・く・て・ん・を・お・し・え・て?」
フクロウの様に首を捻る俺に、トナー監督が次にかけた言葉はそんなものだった。いやいや教える訳ないやん!
「ラインの上げ下げやビルドアップがまだ、特定の選手に依存しているところですね」
俺は少し考えてそう口にした。
「と・く・て・い・の・せ・ん・し・ゅ? ぐ・た・い・て・き・に・は?」
「DFの中心でもあるし、攻撃のスイッチを入れる選手でもあります。良くも悪くも彼女への信頼感が高すぎるので」
まさか教えてしまう訳にもいかないので、俺は回りくどく言葉を続ける。いや、でも教えてしまっても良いよな? トナーさんが聞いているんだし。
「えっと、凄い問題児だけど頭が良くて献身的で可愛くて……」
「だめっ! ショーキチ先生!」
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