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第二十七章
美人猫怪盗
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「「イカス! バード天国ーっ!」」
ファンファーレに合わせてノゾノゾさんとステフがそう叫び、まだ昼間ではあるが会場のスポットライトが一斉に彼女らへ向けられた。
「決勝ラウンドだぞ! じゃじゃーん!」
音の終わりにステフがそう付け足す。いつの間にかスタジアムのDJブースから降りてきていたダスクエルフは、これまたいつの間にかピッチ脇の例の土管の上に仁王立ちしていた。もともと小柄な彼女はそれでもノゾノゾさんとかなりの高低差がある。
「ここまで138組42種族の参加者によって激しい予選が繰り広げられていたけど、今日ここで大陸で……ある意味最強のバードが決定するよ!」
ジャイアントのお姉さんはカンペもマイクも無しにそれをスラスラと言い放ち、声をスタジアム中へ響かせる。もはやすっかりプロのMCだな。まあ参加者の数は出鱈目だけど。
「決勝ラウンドに残ったのは4組! 試合前に準決勝を行い、残った2組がハーフタイムでガチの勝負だ!」
ステフの方も声量では負けてはいない。恐らくダスクエルフの魔法で声を増幅しているのだろう。隣に座るアリスさんの目がきらりと光ったのが見えた。
「勝負って言うけど、勝ち負けはどうやってきまるのかな? ステフさん?」
ノゾノゾさんは少女の様なエルフに合わせて身を屈め問う。その際、自らの膝によってその豊かな胸が押し上げられ、男子生徒たちがざわめいた。こいつら、帰りにはアローズではなくノゾノゾさんのグッズを買って帰るな……。
それはそれとして、アローズと言えば今も後ろでアップ中である。もちろん、ハーピィチームも。本来であればこういうイベント、選手が来る前かアップ後にささっとやるモノだ――でないと練習中の選手のボールがステージに飛び込んできたり、逆にステージの演出が選手を邪魔したりする――が、鳥乙女たちにしっかり聴かせたいのでこの時間での実施となった。
これを申請した時、DSDKから何か言われるかと思ったけどすんなり通ったよ……異世界、やっぱ緩いな。
「よく聞いてくれたノゾノゾ。この勝負の勝敗を決めるのは……」
ステフはそう言いながら観客席を360度見渡し指をさっと上げ、
「おまえ等の拍手だぁ!」
その指をメインスタンドど真ん中へ向けた。
「「おおおぉ……」」
その声に観客席全体がどよめく。悔しいがステフのアジテーターとしての実力はかなりのものだ。俺はゴブリンの街での出来事――屋台街でサポーターをノせまくって、最後は裸祭りになった――を思い出していた。
「ええっ!? 私たちが審査員なの!? じゃあテルとビットの為に頑張らなくちゃーっ!」
アリスさんはそう言って立ち上がり、袖をまくりブラウスのボタンを一つ、外した。
「いやいや、彼らの出番は最後なので焦らず……」
アリスさんが脱いだら凄いことになりそうだが、俺は意志の力でその妄想と彼女の行動を止めた。
「そうなんですか?」
「ええ。彼らの試合は第二試合で、演奏者としては4番手になります。まずは第一試合の先手、彼女らからです」
俺はプログラムの画像と実際のピッチの上、両方をアリスさんへ指し示した。第一試合は「フェリダエーズ」vs「マン・ウィズ・ア・サブミッション」。第二試合が「キング・オグロヌー」vs「テル&ビッド」だ。ミュージカルをする猫、バンドをする狼、ラップをする牛、ラブソングを歌うエルフとドワーフ。なかなかの多様性だな。
「おおう……! セクシー!」
パンフレットと土管の上を見比べたアリスさんは、現れたフェリダエのバード達を見て興奮して叫んだ。彼女の言うとおり、ステージのセンターには美しい猫人族の女性が3名、色違いのレオタードを着用し背筋を伸ばして立っている。猫背とはとても言えない。
「あれ? あのチームって集団でのミュージカルじゃなかったっけ? 演目を変えてきたのかな?」
確か予選では路地裏に住む猫族の物語で、目盛りのあるモノをいろいろと並べながら歌い踊っていた筈だ。
「フェッツだー! フェッツが出たぞー!」
首を傾げる間に叫びつつ他のメンバーが出てきた。そして音楽が流れ始める。ちょっとした寸劇をやって、本編が始まるのだろう。
「あわわ! 何か始まりましたよ!」
アリスさんが俺の腕を掴んで指さす。俺は頷いて、彼女と反対側の耳にそっと耳栓を詰めた。
「街はきらめく南国の果物~」
そんな歌を歌いながら、レオタードのフェリダエ女性が走って逃げる。寸劇での説明台詞によると主役は彼女らで、フェッツという名の怪盗団らしい。周囲のキャストはそれを追いかける警備兵たち。歌い踊りながらの追い追われ、といった感じか。。
「うわー……。見る分には凄いですね……」
アリスさんはしみじみと呟く。確かに土管や看板、時にはボールパーソンまで使っての追走劇は見事だった。全員、見事な柔軟性と身体能力を備えているが、三姉妹――寸劇によると怪盗団は血縁らしい。お姉さんタイプ、気さくな美人タイプ、妹タイプと揃っている――は特に動きが滑らかで美しい。最初はドキっとしたレオタード姿も格好良く見えてくる。
「見ーつめるフェッツアイ~」
そう、俺も繰り返すが見る分には凄い。だが背後に流れる歌は壊滅的であった。初めて聴く曲なのに音程が外れているのが、何故かはっきりと分かる。そんな歌がずっと続いていた。
「あなたのハート、いただきよ!」
しかし、最後には追いかける側がヘトヘトになって地面に倒れ、最初の土管に戻った三姉妹がそう宣言して演目は終了となった。
「ああ……。確かにハートの一部はどっかへ持って行かれましたね……」
アリスさんは終わって良かった、という気持ちを隠さずに言った。
「ですね。いや見事でした」
俺は適当に返事しながら別の対象のハートを頂く事が出来たか、必死に検証していた。
ファンファーレに合わせてノゾノゾさんとステフがそう叫び、まだ昼間ではあるが会場のスポットライトが一斉に彼女らへ向けられた。
「決勝ラウンドだぞ! じゃじゃーん!」
音の終わりにステフがそう付け足す。いつの間にかスタジアムのDJブースから降りてきていたダスクエルフは、これまたいつの間にかピッチ脇の例の土管の上に仁王立ちしていた。もともと小柄な彼女はそれでもノゾノゾさんとかなりの高低差がある。
「ここまで138組42種族の参加者によって激しい予選が繰り広げられていたけど、今日ここで大陸で……ある意味最強のバードが決定するよ!」
ジャイアントのお姉さんはカンペもマイクも無しにそれをスラスラと言い放ち、声をスタジアム中へ響かせる。もはやすっかりプロのMCだな。まあ参加者の数は出鱈目だけど。
「決勝ラウンドに残ったのは4組! 試合前に準決勝を行い、残った2組がハーフタイムでガチの勝負だ!」
ステフの方も声量では負けてはいない。恐らくダスクエルフの魔法で声を増幅しているのだろう。隣に座るアリスさんの目がきらりと光ったのが見えた。
「勝負って言うけど、勝ち負けはどうやってきまるのかな? ステフさん?」
ノゾノゾさんは少女の様なエルフに合わせて身を屈め問う。その際、自らの膝によってその豊かな胸が押し上げられ、男子生徒たちがざわめいた。こいつら、帰りにはアローズではなくノゾノゾさんのグッズを買って帰るな……。
それはそれとして、アローズと言えば今も後ろでアップ中である。もちろん、ハーピィチームも。本来であればこういうイベント、選手が来る前かアップ後にささっとやるモノだ――でないと練習中の選手のボールがステージに飛び込んできたり、逆にステージの演出が選手を邪魔したりする――が、鳥乙女たちにしっかり聴かせたいのでこの時間での実施となった。
これを申請した時、DSDKから何か言われるかと思ったけどすんなり通ったよ……異世界、やっぱ緩いな。
「よく聞いてくれたノゾノゾ。この勝負の勝敗を決めるのは……」
ステフはそう言いながら観客席を360度見渡し指をさっと上げ、
「おまえ等の拍手だぁ!」
その指をメインスタンドど真ん中へ向けた。
「「おおおぉ……」」
その声に観客席全体がどよめく。悔しいがステフのアジテーターとしての実力はかなりのものだ。俺はゴブリンの街での出来事――屋台街でサポーターをノせまくって、最後は裸祭りになった――を思い出していた。
「ええっ!? 私たちが審査員なの!? じゃあテルとビットの為に頑張らなくちゃーっ!」
アリスさんはそう言って立ち上がり、袖をまくりブラウスのボタンを一つ、外した。
「いやいや、彼らの出番は最後なので焦らず……」
アリスさんが脱いだら凄いことになりそうだが、俺は意志の力でその妄想と彼女の行動を止めた。
「そうなんですか?」
「ええ。彼らの試合は第二試合で、演奏者としては4番手になります。まずは第一試合の先手、彼女らからです」
俺はプログラムの画像と実際のピッチの上、両方をアリスさんへ指し示した。第一試合は「フェリダエーズ」vs「マン・ウィズ・ア・サブミッション」。第二試合が「キング・オグロヌー」vs「テル&ビッド」だ。ミュージカルをする猫、バンドをする狼、ラップをする牛、ラブソングを歌うエルフとドワーフ。なかなかの多様性だな。
「おおう……! セクシー!」
パンフレットと土管の上を見比べたアリスさんは、現れたフェリダエのバード達を見て興奮して叫んだ。彼女の言うとおり、ステージのセンターには美しい猫人族の女性が3名、色違いのレオタードを着用し背筋を伸ばして立っている。猫背とはとても言えない。
「あれ? あのチームって集団でのミュージカルじゃなかったっけ? 演目を変えてきたのかな?」
確か予選では路地裏に住む猫族の物語で、目盛りのあるモノをいろいろと並べながら歌い踊っていた筈だ。
「フェッツだー! フェッツが出たぞー!」
首を傾げる間に叫びつつ他のメンバーが出てきた。そして音楽が流れ始める。ちょっとした寸劇をやって、本編が始まるのだろう。
「あわわ! 何か始まりましたよ!」
アリスさんが俺の腕を掴んで指さす。俺は頷いて、彼女と反対側の耳にそっと耳栓を詰めた。
「街はきらめく南国の果物~」
そんな歌を歌いながら、レオタードのフェリダエ女性が走って逃げる。寸劇での説明台詞によると主役は彼女らで、フェッツという名の怪盗団らしい。周囲のキャストはそれを追いかける警備兵たち。歌い踊りながらの追い追われ、といった感じか。。
「うわー……。見る分には凄いですね……」
アリスさんはしみじみと呟く。確かに土管や看板、時にはボールパーソンまで使っての追走劇は見事だった。全員、見事な柔軟性と身体能力を備えているが、三姉妹――寸劇によると怪盗団は血縁らしい。お姉さんタイプ、気さくな美人タイプ、妹タイプと揃っている――は特に動きが滑らかで美しい。最初はドキっとしたレオタード姿も格好良く見えてくる。
「見ーつめるフェッツアイ~」
そう、俺も繰り返すが見る分には凄い。だが背後に流れる歌は壊滅的であった。初めて聴く曲なのに音程が外れているのが、何故かはっきりと分かる。そんな歌がずっと続いていた。
「あなたのハート、いただきよ!」
しかし、最後には追いかける側がヘトヘトになって地面に倒れ、最初の土管に戻った三姉妹がそう宣言して演目は終了となった。
「ああ……。確かにハートの一部はどっかへ持って行かれましたね……」
アリスさんは終わって良かった、という気持ちを隠さずに言った。
「ですね。いや見事でした」
俺は適当に返事しながら別の対象のハートを頂く事が出来たか、必死に検証していた。
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