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第二十七章
集団観戦その3
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「「オオオ……オゥ!」」
「えっ!? 何が始まるんです!?」
ゴール裏のサポーター達がうなり声と太鼓を鳴らし、それを聞いたアリスさんと生徒さんたちが一斉に慌てだした。
「選手がウォーミングアップの為にピッチに出て来たので、それを迎える気合いの声です。ほら!」
第三次世界大戦だ! と言いたくなるのを我慢しつつ、俺は応えて指を指す。
「あ、本当だ!」
「ポリンちゃーん! レイちゃーん!」
指さす方向には実際に選手たちがおり、それに気づいた生徒さんたちが声援を送る。
「あ! こっち向いた! おーい!」
アリスさんが嬉しそうにピッチ上の教え子たちへ手を振る。その声と同時にレイさんポリンさんが頭を下げたので学院の皆さんは大騒ぎだ。
……まあ実際は入場時に慣例として行う、全ての観客へ向けたお辞儀なんだけど。
「いつもと違う顔をしていますね……」
先生は敏感に表情の差に気づいて緊張した声を漏らす。今更だが俺たちの座席はムルトさんの手配通り、アローズベンチの少し上だ。この距離ならエルフほどの視力が無い俺でも彼女らの顔は分かる。
「まあ、これから戦う訳ですから。でも程良い緊張感だと思います」
レイさんは過去、家族に良いプレイを見せる事に焦って暴走した経験があるし、ポリンさんはそもそもまだ経験が浅い。そういう意味では今回の学院生徒の招待についてはやや不安要素もあった。だが今のところ緊張し過ぎなどの悪影響は無いようだ。
試合が始まったらまた別だろうけど。
「『いくさ場で 紅色痛し 君の頬』」
アリスさんは悲痛な顔で胸をおさえながら日本語でぽつりとそう呟く。
「どうです? 季語、入ってます?」
が一転、ドヤ顔になって俺に論評を求めてきた。すみません、季語なんて専用の辞書を引くかネットで検索しないと分かりませんよ!
「ごめんなさい、季語は分かりませんけど……。アリスさんが彼女たちを気にかけている気持ちみたいなモノは伝わってきます」
俺は素直に謝った上で感想を口にした。確かに俺は過去コールセンターで日本語を叩き込まれたが、それはビジネス会話的な正確さ丁寧さで文学的詩歌的素養を求められても困る。
「ほほーう。分かりますか! やりますね!」
しかし、どうやらその感想は正解だったようだ。アリスさんはドヤ顔のまま顎に手を当てその肘で俺の二の腕を突いてくる。ビギナーズラックでたまたまクリティカルヒットが出たようだが、さっぱり分からん。感想って難しい。
「あー! WillUだーっ!」
悩む俺の思考をそんな叫びが切り裂いた。時間差でハーピィチームが入場して来たのだ。
「うわっ、うわっ、本物だー!」
「実物可愛い! 顔、小さい!」
生徒さんたちが手を取り飛び跳ねる。残念ながらその興奮はクラスメイトがピッチへ現れた時の比ではない。ハーピィチームは事実上アイドルグループWillUと同一であり、大陸全土で人気なのだ。
「え? アレはハーピィチームじゃないんですか!?」
しかしアリスさんは置いてけぼりの反応を見せ、俺を微笑ませる。たぶん学院の生徒達がファッションを真似したりダンスをコピーしたショート動画を魔法の鏡で撮ったりしているのを見てるだろうけど、分かってないんだろうな。ティーンの流行りについていけない学校の先生というのはどこでも一緒か。
「ハーピィチームはサッカードウの選手と並行してアイドル活動もやってるんですよ。若い子に人気ですよ」
俺はいろいろ語りたくなる気持ちをグッと抑えて簡単に説明する。
「え!? アイドルと兼業ってこと? 大変じゃないですか!?」
それを聞いたアリスさんは目を大きく見開いて言う。
「大変でしょうね。まあ地方巡業とアウェイの試合を上手く噛み合わせたり工夫しているとは思います」
と言うか彼女の教え子、レイさんポリンさんも学生とサッカードウ選手の兼業なんだけどね!
「そっかー。じゃあ私も教師とアイドルの兼業とかできそうかな? うっふーん!」
現役女教師のなんとか、か……。やらしい産業の方で聞きそうだな。と密かに考える俺の横でアリスさんは身をクネらせ、投げキッスを送ってきた。
「いや、無理じゃないですかね」
「もう! 照れちゃって!」
即答する俺の肩をアリスさんがジャブで叩く。いや今の俺の言葉に照れが含まれていたか? 随分と都合の良い耳してるな。
「先生、何を話しているんですか?」
と、ジャブ二つストレート一つのコンビネーションで俺の肩を打ち続ける教師に、傍らの生徒――たぶんさっきのキドニー君だ――が問いかけた。
「え? あ、ごめん、完全に無意識で日本語で話してたわー」
アリスさんはすぐさまエルフ語に切り替えて返す。まあ俳句からの流れで日本語だったのは仕方ないが。答え方が懐かしい地獄のミ○ワ或いはインテル在籍時の長友選手――TV番組でイタリアのレストランで食事していて、具について聞かれ咄嗟にイタリア語で返してしまい「あーイタリア語かー」と言った――だ。
「ショーキチ先生がね。『アリス先生は可愛いから、ハーピィみたいにアイドル兼業できますよ』って言ってきたのよー」
おい待てそんな事は言ってないぞ! 都合の良い耳だな二回目!
「そうなんすか。まあイチャつくのもほどほどに」
「え? ショーキチ先生が私にメロメロに見える!? やだー!」
「げふ!」
生徒を指導するどころか生徒に指導、しかも極めて正当な指摘をされた先生は、しかし言われた内容とパンチの軌道を変えてキドニー君の背中にフックを打ち込んだ。
うわ背中打ち痛そう……。
「さあ! いよいよお待ちかねー!」
もはやアリスさんの都合の良い耳にツッコミは入れまい、と決意する俺の方の耳に、ノゾノゾさんの元気な声が飛び込んできた。
「え!? 次は何が始まるんです?」
「大惨事世界大戦だ」
今度は我慢せず、意味だけ少し変えて応える。いよいよバード天国が始まるようだ。ハーピィ達とアリスさんよ! その耳をしっかりと傾けて聴くがよい!
くくく……。
「えっ!? 何が始まるんです!?」
ゴール裏のサポーター達がうなり声と太鼓を鳴らし、それを聞いたアリスさんと生徒さんたちが一斉に慌てだした。
「選手がウォーミングアップの為にピッチに出て来たので、それを迎える気合いの声です。ほら!」
第三次世界大戦だ! と言いたくなるのを我慢しつつ、俺は応えて指を指す。
「あ、本当だ!」
「ポリンちゃーん! レイちゃーん!」
指さす方向には実際に選手たちがおり、それに気づいた生徒さんたちが声援を送る。
「あ! こっち向いた! おーい!」
アリスさんが嬉しそうにピッチ上の教え子たちへ手を振る。その声と同時にレイさんポリンさんが頭を下げたので学院の皆さんは大騒ぎだ。
……まあ実際は入場時に慣例として行う、全ての観客へ向けたお辞儀なんだけど。
「いつもと違う顔をしていますね……」
先生は敏感に表情の差に気づいて緊張した声を漏らす。今更だが俺たちの座席はムルトさんの手配通り、アローズベンチの少し上だ。この距離ならエルフほどの視力が無い俺でも彼女らの顔は分かる。
「まあ、これから戦う訳ですから。でも程良い緊張感だと思います」
レイさんは過去、家族に良いプレイを見せる事に焦って暴走した経験があるし、ポリンさんはそもそもまだ経験が浅い。そういう意味では今回の学院生徒の招待についてはやや不安要素もあった。だが今のところ緊張し過ぎなどの悪影響は無いようだ。
試合が始まったらまた別だろうけど。
「『いくさ場で 紅色痛し 君の頬』」
アリスさんは悲痛な顔で胸をおさえながら日本語でぽつりとそう呟く。
「どうです? 季語、入ってます?」
が一転、ドヤ顔になって俺に論評を求めてきた。すみません、季語なんて専用の辞書を引くかネットで検索しないと分かりませんよ!
「ごめんなさい、季語は分かりませんけど……。アリスさんが彼女たちを気にかけている気持ちみたいなモノは伝わってきます」
俺は素直に謝った上で感想を口にした。確かに俺は過去コールセンターで日本語を叩き込まれたが、それはビジネス会話的な正確さ丁寧さで文学的詩歌的素養を求められても困る。
「ほほーう。分かりますか! やりますね!」
しかし、どうやらその感想は正解だったようだ。アリスさんはドヤ顔のまま顎に手を当てその肘で俺の二の腕を突いてくる。ビギナーズラックでたまたまクリティカルヒットが出たようだが、さっぱり分からん。感想って難しい。
「あー! WillUだーっ!」
悩む俺の思考をそんな叫びが切り裂いた。時間差でハーピィチームが入場して来たのだ。
「うわっ、うわっ、本物だー!」
「実物可愛い! 顔、小さい!」
生徒さんたちが手を取り飛び跳ねる。残念ながらその興奮はクラスメイトがピッチへ現れた時の比ではない。ハーピィチームは事実上アイドルグループWillUと同一であり、大陸全土で人気なのだ。
「え? アレはハーピィチームじゃないんですか!?」
しかしアリスさんは置いてけぼりの反応を見せ、俺を微笑ませる。たぶん学院の生徒達がファッションを真似したりダンスをコピーしたショート動画を魔法の鏡で撮ったりしているのを見てるだろうけど、分かってないんだろうな。ティーンの流行りについていけない学校の先生というのはどこでも一緒か。
「ハーピィチームはサッカードウの選手と並行してアイドル活動もやってるんですよ。若い子に人気ですよ」
俺はいろいろ語りたくなる気持ちをグッと抑えて簡単に説明する。
「え!? アイドルと兼業ってこと? 大変じゃないですか!?」
それを聞いたアリスさんは目を大きく見開いて言う。
「大変でしょうね。まあ地方巡業とアウェイの試合を上手く噛み合わせたり工夫しているとは思います」
と言うか彼女の教え子、レイさんポリンさんも学生とサッカードウ選手の兼業なんだけどね!
「そっかー。じゃあ私も教師とアイドルの兼業とかできそうかな? うっふーん!」
現役女教師のなんとか、か……。やらしい産業の方で聞きそうだな。と密かに考える俺の横でアリスさんは身をクネらせ、投げキッスを送ってきた。
「いや、無理じゃないですかね」
「もう! 照れちゃって!」
即答する俺の肩をアリスさんがジャブで叩く。いや今の俺の言葉に照れが含まれていたか? 随分と都合の良い耳してるな。
「先生、何を話しているんですか?」
と、ジャブ二つストレート一つのコンビネーションで俺の肩を打ち続ける教師に、傍らの生徒――たぶんさっきのキドニー君だ――が問いかけた。
「え? あ、ごめん、完全に無意識で日本語で話してたわー」
アリスさんはすぐさまエルフ語に切り替えて返す。まあ俳句からの流れで日本語だったのは仕方ないが。答え方が懐かしい地獄のミ○ワ或いはインテル在籍時の長友選手――TV番組でイタリアのレストランで食事していて、具について聞かれ咄嗟にイタリア語で返してしまい「あーイタリア語かー」と言った――だ。
「ショーキチ先生がね。『アリス先生は可愛いから、ハーピィみたいにアイドル兼業できますよ』って言ってきたのよー」
おい待てそんな事は言ってないぞ! 都合の良い耳だな二回目!
「そうなんすか。まあイチャつくのもほどほどに」
「え? ショーキチ先生が私にメロメロに見える!? やだー!」
「げふ!」
生徒を指導するどころか生徒に指導、しかも極めて正当な指摘をされた先生は、しかし言われた内容とパンチの軌道を変えてキドニー君の背中にフックを打ち込んだ。
うわ背中打ち痛そう……。
「さあ! いよいよお待ちかねー!」
もはやアリスさんの都合の良い耳にツッコミは入れまい、と決意する俺の方の耳に、ノゾノゾさんの元気な声が飛び込んできた。
「え!? 次は何が始まるんです?」
「大惨事世界大戦だ」
今度は我慢せず、意味だけ少し変えて応える。いよいよバード天国が始まるようだ。ハーピィ達とアリスさんよ! その耳をしっかりと傾けて聴くがよい!
くくく……。
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