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第二十六章
ヘイ! イーソー!
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その後の練習はそれなりに成果のあるモノとなった。とはいえ劇的にリーシャさんとレイさんのコンビネーションが――あとついでに言うと仲も――良くなった訳ではない。だが4名がローテーションでポジションを変える間にリーシャ&レイのFWコンビになるパターンがあり、その時はアローズ最速の2名へダリオさんポリンさんがパスを送るという形が恐ろしくハマったのだ。
「シャマー抜きじゃアレ抑えるの無理だよ」
とはその2名と同程度に足が速いルーナさんの談だ。
あのハーフエルフにそこまで言わせるとはかなりのモノだ。と満足して練習を終了し、俺はいそいそと食堂へ向かった。
「『イカス! バード天国! ロード・トゥ・リーブススタジアム』はっじまるよー!」
俺が到着したと同時に食堂の大画面モニターの中でノゾノゾさんがそう叫び番組が始まった。ハーピィ戦の前座とHTショーで行われる歌合戦、その予選が今晩おこなわれるのだ。
「この番組はエルフ王家、ポラン商会、エエアックス、LDH、スワッグステップほかご覧のスポンサーの提供でお送りしまーす!」
今日もへそ出しチューブトップに超ミニスカートという露出度の高い服装でDJが提供を読み上げCMへ入る。今は都内某所のスタジオ内なので魔法のアイテムで身長を縮めているが、ノゾノゾさんは炎と風の巨人のハーフだ。薄着をしていても風邪を引かないし痴漢されてもワンパンで撃退できる。
「あ、CMの間に飯を取って来ようかな?」
忙しい我が身はマルチタスクが常態だ。今晩はここで食事を取りながら番組をチェックしつつ様々な書類仕事をこなす予定だった。CMを見ないのはスポンサーに申し訳ないが、お許し願いたい。だいたい把握しているし。
例えばエルフ王家はスタジアムと今日の会場の所有者、ポラン商会はイベント屋さんで舞台設営、エエアックスは機材に詳しいドワーフの、LDHはラブ・ドリーム・ハーピィというダンスに強いハーピィの音楽レーベル、ご存じスワッグステップは番組構成、と。
ね? ちゃんと覚えているでしょ?
「しかしまあ、一つのイベントにも色んな業者が関係するもんだよな。そりゃ何とか制作委員会とか作る訳だよ」
俺はしみじみと呟きながらビュッフェの方へ歩き、トレーを手に取る。そうそう、食事の方も制作委員会並みに多種多様に、バランスよくとらなきゃな!
「おっ? オタ君じゃん! ちゃんと食べてる?」
そこへ、減った料理の補充にナギサさんがやってきて朗らかに俺に話しかけた。オーク代表との勝負に勝って俺が引き抜いた彼女はハーフオークのコックさんで、仕事時間の大半は獰猛な豚面とコインを指で潰せそうな筋肉を見せつけている。
「はっはい! 残さず食べます! あとオタ君じゃなくて監督です……」
故に、朗らかと言っても顔が怖い。もしフードロスでも出したらお前を食べてしまうぞ? という迫力が出ている。
「ははっ、そうじゃないよ。残さないのも大事だけど、バランスよく食べなきゃ!」
俺のおびえ声での返事を笑ったナギサさんが、エプロンを外しながらウインクを送ってくる。彼女はこんな見かけではあるがギャルである。しかも全体的に黒いので黒ギャル。黒豚と言うと美味しそうだが失礼かもしれない。だがそれだけでなく……
「よし! あーしが食べさせたげる!」
エプロンを脱ぎ捨てウインクをもう一度すると、彼女の姿はムキムキのマッチョ女オークから、肉感的かつかなり美形な人間の女性に変わった。
「え、いや、要りませんしなんで変身するんですか!?」
彼女はコックでもあり魔法少女でもあった。と言うか実はごつい姿の方がオーク族に馴染む為の変身後であり、こちらの方が本来の姿らしい。
「えー! オタ君、こーいうのが好きっしょ? さ、座ろっ!」
ナギサさんはデマを吐きながら俺の手を引きテーブルへ引っ張って行く。その後ろ姿、さっきまでは
「ムキッ、ムキッ!」
だった擬音が
「ムチッ、ムチッ!」
に変わってしかも末尾にハートマークがついてそうですらある。
……うん、ごめん。デマじゃないです。オタクに優しいギャルを好きでない訳なんてありません。
「こんなことをしている暇はあるんですか!?」
せめてもの抵抗として俺は彼女の職業倫理に訴えかける。
「確かにちょーっと忙しいかも。ホノカはハイパーオークモードで八面六臂みたいな?」
ナギサさんは相棒の事を思い出してゲラゲラと笑った。ホノカさんはナギサさんとほぼ同じ素性で、ただ色が違う。彼女の方は白豚で変身しても白ギャルだ。
この二人が揃うとブヒキュアというユニットになり、料理だけでなく子供の相手――主に普及部として様々な地方へ赴き、子供にサッカードウや集団行動や、ただ単に身体を動かす楽しみを教えている――にも八面六臂の活躍をしているのだ。
ってナギサさんよく八面六臂みたいな単語知ってたな!? ギャルが漢字の多い言葉を使うのもオタク心をくすぐるやつやんけ! というか翻訳アミュレットの仕様もどうなってんの!?
「でもそれ誰のせいっけ?」
「……俺です。すみません」
見事なカウンターを喰らって俺は頭を下げた。彼女たちが忙しいのは、この食堂の料理長であるラビンさんに俺が休暇を与えたからだ。あのハーフミノタウロスさんはザックコーチの奥様でもあり、どうせなら夫婦揃って休んで頂こうと画策した結果がこれである。
「じゃあいっこくらい、あーしのいうこときいてくれてもいいじゃんね? はーい、あーん!」
ナギサさんはそう言いながら俺を座らせ、料理を一つスプーンで掬って俺の口へ運んだ。この一連の鮮やかなファーストブレイクに、さしもの俺も脱帽するしかなかった。
「分かりましたよ。でも番組見ながらなのは許して下さい。あーん」
俺はそう条件を出し上を向いて口を開いた。ちょうどその視線の先のモニターの中で、CMも終わりバード天国が始まってしまっていた。
「シャマー抜きじゃアレ抑えるの無理だよ」
とはその2名と同程度に足が速いルーナさんの談だ。
あのハーフエルフにそこまで言わせるとはかなりのモノだ。と満足して練習を終了し、俺はいそいそと食堂へ向かった。
「『イカス! バード天国! ロード・トゥ・リーブススタジアム』はっじまるよー!」
俺が到着したと同時に食堂の大画面モニターの中でノゾノゾさんがそう叫び番組が始まった。ハーピィ戦の前座とHTショーで行われる歌合戦、その予選が今晩おこなわれるのだ。
「この番組はエルフ王家、ポラン商会、エエアックス、LDH、スワッグステップほかご覧のスポンサーの提供でお送りしまーす!」
今日もへそ出しチューブトップに超ミニスカートという露出度の高い服装でDJが提供を読み上げCMへ入る。今は都内某所のスタジオ内なので魔法のアイテムで身長を縮めているが、ノゾノゾさんは炎と風の巨人のハーフだ。薄着をしていても風邪を引かないし痴漢されてもワンパンで撃退できる。
「あ、CMの間に飯を取って来ようかな?」
忙しい我が身はマルチタスクが常態だ。今晩はここで食事を取りながら番組をチェックしつつ様々な書類仕事をこなす予定だった。CMを見ないのはスポンサーに申し訳ないが、お許し願いたい。だいたい把握しているし。
例えばエルフ王家はスタジアムと今日の会場の所有者、ポラン商会はイベント屋さんで舞台設営、エエアックスは機材に詳しいドワーフの、LDHはラブ・ドリーム・ハーピィというダンスに強いハーピィの音楽レーベル、ご存じスワッグステップは番組構成、と。
ね? ちゃんと覚えているでしょ?
「しかしまあ、一つのイベントにも色んな業者が関係するもんだよな。そりゃ何とか制作委員会とか作る訳だよ」
俺はしみじみと呟きながらビュッフェの方へ歩き、トレーを手に取る。そうそう、食事の方も制作委員会並みに多種多様に、バランスよくとらなきゃな!
「おっ? オタ君じゃん! ちゃんと食べてる?」
そこへ、減った料理の補充にナギサさんがやってきて朗らかに俺に話しかけた。オーク代表との勝負に勝って俺が引き抜いた彼女はハーフオークのコックさんで、仕事時間の大半は獰猛な豚面とコインを指で潰せそうな筋肉を見せつけている。
「はっはい! 残さず食べます! あとオタ君じゃなくて監督です……」
故に、朗らかと言っても顔が怖い。もしフードロスでも出したらお前を食べてしまうぞ? という迫力が出ている。
「ははっ、そうじゃないよ。残さないのも大事だけど、バランスよく食べなきゃ!」
俺のおびえ声での返事を笑ったナギサさんが、エプロンを外しながらウインクを送ってくる。彼女はこんな見かけではあるがギャルである。しかも全体的に黒いので黒ギャル。黒豚と言うと美味しそうだが失礼かもしれない。だがそれだけでなく……
「よし! あーしが食べさせたげる!」
エプロンを脱ぎ捨てウインクをもう一度すると、彼女の姿はムキムキのマッチョ女オークから、肉感的かつかなり美形な人間の女性に変わった。
「え、いや、要りませんしなんで変身するんですか!?」
彼女はコックでもあり魔法少女でもあった。と言うか実はごつい姿の方がオーク族に馴染む為の変身後であり、こちらの方が本来の姿らしい。
「えー! オタ君、こーいうのが好きっしょ? さ、座ろっ!」
ナギサさんはデマを吐きながら俺の手を引きテーブルへ引っ張って行く。その後ろ姿、さっきまでは
「ムキッ、ムキッ!」
だった擬音が
「ムチッ、ムチッ!」
に変わってしかも末尾にハートマークがついてそうですらある。
……うん、ごめん。デマじゃないです。オタクに優しいギャルを好きでない訳なんてありません。
「こんなことをしている暇はあるんですか!?」
せめてもの抵抗として俺は彼女の職業倫理に訴えかける。
「確かにちょーっと忙しいかも。ホノカはハイパーオークモードで八面六臂みたいな?」
ナギサさんは相棒の事を思い出してゲラゲラと笑った。ホノカさんはナギサさんとほぼ同じ素性で、ただ色が違う。彼女の方は白豚で変身しても白ギャルだ。
この二人が揃うとブヒキュアというユニットになり、料理だけでなく子供の相手――主に普及部として様々な地方へ赴き、子供にサッカードウや集団行動や、ただ単に身体を動かす楽しみを教えている――にも八面六臂の活躍をしているのだ。
ってナギサさんよく八面六臂みたいな単語知ってたな!? ギャルが漢字の多い言葉を使うのもオタク心をくすぐるやつやんけ! というか翻訳アミュレットの仕様もどうなってんの!?
「でもそれ誰のせいっけ?」
「……俺です。すみません」
見事なカウンターを喰らって俺は頭を下げた。彼女たちが忙しいのは、この食堂の料理長であるラビンさんに俺が休暇を与えたからだ。あのハーフミノタウロスさんはザックコーチの奥様でもあり、どうせなら夫婦揃って休んで頂こうと画策した結果がこれである。
「じゃあいっこくらい、あーしのいうこときいてくれてもいいじゃんね? はーい、あーん!」
ナギサさんはそう言いながら俺を座らせ、料理を一つスプーンで掬って俺の口へ運んだ。この一連の鮮やかなファーストブレイクに、さしもの俺も脱帽するしかなかった。
「分かりましたよ。でも番組見ながらなのは許して下さい。あーん」
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