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第二十六章
死にゆくまま……
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手紙はDSDKの規律委員会からのものでレッドカードを受けた選手、いや今回は監督こと俺の処分を通知するものだった。一発レッドを貰った悪い子がいたら毎回委員会が開かれ、どんなお仕置きをするかを決める。てのはタッキさんの件でお馴染みだが、まさか自分の身に起きるとはね。
と、騒いではみたものの、俺の出場停止は1試合で済んだ。まあ乱暴な行為とか審判の権威に逆らうとかではなかったからか。
問題はそれがハーピィ戦という事だった。普通に考えれば俺がスタジアムの関係者席などに座って遠隔的に指示を行う――もちろん例によって無線もなければ魔法通信もできないが、ボードに指示を書いて伝達する手段はこれまでもやってきたので問題ない――だけのことだが、今回はそれの事前打ち合わせがあまりできない。コーチ陣が休みを取っているからだ。
「たぶん前日の正午までにはみんな帰って来るので、そこで伝えてほぼぶっつけ本番でその体制になるんですよ」
以上の事をかいつまんで話し、俺は彼女の反応を待った。
「それで、ショーちゃんは私にアシスタントとしてベンチに座って欲しい訳ねー?」
医務室のベッドに横たわり上体を起こしたシャマーさんは、そう言いながら自分の肩付近の髪を指でくるくると回した。
「ええ。DFラインにはムルトさんが復帰しますしパリスさんも控えに置けます。だからシャマーさんには伝達の補佐とかサイドラインからDF陣への声かけとかをして欲しいんですが……」
俺はそこで言葉と手を止め、周囲を見渡して自分の眉間を揉んだ。なかなかに頭が痛い。
「どうしたのショーちゃん、頭痛? 何か飲む? ここなら何でもあるからぐいっ、といっちゃってー」
「いや、ここは酒場じゃないんですが」
バーのママみたいな事を言うシャマーさんに俺はため息混じりに言う。確かにここ、メディカルルームには何でもある。クラブハウスを建設する時に俺が最も重視した設備の一つで、医術魔術の双方の粋をつくした治療装置にたくさんのベッド、マッサージ道具、リハビリ道具、薬品、そして腕利きの治療士などが揃っている。
ただ今はもう夜で、選手達もスタッフも練習後のケアを終えて誰もいない。最後にパリスさんが頭部のチェックを受けて帰ってからは二人きりだ。
いや別にそれを狙ってこんな時間にシャマーさんのお見舞いへ来た訳ではない。朝、ムルトさんと話してそのあと普通に練習を指導して、明日開催のバード天国予選番組の打ち合わせをして学院の生徒招待の手配をして……と忙しく動き回った結果がこれだ。
「明日やろうはバカヤロー」
という某サッカー選手の本のタイトルにもなった名言もある。その日の間にシャマーさんの元を訪れた行動力の方を褒めて欲しい。
まあ正直、彼女と二人になるのも不安だが。
「あとそれなんですけど」
それはそれとして。何でもある部屋に本来なかった筈のモノがあるので、俺は頭が痛かった。それはベッドで足首に治療効果のある魔法の光を受けている病院着のシャマーさん……の脇にあるサイドテーブル、その上の果物の乗った駕籠、ベッド付近を囲めるカーテン等であった。
「これ? ゴルルグ族の医療室で見たのを真似して揃えたのー! いたしちゃう時に隠せていいかなー? って」
「いやその髪、何なんですか!?」
彼女の意味深な『いたしちゃう』にわざと反応せず、俺はシャマーさんの髪を指さした。本来そこまで長くない筈の髪をまとめて横で緩く括っている髪型を、だ。ルーズサイドテールだっけ?
「こっち? あーこれはステフの助言でやってるのよー。『ショーキチがその気になるからやっとけ』って言われてエクステつけてみたのだ。どう? その気になったー?」
シャマーさんはそう言いながら髪の中に指を走らせ、素早く付け髪を脱着して見せ笑った。ごめんねシャマーさん、ステフが言う『その気になる』のは『いかにも病院へお見舞いへ行った気分』ってやつの方だよ?
と言うかシャマーさんもステフも馬鹿なのっ!?
「あのね。そもそもその髪型は、長い髪の女性が入院生活で便利だからするものなんですよ。背中で挟んで痛くなる事がないしお風呂に入れなくても最悪、洗面台で洗えますから」
実のところ裏では『アニメ等でもうすぐ死ぬ母親がする髪型』と話題になったやつだ。ステフがどこまで知っているかは不明だが、シャマーさんがその辺りの機微を知らないのは確実だろう。
「へーそうなの?」
「ええ。俺の母もしていましたし。だからお洒落とかじゃないんですよ」
「えっ!? ショーちゃんのママって確か……」
驚くシャマーさんにそう説明すると、彼女は絶句して俯いてしまった。他者を驚かせるのが好きだが実際は驚かされるも大好きな、このドーンエルフにしては珍しい。でも頑張ってお洒落したつもりなのに違った、となったら悲しいよな。彼女も女の子なんだし。
「あ、でも髪が長いシャマーさんも新鮮と言うか何と言うか……素敵ですよ?」
あまりにもショックを受けているようなのでフォローを口走る。一般的に言って髪が長いのはデイエルフ達で、黒い長髪を靡かせ疾走するイメージが印象的だ。一方、ドーンエルフ達はそこまで長くなく個性的な髪型で、暖色寄りの様々な色の髪が魔法の波動を受けて波打つという感じ。
なのでシャマーさんが長髪でしかも静かに腰掛けているという姿は、いつもと違ってお淑やかで悪くなかった。
「うん……」
しかしシャマーさんは俺が口走ってしまった内容にもあまり反応せず、つけ髪を取り外して枕の裏へ仕舞う。ステフに騙された事がそんなにショックだったのか?
「あ、どうせなら入院ごっこでも続けますか? 俺、果物剥きますから!」
女の子なら甘いものを食わせれば一発で気分が治るだろう。ユイノさんなんか特にそうだし!
「お、ナイフもあるじゃん! 再現度高いっすねー!」
俺は駕籠の脇に果物ナイフを発見し、手頃な果実を手に取って口と手を動かし始めた。
と、騒いではみたものの、俺の出場停止は1試合で済んだ。まあ乱暴な行為とか審判の権威に逆らうとかではなかったからか。
問題はそれがハーピィ戦という事だった。普通に考えれば俺がスタジアムの関係者席などに座って遠隔的に指示を行う――もちろん例によって無線もなければ魔法通信もできないが、ボードに指示を書いて伝達する手段はこれまでもやってきたので問題ない――だけのことだが、今回はそれの事前打ち合わせがあまりできない。コーチ陣が休みを取っているからだ。
「たぶん前日の正午までにはみんな帰って来るので、そこで伝えてほぼぶっつけ本番でその体制になるんですよ」
以上の事をかいつまんで話し、俺は彼女の反応を待った。
「それで、ショーちゃんは私にアシスタントとしてベンチに座って欲しい訳ねー?」
医務室のベッドに横たわり上体を起こしたシャマーさんは、そう言いながら自分の肩付近の髪を指でくるくると回した。
「ええ。DFラインにはムルトさんが復帰しますしパリスさんも控えに置けます。だからシャマーさんには伝達の補佐とかサイドラインからDF陣への声かけとかをして欲しいんですが……」
俺はそこで言葉と手を止め、周囲を見渡して自分の眉間を揉んだ。なかなかに頭が痛い。
「どうしたのショーちゃん、頭痛? 何か飲む? ここなら何でもあるからぐいっ、といっちゃってー」
「いや、ここは酒場じゃないんですが」
バーのママみたいな事を言うシャマーさんに俺はため息混じりに言う。確かにここ、メディカルルームには何でもある。クラブハウスを建設する時に俺が最も重視した設備の一つで、医術魔術の双方の粋をつくした治療装置にたくさんのベッド、マッサージ道具、リハビリ道具、薬品、そして腕利きの治療士などが揃っている。
ただ今はもう夜で、選手達もスタッフも練習後のケアを終えて誰もいない。最後にパリスさんが頭部のチェックを受けて帰ってからは二人きりだ。
いや別にそれを狙ってこんな時間にシャマーさんのお見舞いへ来た訳ではない。朝、ムルトさんと話してそのあと普通に練習を指導して、明日開催のバード天国予選番組の打ち合わせをして学院の生徒招待の手配をして……と忙しく動き回った結果がこれだ。
「明日やろうはバカヤロー」
という某サッカー選手の本のタイトルにもなった名言もある。その日の間にシャマーさんの元を訪れた行動力の方を褒めて欲しい。
まあ正直、彼女と二人になるのも不安だが。
「あとそれなんですけど」
それはそれとして。何でもある部屋に本来なかった筈のモノがあるので、俺は頭が痛かった。それはベッドで足首に治療効果のある魔法の光を受けている病院着のシャマーさん……の脇にあるサイドテーブル、その上の果物の乗った駕籠、ベッド付近を囲めるカーテン等であった。
「これ? ゴルルグ族の医療室で見たのを真似して揃えたのー! いたしちゃう時に隠せていいかなー? って」
「いやその髪、何なんですか!?」
彼女の意味深な『いたしちゃう』にわざと反応せず、俺はシャマーさんの髪を指さした。本来そこまで長くない筈の髪をまとめて横で緩く括っている髪型を、だ。ルーズサイドテールだっけ?
「こっち? あーこれはステフの助言でやってるのよー。『ショーキチがその気になるからやっとけ』って言われてエクステつけてみたのだ。どう? その気になったー?」
シャマーさんはそう言いながら髪の中に指を走らせ、素早く付け髪を脱着して見せ笑った。ごめんねシャマーさん、ステフが言う『その気になる』のは『いかにも病院へお見舞いへ行った気分』ってやつの方だよ?
と言うかシャマーさんもステフも馬鹿なのっ!?
「あのね。そもそもその髪型は、長い髪の女性が入院生活で便利だからするものなんですよ。背中で挟んで痛くなる事がないしお風呂に入れなくても最悪、洗面台で洗えますから」
実のところ裏では『アニメ等でもうすぐ死ぬ母親がする髪型』と話題になったやつだ。ステフがどこまで知っているかは不明だが、シャマーさんがその辺りの機微を知らないのは確実だろう。
「へーそうなの?」
「ええ。俺の母もしていましたし。だからお洒落とかじゃないんですよ」
「えっ!? ショーちゃんのママって確か……」
驚くシャマーさんにそう説明すると、彼女は絶句して俯いてしまった。他者を驚かせるのが好きだが実際は驚かされるも大好きな、このドーンエルフにしては珍しい。でも頑張ってお洒落したつもりなのに違った、となったら悲しいよな。彼女も女の子なんだし。
「あ、でも髪が長いシャマーさんも新鮮と言うか何と言うか……素敵ですよ?」
あまりにもショックを受けているようなのでフォローを口走る。一般的に言って髪が長いのはデイエルフ達で、黒い長髪を靡かせ疾走するイメージが印象的だ。一方、ドーンエルフ達はそこまで長くなく個性的な髪型で、暖色寄りの様々な色の髪が魔法の波動を受けて波打つという感じ。
なのでシャマーさんが長髪でしかも静かに腰掛けているという姿は、いつもと違ってお淑やかで悪くなかった。
「うん……」
しかしシャマーさんは俺が口走ってしまった内容にもあまり反応せず、つけ髪を取り外して枕の裏へ仕舞う。ステフに騙された事がそんなにショックだったのか?
「あ、どうせなら入院ごっこでも続けますか? 俺、果物剥きますから!」
女の子なら甘いものを食わせれば一発で気分が治るだろう。ユイノさんなんか特にそうだし!
「お、ナイフもあるじゃん! 再現度高いっすねー!」
俺は駕籠の脇に果物ナイフを発見し、手頃な果実を手に取って口と手を動かし始めた。
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