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第二十六章
耳心地悪し
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「うーん。きつい」
家に一人の俺は誰にはばかる事無く呟く。ハーピィ戦の試合前とハーフタイムに素人バンド、歌手の歌合戦を行う。……というのを建前にし、裏では鳥乙女チームに音痴の下手な音楽を聞かせ調子を狂わせる。それが今回の作戦だ。
そしてその主旨に従いステフがある程度、絞ってくれた候補者達は揃いも揃って歌や演奏がド下手で正直、一日働いて疲れた身体と心にはなかなか厳しいものがあった。
「なんかイメージ変わるなあ」
ゆったりとした衣装を纏い竪琴を奏でる美しいエルフ、足並み身振りを揃え朗々と大合唱するドワーフ達、遠吠えを重ねる狼人間ガンス族に羽をこすり合わせ音を出す昆虫人間インセクター。そして本家、歌い空を舞う鳥人間ハーピィ。
ファンタジー世界の住人たちが紡ぎ出す音楽と聞いてイメージするものが確かにそこにはあった。但しとんでもなく低レベルのが。
「でもまあゲームとか漫画とかアニメとかが取り上げるのは主に上澄みだもんな」
俺だって
「お前は日本人なんだからカラテもできてスシも握れるだろう?」
と外国人さんに決めつけられたら困るし。いや、カラテというか武術はタッキさんに習い出しているが。
あっ! そう言えばナリンさんもタッキ空手教室に通うとかなんとか言ってたな。勉強熱心な女性だ。俺も見習うようにしないと。
「そういう意味では上澄みだけじゃなく底辺にも目をやる良い機会だわ」
俺は自画自賛しながらテープオーディション画面に集中を戻す。考えてみればこの世界でもっとも音痴な音楽家を集めるというのは希有な出来事だ。もちろん、企画力の及ぶ範囲――呼びかけたのはエルフ王国からだけで、期間もゴルルグ族戦の数日前からという短さだ――ではあるが。
「あ! テル君とビッド君もいるじゃん!」
ちょうどその画面にエルフとドワーフのデコボココンビを見かけて叫ぶ。彼らはレイさんと同じ学院の1学年上の先輩にして、彼女に恋する少年のコンビだ。俺が遭遇したのは一度だけだが、校長さんによると休み時間の度に後輩の教室へ押し掛けて自作のあの歌を捧げているらしい。
「逸材だからオーディション抜きの特別シードにするんじゃなかったのかな?」
確かあの時はステフも彼らに会ってその才能? を見抜き、バード天国――今回の歌合戦のタイトルだ。名は体を表さないというか実際は地獄のような歌唱力のバードが集まる――への出場を打診した筈だが。
「ステフのヤツ、こういう所だけは真面目だからなあ。依怙贔屓はナシ、とか言い出してオーディションへ回したのか?」
考えを口に出しつつ映像と音声を見守る。俺は正直このコンビの事が結構、好きだ。女の子にモテたくて音楽をやって、気を引こうと甲斐甲斐しく通うも上手くいかない……。高校時代の自分と友人たちを思い出してくすぐったく温かい気持ちになる。
「うん、良いじゃんこの子ら」
画面の中の彼らの歌と演奏は相変わらず下手なままではあったが、熱さと味みたいなものも確かにあった。エルフとドワーフという種族混合バンドというのも良い。ハーピィの次に対戦するノートリアスみたいだ。
更に言えば、彼らは『地元の子』という優位もある。サッカーでもチーム所在地産まれやユース出身の選手は――ここが必ずしも一致しないのは、ユースには越境して他府県のチームに所属する子もいるからだ。種族とチームがイコールのこの世界ではあまり関係無いが、レイさんたちナイトエルフはそんな感覚かもしれない――サポーターから贔屓されがちなのと同じ様に、テル君とビッド君も都のエルフたちの大声援を受ける可能性がある。
いや、もしかしたら学院から応援バスで乗り付けて、生徒総出で声援を送ったりして?
「うむ。それならいっそ招待するか?」
上級生コンビが準決勝まで勝ち残るかは不確かだが、レイさんとポリンさんがサッカードウの試合へ出るのはほぼ確定だ。ならばこちらから正式に手配して無料招待したらどうだろう?
学生選手コンビは友達からの応援に燃えるだろうし、もしいればテル君とビッド君も張り切る。日頃スカラーシップ制度で協力してくれている学院へのお礼にもなるし、身近な仲間が頑張っている姿を見て生徒たちもそれぞれの分野でやる気を出す。
一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなるではないか!
「そう考えると縁起が良いもんな!」
一石二鳥、元の言葉の意味は一つの石を投げて二羽の鳥を撃ち落とす。これはハーピィを撃墜するという未来を暗示しているのではないだろうか?
てのは言い過ぎか。
「なんにせよ俺の一位はこいつらだな!」
実は試合前々日に行われる番組形式のオーディション、そしてもちろん試合当日の準決勝と決勝に俺は関われない。この企画の陰の主催者として関われるのはここだけなのだ。なので目論見通りに行く事を願うなら、この審査で彼らを精一杯、推すしかない!
「これでよし! さ、寝よう!」
俺はテル君とビッド君の書類に熱烈な推薦コメントを書き込んで机に置き、今日の仕事の締めとして寝室へ向かった。
家に一人の俺は誰にはばかる事無く呟く。ハーピィ戦の試合前とハーフタイムに素人バンド、歌手の歌合戦を行う。……というのを建前にし、裏では鳥乙女チームに音痴の下手な音楽を聞かせ調子を狂わせる。それが今回の作戦だ。
そしてその主旨に従いステフがある程度、絞ってくれた候補者達は揃いも揃って歌や演奏がド下手で正直、一日働いて疲れた身体と心にはなかなか厳しいものがあった。
「なんかイメージ変わるなあ」
ゆったりとした衣装を纏い竪琴を奏でる美しいエルフ、足並み身振りを揃え朗々と大合唱するドワーフ達、遠吠えを重ねる狼人間ガンス族に羽をこすり合わせ音を出す昆虫人間インセクター。そして本家、歌い空を舞う鳥人間ハーピィ。
ファンタジー世界の住人たちが紡ぎ出す音楽と聞いてイメージするものが確かにそこにはあった。但しとんでもなく低レベルのが。
「でもまあゲームとか漫画とかアニメとかが取り上げるのは主に上澄みだもんな」
俺だって
「お前は日本人なんだからカラテもできてスシも握れるだろう?」
と外国人さんに決めつけられたら困るし。いや、カラテというか武術はタッキさんに習い出しているが。
あっ! そう言えばナリンさんもタッキ空手教室に通うとかなんとか言ってたな。勉強熱心な女性だ。俺も見習うようにしないと。
「そういう意味では上澄みだけじゃなく底辺にも目をやる良い機会だわ」
俺は自画自賛しながらテープオーディション画面に集中を戻す。考えてみればこの世界でもっとも音痴な音楽家を集めるというのは希有な出来事だ。もちろん、企画力の及ぶ範囲――呼びかけたのはエルフ王国からだけで、期間もゴルルグ族戦の数日前からという短さだ――ではあるが。
「あ! テル君とビッド君もいるじゃん!」
ちょうどその画面にエルフとドワーフのデコボココンビを見かけて叫ぶ。彼らはレイさんと同じ学院の1学年上の先輩にして、彼女に恋する少年のコンビだ。俺が遭遇したのは一度だけだが、校長さんによると休み時間の度に後輩の教室へ押し掛けて自作のあの歌を捧げているらしい。
「逸材だからオーディション抜きの特別シードにするんじゃなかったのかな?」
確かあの時はステフも彼らに会ってその才能? を見抜き、バード天国――今回の歌合戦のタイトルだ。名は体を表さないというか実際は地獄のような歌唱力のバードが集まる――への出場を打診した筈だが。
「ステフのヤツ、こういう所だけは真面目だからなあ。依怙贔屓はナシ、とか言い出してオーディションへ回したのか?」
考えを口に出しつつ映像と音声を見守る。俺は正直このコンビの事が結構、好きだ。女の子にモテたくて音楽をやって、気を引こうと甲斐甲斐しく通うも上手くいかない……。高校時代の自分と友人たちを思い出してくすぐったく温かい気持ちになる。
「うん、良いじゃんこの子ら」
画面の中の彼らの歌と演奏は相変わらず下手なままではあったが、熱さと味みたいなものも確かにあった。エルフとドワーフという種族混合バンドというのも良い。ハーピィの次に対戦するノートリアスみたいだ。
更に言えば、彼らは『地元の子』という優位もある。サッカーでもチーム所在地産まれやユース出身の選手は――ここが必ずしも一致しないのは、ユースには越境して他府県のチームに所属する子もいるからだ。種族とチームがイコールのこの世界ではあまり関係無いが、レイさんたちナイトエルフはそんな感覚かもしれない――サポーターから贔屓されがちなのと同じ様に、テル君とビッド君も都のエルフたちの大声援を受ける可能性がある。
いや、もしかしたら学院から応援バスで乗り付けて、生徒総出で声援を送ったりして?
「うむ。それならいっそ招待するか?」
上級生コンビが準決勝まで勝ち残るかは不確かだが、レイさんとポリンさんがサッカードウの試合へ出るのはほぼ確定だ。ならばこちらから正式に手配して無料招待したらどうだろう?
学生選手コンビは友達からの応援に燃えるだろうし、もしいればテル君とビッド君も張り切る。日頃スカラーシップ制度で協力してくれている学院へのお礼にもなるし、身近な仲間が頑張っている姿を見て生徒たちもそれぞれの分野でやる気を出す。
一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなるではないか!
「そう考えると縁起が良いもんな!」
一石二鳥、元の言葉の意味は一つの石を投げて二羽の鳥を撃ち落とす。これはハーピィを撃墜するという未来を暗示しているのではないだろうか?
てのは言い過ぎか。
「なんにせよ俺の一位はこいつらだな!」
実は試合前々日に行われる番組形式のオーディション、そしてもちろん試合当日の準決勝と決勝に俺は関われない。この企画の陰の主催者として関われるのはここだけなのだ。なので目論見通りに行く事を願うなら、この審査で彼らを精一杯、推すしかない!
「これでよし! さ、寝よう!」
俺はテル君とビッド君の書類に熱烈な推薦コメントを書き込んで机に置き、今日の仕事の締めとして寝室へ向かった。
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