D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十五章

降りるモンク登る剣士

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 ゴルルグ族チームは更に混乱していた。遂にポストプレーに目覚めた開眼したタッキさんがトップ下に、彼女のパスを受けて切り込む筈のリーシャさんがそれより前にいるのだ。
 普通ポストプレーとは空中戦に強い選手を最前線に、相手ゴールに背を向けるような形で置き、その選手が縦に入ったパスを他の、ゴール方向を向いた選手に渡すプレイだ。
 チームの一番先頭にいながら逆を向き、自身が得点する可能性を減らして――前を向かないのだから当然、シュートは滅多に狙えないしハイボールの競り合いも多い――他の選手をプレイし易くする滅私奉公型のアクションで、まあそういう意味では修行僧であるタッキさん向きではあったのだ。もともとね。
 話が横にそれた。ともかくそんなプレイヤーが前線ではなくTOP下にいて、やはり前線にいる時と同じ様な動きをしていた。つまりクリアやDF陣の苦し紛れのボールも身体を張ってキープし、味方が体勢を立て直す時間を稼ぐ。誰かが密着マークを振り切り近くに来るまで耐え、その選手の利き足方向へパスを出す。どちらかのサイドの攻撃が手詰まりになったらそちらへ近づきパスを受け、逆サイドやアガサさんへ戻す。
『タッキのやつ、良く見えておるぞ!』
『みんな! もっと彼女にボールを集めて!』
 その様子を見たジノリコーチとナリンさんが口々に恐らく指示を飛ばしていた。
 トラップの感覚を掴みボールを持てるようになったとは言え、タッキさんはやはりテクニシャンタイプではない。そんな彼女がまるでいっぱしの司令塔の様に振る舞いパス回しの潤滑剤となれているのは、不器用なストライカーの付近にスペースがあり、マークも厳しくないからだ。
 その理由は三つある。一つには、タッキさんより前にいるリーシャさんが常にゴール前へ走り込もうとし、相手DF陣の意識を引っ張っているからだ。どんな守備陣であっても足が速く得点感覚の鋭い選手――もちろんリーシャさんの事である――がゴール前へ向かうのは怖い。自分の担当選手のマークをしていても、やはりアローズの11番が走り出すとそちらへ意識が行き、自ずとタッキさん付近の空間が広がる。
 二つには、タッキさんが中盤にいるからである。エースストライカーは普段ずっとゴール前にいて一番厳しいマークを受けている。多くの場合マーカーとそのカバーを担当するスイーパーに監視されており、なんならGKだって近い距離にいる。1人目を抜いても2人目3人目が来るし、ちょっとミスをすればその誰かにボールを奪われる。
 しかし今いるのはTOP下の位置だ。やはりDFにとって重要監視ポジションではあるが最前線ほどではなくカバーも遅い。その分、得点の可能性は低いが今日の背番号9の役割はそれでは無かった。
 そして三つには、タッキさんをマークするDFの個性だ。平常であれば相手チームで一番目か二番目に身体が強く対人守備が上手い選手がつく。今日も試合開始時点ではそんな選手がマーカーだった。
 だがその彼女はタッキさんのスピア体当たりで退き今は別の選手がついている。ゴルルグ族のDFによくいる粘り強い守備をする好選手――ハオ選手ではなくこうせんしゅと読む。良い選手という意味だ――だが最初からついていた蛇人ほど強くはないし、ビア選手には遠く及ばない。名前が出たついでにビア選手について言えば、彼女を中盤へ降りたタッキ選手につける選択は難しいだろう。身体の強さを生かしたラフプレイは鍛え抜かれたモンクには相性が悪いし、ゴルルグ族最強DFをゴール前から離してしまうのはどう考えても悪手だ。それに彼女はリーシャさんの相手に忙しい。
 以上の理由でタッキさんはTOP下でのポストプレイという新境地に目覚め、有効に機能しているのである。もちろん、そうし向けたのは自分ではあるが。
「ビア選手はリーシャさんの相手に忙しい……か」
 俺は自分の思考の最後の部分である事に気がついた。
「どうせならもっと忙しくなって貰うか。ナリンさん!」
 俺は後ろを振り向き、さっき彼女から借りたサングラスをかけて両手をクロスさせた。セットプレイの際にサングラスを装着し2丁拳銃のポーズをすればマトリックスというサインプレイの合図だ。
 だが通常時は違う。
『サングラス装備の二刀流の選手』
と言えば異世界広しといえども彼女しかいない。リストさんの出番だ。

『リストー!』
 ナリンさんがナイトエルフに声をかけ、グラサン姿のDFは静かに頷いた。今日は攻め上がりを殆どしなかった、と言うよりは対ロイド選手への守備で手一杯だった彼女を前線へ上げる時だ。
『クエン!』
『了解っす!』
 先輩ナイトエルフが顔も見ずに声をかけつつ走り出すと後輩ナイトエルフが空いたポジションへ入る。阿吽の呼吸だ。
『ロイド!』
『はい?』
 一方、ゴルルグ族チームは阿吽とも見ずの呼吸ともいかなかった。本来、リストさんがオーバーラップしたならば彼女をマークするロイド選手も自動的についていく。それがフルマンマークの仕様の筈だ。
 だがここがリストさんの嫌らしい所で……。性癖のねじ曲がった彼女は上がり方もねじ曲がっていた。真っ直ぐゴール前へ向かうのではなく、まずDFラインのクエンさんの背後を通り、ガニアさんの前を横切り、左SBのルーナさんの更に向こうを通ってゆっくり走っていったのだ。
 その動きにロイド選手は惑わされ、ルーナさんの脇で足を止めた。そしてルーナさんを担当しているMFと何言か交わした。恐らくマークを受け渡すかどうかについてだ、
 本来のシステム上の仕様、そして本職のDFであればそのような迷いは無かっただろう。どのように動こうとも、どこへ行こうともついて行く。しかしロイド選手はFWでありそこまで徹底できなかった。
 その僅かな隙でも、リストさんにとっては十分であった。
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