D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十四章

刺しつ刺されつ

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 タッキさんはもともとポストタイプのCFではなくシャマーさんも頼りにならない。この日、唯一機能していたのは右サイドにいたアイラさんで、ゴルルグ族のスローインボールを奪ったガニアさんは素早くロングフィー度をサイドテールのドーンエルフへ送った。
「おお、どっちもすげえ!」
 ガニアさんのライナー性のボールをアイラさんは見事にトラップし、内側にドリブルしてまず一人目のDFを外す。ガニアさんは日々ロングパスを練習して自信をつけており、その精度も増す一方だ。また利き足と逆サイドに置かれるWG、という概念と言うかポジションはまだこの世界には馴染んでおらず、アイラさんの右サイドからのカットインは猛威をふるっている。
『アイラー!』
 そんな彼女の視界に視界へ飛び込んで来たのはシャマーさんだ。先にゴール前へ走ったタッキさんの後ろを追走するような形で走り込んでくる。
『何か知らないがお任せなのだ!』
 アイラさんは更にそれを追いかけるような巻いた軌道のパスを送る。前半の間ずっとシャマーさんの不甲斐ない気の抜けたプレイを見ていただろうに迷いがない。この当たりのドーンエルフ同士の信頼感も謎に凄い。
『ちょん、とー』
 これまでと同じようにDFに背後から押されながら、しかしシャマーさんはこれまでと違いしっかりガードして、そのパスを頭で僅かに擦り勢いを殺した。ボールは誰もいない左コーナー付近へ流れて行く。
「誰!?」
「ルーナであります!」
 誰に渡すつもりだ!? と問う俺にナリンさんが素早く応える。彼女の言葉通り、凄まじい勢いで走ってきた左SBがゆっくりと転がるボールを拾った。
『誰か当たれー!』
 ゴルルグ族のGKが慌てて指示を出すが、近くには誰もいない。まさか先程まで喧嘩寸前だった選手同士の間でパスが繋がるとは誰も思っていなかったのだろう。
 いやそれを抜きにしてもあのスペースにボールを転がす発想が蛇人には無かったかもしれない。ルーナさんは余裕を持って中を見て、決まり通り低く早いクロスをゴール前に入れる。
『頭同士ぶつけなイ!』
 そのボールへ合わせに行ったのはタッキさんだ。アイラさんからのパスが自分へ来なかった後もちゃんと動き直し、オフサイドにならない位置へ戻ってから再び前へダッシュし、頭から低く飛び込む。
「偉いぞタッキさ……うわっ!」
 俺の目にはニアの下段にタッキさんがヘディングシュートを叩き込む幻影が見えた。しかし余っていたゴルルグ族DFが勇気を持ってコースへ入り、まず身体にボールを当て、次に飛び込んできたタッキさんの肩を腹で受け止め串刺しされたような形で倒れた。
「ピー! エルフ代表9番、危険なプレイでイエローです!」
 審判さんが笛を鳴らしプレイを止める。
『ノーっ! タッキ、頭ぶつけてないヨー!?』
 エルフのモンクがたぶん文句を言っているが聞き入れて貰えない。確かに先にボールに触れたのはタッキさんだし頭同士をぶつけた訳でもない。しかしその後に肩をゴルルグ族DFの腹部に突き刺し、プロレスで言うスピアーという技の様な形になってしまった。これでは心証が悪いだろう。
『医療班、早く!』
『交代だ!』
 ゴルルグ族のスタッフが駆けつける前で件のDFは腹部を抑えてのたうち回っている。タッキさんにイエローカードが出た以上、これ以上悪く見せる必要はない。つまりアレは演技ではなく本当に痛がっている。
「ははは……。スケイルメイル鱗鎧も効かないなんてね……」
 俺は大ブーイングを鳴らす観客の前でひきつった笑いを漏らす。ちなみにスケイルメイルとはファンタジーRPGに登場する防具で細かな金属片を鱗のように並べた鎧だ。ゴルルグ族は自前の鱗で天然のスケイルメイルを装備しているような状態だが、モンクが放った体当たりの前には無力だったようだ。
「ビア選手が交代で入るであります!」
 そこへ、目敏くゴルルグ族ベンチ前を見ていたナリンさんが俺の耳へ囁く。
「ほう……」
 ろくにウォーミングアップもしていないビア選手を負傷選手の代わりに入れるようだ。よほど信頼しているのか、タフな彼女ならタッキさんの肉弾戦も上等と思ったか。
「挑発や罠にかからないように、タッキさんへ」
 俺がそうナリンさんへ囁き返すと、彼女は緊迫した表情で頷いてサイドラインの方へ走った。
 だが心配すべきはそちらでは無かった。

 残念ながら先程のプレイではCKすら貰えず、ゴルルグ族のFKで試合が再開した。GKが長いボールを蹴り、今回はリストさんがロイド選手に競り勝ち跳ね返す。そのボールを拾ってからは、長くアローズのターンとなった。
 そのキーウーマンになったのは間違いなくシャマーさんだった。DFラインやアガサさんからパスを引き出しタッキさんやアイラさんへ繋ぐ、駄目な時は無理せずマイラさんや両SBへ下げる。まだ前半とは言え1点リードされている。下手すれば攻め急いでカウンターを受けてしまいそうな状況で、シャマーさんは上手くチームの手綱を握って味方は焦らさず相手は走らせ、じわじわとゴルルグ族を締め上げていった。
 それこそ蛇人のお株を奪うような攻め方だ。
「ようやくいつものシャマーに戻ったでありますね!」
「ええ。これなら前半……は追いつかなくても後半には」
 嬉しそうなナリンさんに応えつつ俺は時計を見た。もう前半43分。キックオフ後はしばらく、試合を見ず上や下やと走っていたので俺の体感時間は凄く短い。
「シャマー、シュート! ああ、惜しい!」
 遂にゴルルグ族チーム全体が自陣に引きこもった状態になった所で、シャマーさんがミドルシュートを放った。ビア選手の全身を投げ出すようなスライディングも届かず飛び立ったそのボールは、しかしGKが弾いてCKとなる
「これなら前半でもあり得るであります! おや? どうしたでありますかショーキチ殿?」
「いや……なんか様子がおかしくないですか?」
 俺が指さす先で、そのシュートを放った直後のシャマーさんが左足首を押さえてうずくまっていた。
『着地だ! あのヤロウ、着地の足の下に入れやがった!』
「え!? いや駄目です!」
 ふと見るとザックコーチが鼻息荒く何か叫びピッチへ駆け込もうとしていた。俺は慌てて彼を抑えながら訊ねる。
「なんて言ってます?」
「シャマーが着地の際に足を挫くよう、ビア選手がわざとやったのではないかと……」
 ナリンさんも怒りと不安が混ざった声で応える。それってつまりシャマーさんがシュートを撃って飛び上がり、降りてくる足の下に身体を入れてバランスを崩させたってこと!?
「そんな双方にとって危険なこと……あ……」
 俺はそう言いながらビア選手の顔を見た。足首を抱えて呻くシャマーさんの隣にしゃがむ蛇人は、片方の頭がエルフ代表のキャプテンに何か話しかけ、片方の頭がこちらを向いて笑っていた。
『やってやったぞ』
と。

第二十四章:完
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