D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
435 / 693
第二十四章

水でも被って反芻なさい

しおりを挟む
 シャマーさんをTOP下、司令塔の位置へ置くことになったのはタッキさんの意見――昨シーズンから控えチームで一緒にプレイする事が多くやり易かった――を聞いたからであった。
 そもそもシャマーさんは地頭が良くサッカードウIQも高いのでどんなポジションでもこなせる。ただ他者を罠にしかけるのを好むという性質上、守備的な位置の方が向いているというだけだ。そのアイデアと万能性は攻撃の面でも生かせる筈だ。
 で、タッキさんと相性が良く、色んなプレイが出来るシャマーさんをFWの近くへ置けば面白い効果が上がるのではないか? そう期待してピッチへ送り出したのだが……。
「はっきり言って、ロイド選手にリストをぶつける、という選択以上のミスかもしれないであります」
 コーチの分担で言えばジノリコーチが守備寄りでナリンさんが攻撃寄り。と言うわけで代表して美貌のエルフが口を開いた。
「そうなんですか!? いつもはDFラインからでも上手くドリブルで持ち上がって面白い効果的なパスを出している印象なんですが」
「確かにそうであります。しかし前にいると、そもそもボールを持てない様でありまして」
 ナリンさんがそう言う矢先で、ちょうどシャマーさんへパスが入った。今日はタッキさんの1TOPなので相手DFは余り気味だ。TOP下のシャマーさんまで躊躇う事なくDFがつく。
 そのDFはボールを受けたシャマーさんの背中に強く当たり、背後からの激しいプレッシャーで彼女を押し潰すとあっさりとボールを奪った。
「倒されたじゃんファウル! ……じゃないよな。さすがに簡単に倒れ過ぎだ」
 俺は副審さんへアピールをしかけて、すっと言葉を収めた。同意するようにナリンさんとジノリコーチが口を開く。
「ええ。せめてもう少し踏ん張らないと、逆にシミュレーションを取られかねないであります」
『あそこで容易に奪われると、攻め上がりかけたルーナと守備に残ったアガサ、ガニアの負担が激しいぞい!』
 それもそうだ。普段なら名演技で相手FWのファウル&イエローさえ誘発するシャマーさんだが、今日は逆に自分が貰いそうだ。ついでジノリコーチの翻訳を聞いて俺は考え込む。
 普段CBをしているシャマーさんがボールを持つシチュエーションと言えば相手から奪うとか、他のDFやシュートをキャッチしたGKからパスを受ける状況だ。そこに『受ける為の工夫』的なモノはあまりない。
 だが攻撃的なポジションの選手は違う。たいていの場合、相手DFがマークについてきるのでそのマークを振り切ってフリーになるか、或いはDFを背負って――これは用語的な意味での背負うであり、実際におんぶ抱っこする訳ではない。DFを自分の背中でブロックするという意味だ――ボールを受ける必要がある。
 今日、慣れぬ攻撃的な位置へ入ったシャマーさんにはその工夫があまり見えない感じだ。特にDFを背負う方。テクニックや身体の強さが足りない訳ではない筈だが、背中から当たられた時のこらえ性が無さ過ぎる。
「おおう、また!」
「ピピーッ!」
 再びDFが背後からチャージし、シャマーさんがボールを抱えながら倒れ笛が鳴った。
「これは!?」
「どっちでありますか!?」
 俺とナリンさんは慌ててスタジアム上部のドラゴンさんを見る。
「エルフボールで再開」
 そのドラゴンさんが魔法で増幅された声で告げる。良かった。幸い今回は相手DFのファウルをとってくれたが、自己判断でファウルと思ってボールを手に取るとハンドリングの反則を取られることもあるのだ。
「ショーキチ、アレはダメだ」
 プレースキックのポイントへ向かう途中でルーナさんが立ち止まり、ライン際にセットされたドリンクのボトルを拾いながら言った。
「え? 何が? あ、ナリンさんはシャマーさんの様子を」
「ラジャーであります!」
 今はルーナさんがこちらサイドにおり、クラマ殿の血を引く彼女は日本語が話せる。俺はナリンさんにシャマーさんの状態確認を依頼し、ハーフエルフの言葉に耳を傾ける。
「シャマーはずっとあんな感じで腑抜けてる。バックチャージの度に、たぶんショーキチのバックハグ抱擁を反芻して」
「はぁ!? バックハグの反芻!?」
 俺は思わず大声を出し、それを抗議と受け取ったか第4審判さんが抑えて、とジェスチャーする。
「あ、すみません。え? バックハグって、俺はそんなこと……」
「してたよね? 更衣室で」
 俺は第4審判さんに会釈しルーナさんの方へ向き直す。ええとバックハグだが、やってたかやってなかったか? と言えば7対3くらいでやってたかなあ。暴れるシャマーさんを背後から抑える為だけど。
「じゃあ背後から抱え込まれた時にふにゃ、となるのは……」
「ショーキチのせいだよ」
 ルーナさんが飲み終わったボトルを俺に投げながら言う。俺の責任か? 水でも被って反省しなさいという意味か? でもまあ、ハグをすると出るのはオキシトシンの方で、ボクシングやサッカーの様な激しいスポーツに関係するテストステロンとは逆の方向性だ。
 ってまたボクシングの話してる!?
「ショーキチさえ良ければ闘魂注入するけど?」
 ルーナさんはそう言いながら丸太の様に太い足でトントン、と地面を蹴った。その仕草で俺は何となく察する。彼女は別に顔面を殴ったり張り手したりするのではない。もっと恐ろしい事をするのだ。
「くれぐれも70%……いや30%くらいの出力でお願いします……」
「りょーかい」
 悪魔の左足を持つSBは短く答えるとゆっくりとポイントの方へ向かってステップを刻み始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...