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第二十三章

交代して交代

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「どうもしない! どうもしないけど、バレた以上こんな事をしても仕方ないから、降りてくれないかな?」
「イーヤ、やー」
 歌うように拒絶を伝えたレイさんはそこからぐっと身を倒し、俺の胸に頬を押しつけた。
「ウチがどれだけ心配したと思ってんねん……」
 俺の胸に押しつけられたのは頬だけでは無かった。柔らかな胸の感触と彼女の深い想いが伝わってくる。
「それは本当に……ごめん。危険な目にも遭わせたね」
 ナイトエルフ三娘とスワッグステップとシャマーさん。俺の救出メンバーの中で一番、荒事に慣れてないのがレイさんだ。隠密行動に長けたナイトエルフといっても、怖さはあっただろう。むしろよく参加したな……というか無理矢理ついてきたんだろうけど。
「ちゃうわ! 怖かったんは、ショーキチにいさんに何かあたったら? って方やわ!」
 ドス、っとMMAで言う鉄槌を俺の肩に振り下ろしつつレイさんは言った。てかそこ肩というより鎖骨……この子、格闘技のセンスもあるな!
「痛てて! いま何かというか負傷がありそうです!」
「あ、ごめん! 大丈夫?」
 そう訊ねるレイさんの手が素早く俺の服の前を開き、ついで舌が鎖骨の上を這う。
「はう! レイさん、何を!?」
「んぁ? にゃめたら治るやろ?」
「それは擦り傷とかだし迷信です!」
 まったく、医療技術の発達していない異世界め!
「ちゅ……ちゅ。もうちょい跡、つけたろ」
 違うな。意図的だな!?
「辞めてくださいレイさん! こんな事をしては駄目です!」
「へ? なんで? 気持ちええことない?」
 はい、正直気持ち良いです! 細身筋肉質のデイエルフやインドア派のドーンエルフとは違い、ナイトエルフであるレイさんの身体はまだ思春期特有の脂肪も合わさって弾力性もあり若々しさもあり、舌は蛇のように滑らかだった。魔法の炎が怪しく照らす全身は着崩した制服が肝心の部分だけ隠し、想像力をかき立てる。
 そして俺を見つめる瞳は淫らな光も湛えているが……そこには間違いなく真摯にこちらを想う気持ちも見えた。
 そんな彼女が不良になって男を誑かしている、なんて疑うことはまったくの間違いだった。だがこの先に進んでしまう事も間違いだ。
「でもその、淫行したらアウトなんですよ!」 
 この世界には無いかもしれないけど淫行条例違反てのが日本にはありましてね!
「インアウト? 途中交代で入った選手がまた出されてしまうやつ?」
 くそ、レイさんにサッカーネタでボケられてしまった!
「インアウトの説明としては合ってますけどそうじゃなくて!」
「ほなショーキチにいさんは入れて出して、したいわけやね?」
 前を向いたらどこからでもシュートへ持ち込むFWの様に、今のレイさんはどんな話をしてもそちらへ持って行く強引さがあった。
「違います! そもそもインアウトはベンチワーク的には失敗だし選手のメンタルにも良くないですから、これも良くない事で……」
 一方、俺の方は前を向けない事情もありサッカーの話を続けて正気を保つしか為す術はなかった。
「大丈夫! ウチのメンタルには凄く良いことやし」
 そう話す間にもレイさんの手は俺の下腹部へ這い寄っていた。マズイ!これはかなり本気だ!
「レイさん本当に駄目です! 本当にアウトです!」
「お前たち! そこで何をしている!?」
 唐突に倉庫のドアが開き、外の光と詰問の声が差し込んできた。

 終わった……。
「まだ何もしていません」
みたいな言い訳は通じないだろう。俺は淫行条例で逮捕され、投獄されるのだ……。
「出してくれ!」
 と監獄の冷たい檻にしがみつき外へ向かって叫ぶ自分の姿が思い浮かんだ。だが言っても叶わないだろう。
 獄吏と世間から冷たい目で見られながら、俺は何年も臭い飯を食うことになる。その間、俺にできるのはよく冷えた床に座って破廉恥な己を悔やむ事だけだ……。

「もう、ステフねえさん! 早いって!」
 レイさんが身体を起こしてそうボヤいた。
「すまんすまん! だがこの後、アニメの配信があるんで家へ帰りたいし、他の生徒も来そうだしなあ」
 ドアを開けた人影はそう答えた。逆光で分かりにくいが、変装用の特徴的な髪型にいつもの声。確かにステフだ。
「ステフか~。助かった……」
 彼女になら見られても大丈夫、という感覚もおかしいが何にせよレイさんとの関係の進歩も逮捕も免れたようだ。
「ちゃんと鍵かけといたのに……」
「アレくらいこのステフ様には楽勝だよ。って、なんだショーキチまた貞操の危機だったのか?」
「ちゃうわ!」
 俺はどさくさに紛れてレイさんの下から逃げ出し、ステフに反論する。
「ちょっとこう、特殊な器具のストレッチを教わっていただけだよ」
 彼女はレイさんに変装がバレているのも、俺がこんな所へ連れ込まれているのも自然に受け入れている。良い根性してるわ。
「って良くここが分かったな?」
「んー、まあ」
 ステフはアップにした髪の中に指を突っ込んでボリボリ掻きながらそっぽを向いた。もしかしてコイツなりに護衛の責任を感じて、前よりもっと俺の位置を把握するようにしているのかな?
「ありがと、な」
「なにがだよ」
 俺はステフの肩をポンポンと叩き、倉庫を出て行こうとした。が、
「『また』って何なん!?」
 そんな俺の肩をレイさんがガッシリと両手で掴んだ。
「え?」
「あの森で貞操の危機とかあったん!? もしかしてあの女!?」
 振り向くと彼女は少し目に涙を浮かべ、顔を赤くして頬を膨らませていた。
「いや、アタシも詳しくは知らないけど、ショーキチの心を読んだ感じだとなー」
「ステフ、余計な事を言うな!」
「やっぱり! ショーキチにいさん隙が多いねん! アカン、する! ここで続きまでやってまう!」
 レイさんはそう叫び、俺を倉庫の中へ戻そうと引っ張り出した。
「駄目だって! ちょっとステフ助けて!」
 その後、無理にでも続きをしようとするレイさんを
「ポリンさんに見られたらどうするんだ?」
と説得し、何とか宥めて俺たちは学院を後にするのであった……。
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