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第二十二章
SPのプライド
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演出部との作戦会議を終えた俺は自分の家へ戻り、ボートに乗り込み王都へ向けて出発した。。
「張り切ってたな……」
風を受けて膨らむ帆を見ながらさっきのステフとスワッグを思い出す。今のアローズが置かれた状況を深夜アニメに例えた事は決して正確な表現とは言えないが、彼女らに訴えかける効力は抜群だった。
3話切り、つまり1シーズンに多数のアニメを追わねばならないファンが、とりあえず3話まで我慢して観てそこで視聴を継続するかやめるか判断する事は、地球のアニメを楽しんでいる――恐らくいつも持っている携帯ゲーム機をどうやってかあちらと繋いで視聴しているのだろう。因みに急いで出て忘れて置いて行ったので、今は俺の手元にある――彼女らにはとても身近な概念だ。
一方サッカーのチームも開幕5戦くらいまでは多少、戦績が伴わなくても内容が将来に繋がるものなら、大事なので繰り返すが内容が将来に繋がるものならサポーターも我慢して応援してくれる。まあだいたいは。
しかし次に負けると流石に不満や不安の声が増えるだろう。つまり「切られて」しまうかもしれない。
そういう意味では3話切りの危機みたいだと言う例えはあながち間違いとも言えず、少し卑怯な作戦――音痴な歌を聴かせてハーピィを混乱させる――もやむなし、という抗弁が成り立つ。と言うか成り立ってしまった。
「しかし何というか……」
監督という仕事の半分くらいは誰かを納得させる作業で、俺は日々それに試行錯誤している。とは言え成功した事で逆に不安になることもある。
俺は船尾に腰掛け魔法のオールを操りながら思わず呟いた。
「やっぱアホなんかな、アイツら」
「誰がアホだって!?」
「うわぁ!」
不意にディード号の前部分にある荷物置きスペースの蓋が開き、中からステフが飛び出してきた!
「何だよ、いきなり!? いつの間に!?」
根本的にこの世界の知的生命体は人間よりも耳が良い。だからこちらの何気ない呟きも拾われてしまうし、それを切っ掛けに急に話しに割り込んで来られる事も多い。作戦会議前のノゾノゾさんもそうだった。
だが俺はまだそれに慣れる事はできていなかった。まして自分以外に誰もいないと思いこんでいたボートの上でならなおさらである。
「いや、その、二人きりで話したい事があってなあ」
ステフは隠れ場所から外に出て、そっと船縁に座った。
「話したいこと?」
ダスクエルフは珍しく暗い顔だ。作戦会議の直後
「3話切り回避の為に、エルフ史上最強の音痴を発掘してやるぜ!」
と盛り上がっていたのとは対照的だ。
「もしかして……レイさんの事か? ちょうど今から学校へ行って覆面調査をするつもりだけど」
俺がまだチームと合流せずエルフの国内をウロウロしている理由の一つがそれだった。ルーク聖林まで俺を助けに来た時の態度がやけに男慣れしていて、何というかこう、不良になってしまったのかと不安になったので様子を見に行くつもりなのだ。
「お、学校へ行くのか? じゃあアタシも行く! ……てそれはそれとしてだな」
どうもその件では無いようでステフはまったく悪びれず――てかその件には罪悪感を持ってくれ――同行を申し出て、またすぐ暗い顔に戻った。
「それとして?」
「あの、えっと……。誘拐の件ではすまんかった!」
そう言いつつステフは子供の様に小さな頭を目一杯、下げた。
「はい? 誘拐の件がどした?」
「アタシが不甲斐ないばかりに浚われて……護衛失格だ! 本当にゴメンだよ……」
そこまで言われてなんとなく、彼女の言いたい事が分かってきた。
「ああ、俺が拉致された事に責任を感じているのか?」
「うん。わざわざ呼んでくれたのにむざむざと連れていかれて……。アタシ、自分が情けない」
「いや、あのとき呼んだのはチームの保安や会場の雰囲気に不安があったからで、そっちについては守ってくれたじゃないか? ナイスな護衛だったよ」
しかも直前にちょっと言い合い、というかじゃれ合って
「あっち行け」
って言ったのは俺だしなあ。
「いや、アタシが油断さえしてなければあんな奴らに護衛対象を誘拐されたりはしなかった! 怖い目にも遭っただろう?」
「いや」
「変な慰めはやめろよ」
「いや、油断してなくても誘拐は成功したよ。ステフなんて隙だらけだし」
俺はニヤニヤと笑いながら、ステフが作戦室に忘れていった携帯ゲーム機を取り出した。
「なにおう!? あ、それは!」
「喋ってる間に摺ったのさ」
「嘘付け! さっきの部屋に忘れていったやつだろ!」
そう叫ぶステフとトルコアイス屋さんみたいなやりとりを少ししてから、俺はゲーム機を返した。
「もう気にするなって。こうして無事に帰ったし、怖い目にも遭ってないし」
念のためにメモリーカードが抜かれてないのを確認するステフに事実を話す。いや実際に怖い事なんてなかったし、あっても貞操の危機くらいだ。
「貞操の危機?」
やべ! こいつ心が読めるんだった!
「何がやべ、だ?」
「それじゃあこの後の秘密作戦に協力してくれよ!」
無惨様な事になる前に俺は素早く話しを変える。
「秘密作戦!?」
その単語を聞いたステフの顔が一気に明るくなった。やっぱアホなんかなこいつ……。
「レイさんの学園での様子をこっそり見たいんだけど、一人だと怪しまれそうでさ。変装に協力してくれよ!」
俺はそう告げて、作戦の説明を始めた……。
「張り切ってたな……」
風を受けて膨らむ帆を見ながらさっきのステフとスワッグを思い出す。今のアローズが置かれた状況を深夜アニメに例えた事は決して正確な表現とは言えないが、彼女らに訴えかける効力は抜群だった。
3話切り、つまり1シーズンに多数のアニメを追わねばならないファンが、とりあえず3話まで我慢して観てそこで視聴を継続するかやめるか判断する事は、地球のアニメを楽しんでいる――恐らくいつも持っている携帯ゲーム機をどうやってかあちらと繋いで視聴しているのだろう。因みに急いで出て忘れて置いて行ったので、今は俺の手元にある――彼女らにはとても身近な概念だ。
一方サッカーのチームも開幕5戦くらいまでは多少、戦績が伴わなくても内容が将来に繋がるものなら、大事なので繰り返すが内容が将来に繋がるものならサポーターも我慢して応援してくれる。まあだいたいは。
しかし次に負けると流石に不満や不安の声が増えるだろう。つまり「切られて」しまうかもしれない。
そういう意味では3話切りの危機みたいだと言う例えはあながち間違いとも言えず、少し卑怯な作戦――音痴な歌を聴かせてハーピィを混乱させる――もやむなし、という抗弁が成り立つ。と言うか成り立ってしまった。
「しかし何というか……」
監督という仕事の半分くらいは誰かを納得させる作業で、俺は日々それに試行錯誤している。とは言え成功した事で逆に不安になることもある。
俺は船尾に腰掛け魔法のオールを操りながら思わず呟いた。
「やっぱアホなんかな、アイツら」
「誰がアホだって!?」
「うわぁ!」
不意にディード号の前部分にある荷物置きスペースの蓋が開き、中からステフが飛び出してきた!
「何だよ、いきなり!? いつの間に!?」
根本的にこの世界の知的生命体は人間よりも耳が良い。だからこちらの何気ない呟きも拾われてしまうし、それを切っ掛けに急に話しに割り込んで来られる事も多い。作戦会議前のノゾノゾさんもそうだった。
だが俺はまだそれに慣れる事はできていなかった。まして自分以外に誰もいないと思いこんでいたボートの上でならなおさらである。
「いや、その、二人きりで話したい事があってなあ」
ステフは隠れ場所から外に出て、そっと船縁に座った。
「話したいこと?」
ダスクエルフは珍しく暗い顔だ。作戦会議の直後
「3話切り回避の為に、エルフ史上最強の音痴を発掘してやるぜ!」
と盛り上がっていたのとは対照的だ。
「もしかして……レイさんの事か? ちょうど今から学校へ行って覆面調査をするつもりだけど」
俺がまだチームと合流せずエルフの国内をウロウロしている理由の一つがそれだった。ルーク聖林まで俺を助けに来た時の態度がやけに男慣れしていて、何というかこう、不良になってしまったのかと不安になったので様子を見に行くつもりなのだ。
「お、学校へ行くのか? じゃあアタシも行く! ……てそれはそれとしてだな」
どうもその件では無いようでステフはまったく悪びれず――てかその件には罪悪感を持ってくれ――同行を申し出て、またすぐ暗い顔に戻った。
「それとして?」
「あの、えっと……。誘拐の件ではすまんかった!」
そう言いつつステフは子供の様に小さな頭を目一杯、下げた。
「はい? 誘拐の件がどした?」
「アタシが不甲斐ないばかりに浚われて……護衛失格だ! 本当にゴメンだよ……」
そこまで言われてなんとなく、彼女の言いたい事が分かってきた。
「ああ、俺が拉致された事に責任を感じているのか?」
「うん。わざわざ呼んでくれたのにむざむざと連れていかれて……。アタシ、自分が情けない」
「いや、あのとき呼んだのはチームの保安や会場の雰囲気に不安があったからで、そっちについては守ってくれたじゃないか? ナイスな護衛だったよ」
しかも直前にちょっと言い合い、というかじゃれ合って
「あっち行け」
って言ったのは俺だしなあ。
「いや、アタシが油断さえしてなければあんな奴らに護衛対象を誘拐されたりはしなかった! 怖い目にも遭っただろう?」
「いや」
「変な慰めはやめろよ」
「いや、油断してなくても誘拐は成功したよ。ステフなんて隙だらけだし」
俺はニヤニヤと笑いながら、ステフが作戦室に忘れていった携帯ゲーム機を取り出した。
「なにおう!? あ、それは!」
「喋ってる間に摺ったのさ」
「嘘付け! さっきの部屋に忘れていったやつだろ!」
そう叫ぶステフとトルコアイス屋さんみたいなやりとりを少ししてから、俺はゲーム機を返した。
「もう気にするなって。こうして無事に帰ったし、怖い目にも遭ってないし」
念のためにメモリーカードが抜かれてないのを確認するステフに事実を話す。いや実際に怖い事なんてなかったし、あっても貞操の危機くらいだ。
「貞操の危機?」
やべ! こいつ心が読めるんだった!
「何がやべ、だ?」
「それじゃあこの後の秘密作戦に協力してくれよ!」
無惨様な事になる前に俺は素早く話しを変える。
「秘密作戦!?」
その単語を聞いたステフの顔が一気に明るくなった。やっぱアホなんかなこいつ……。
「レイさんの学園での様子をこっそり見たいんだけど、一人だと怪しまれそうでさ。変装に協力してくれよ!」
俺はそう告げて、作戦の説明を始めた……。
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