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第二十二章
音楽の力?
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「ハーピィ! まさかWillUのみんなに酷い音楽を聴かせる気ぴい!?」
期待通り、グリフォンは鳥類という意味での同胞に思い当たり驚きの声を嘴から漏らした。
「そんな! よりにもよってあんな音楽のプロの子たちに……」
ノゾノゾさんも幼なじみの声に同調し呟く。
「彼女たち、きっと気分を害しちゃうよ……。あっ!」
「そうか。思いっきり気分を害して欲しい訳だな?」
何か気づいたスタジアムDJに続き、演出部の部長がニヤリと笑って言った。
「うん、そういう事さ」
俺もステフに目を合わせ同じくニヤリと笑って、説明を始めた。
ミュージックとスポーツというのは切っても切れない仲だ。選手やチームの入場曲、応援歌、国歌斉唱。移動中にチームの皆で歌って一体感を高める事もあるし、ヘッドホンでお気に入りの曲を聞いて集中力を高める選手の姿もよく見られる。好きが高じて自分で曲を作って発表する奴だっている。引退後に朝の番組でカラオケを歌いまくる元GKもいる。
が、今回フォーカスしたのは試合開始前等にスタジアムで流れる音楽だ。それらは――試合運営者の個性にもよるが――基本的には割とアゲアゲと言うか好戦的というか、
「これから戦いが始まりますよー」
と分かるような曲が多い。
しかしそんなタイミングで調子の外れた、ど下手な歌や演奏を聞いたらどうなるだろう? なんとなく変なテンションになって良い感じで試合へ入っていくのが難しくなる可能性が高いだろう。
いやまあ一流の選手はその程度でメンタルが崩れたりしないし、或いは聞いていないかもしれない。
「試合へ向け集中していたから、会場でどんな曲が流れていたかも覚えていない」
といった言葉だってたまに聞く。
だが相手が歌を操り、歌と共に生きる鳥乙女ハーピィだとしたら? しかも漏れなく全員がサッカードウ選手兼歌って踊れるアイドル歌手だとしたら?
「スワッグなら覚えているだろう? ニューウイングコンサートでマレーちゃんがキーを外して総崩れになった迷シーンを」
「『新しきツバサ』ボリューム11のチャプター3だぴよ!」
「あと音響装置の故障で雑音になっちゃったので、ドミニクさんがアカペラで繋いだクライマックスとか」
「『ザ・バード』の最終章だぴい!」
俺が例を幾つか挙げるとグリフォンは撃てば響く鐘の様に該当のシーンを思い出して叫んだ。
「……ステフ、スワッグたち何を言ってるの?」
「たぶんハーピィのアイドルグループの、魔法円盤のタイトルとその場面が流れる章のことだろ」
「うわぁ……」
盛り上がる俺たちを横目に、ステフから解説を受けたノゾノゾさんが珍しく引いていた。
「彼女たちはサッカードウと音楽のプロで、歌でもパス回しでも繊細なハーモニーを奏でるアーティストだ。それだけに、リズムや音程の狂いに極端に弱いと俺は踏んでいる」
ダスクエルフとジャイアントの引いた態度にメゲず俺は続ける。根拠は他にもある。クリン島で行われた監督会議で、ハーピィチームの監督トナーさんが司会進行のリザードマンを『音痴』と酷評したのだ。それこそ今ステフとノゾノゾさんが俺たちを見る目と同じくらいに。別にそれほど変な口調で喋っていた訳ではないのに。
「音程が狂えばハーピィは監督も選手も影響を受ける。彼女たちの調子が狂えば、俺たちの勝機は何倍にも膨れ上がる」
が、俺がそこまで言ったところで、スワッグがはたと気づいた風に嘴を挟んだ。
「でっでも、そこまでする程のものぴよ?」
「そうだよね。仮にその妨害が上手く行くとしても、ちょっと気が引けると言うか……」
風の精霊コンビは渋い表情になって顔を見合わせた。
「確かにフェアな戦法ではないかもね。でも今は手段を選べる様な状況じゃないんだ」
俺も渋い顔になって呟いた。ここまではショービズの話題で、言わば演出部の三名ステフ、スワッグ、ノゾノゾさんの土俵の話だった。しかしこの先はサッカードウの領域になり、彼女らにまず理解して貰う所から始めなければいけない。
「勝ち点や残留降格の詳しい背景は省くけど、今の俺たちは序盤戦の山場を厳しい状況で迎えているんだ」
何度か何名かには説明してきた通り、1部残留争いにおいて降格の最右翼は『2部から昇格したばかりのチーム』ことゴブリンチームとハーピィチームだ。そしてその次に昨シーズン最終節で奇跡的な残留を果たしたエルフチームが続く。
この3チーム同士の直接対決は残留争いに大きな影響を与え重要度が高い。しかもハーピィは目下3連勝中でこちらは1勝1敗1引き分け。次のゴルルグ族戦も楽観視はできないし勢いでは明らかに負けている。
と言った内容を、サッカードウに詳しくない彼女たちに話しても通じないよなあ。だったら……
「例えるなら2話までは好評だったが3話がやや微妙な深夜アニメで、しかも同時期に始まった他局の番組が声優さん呼んで『大ヒット御礼特番配信』をやってる様な状況でね」
「なんだとっ!?」
その俺の説明を聞いてステフが思わず立ち上がった。
「え? どういう意味?」
まだポカンとしているノゾノゾさんに、スワッグが鶏冠を逆立てて叫ぶ。
「つまりこれは……3話切りの大ピンチだぴい!」
期待通り、グリフォンは鳥類という意味での同胞に思い当たり驚きの声を嘴から漏らした。
「そんな! よりにもよってあんな音楽のプロの子たちに……」
ノゾノゾさんも幼なじみの声に同調し呟く。
「彼女たち、きっと気分を害しちゃうよ……。あっ!」
「そうか。思いっきり気分を害して欲しい訳だな?」
何か気づいたスタジアムDJに続き、演出部の部長がニヤリと笑って言った。
「うん、そういう事さ」
俺もステフに目を合わせ同じくニヤリと笑って、説明を始めた。
ミュージックとスポーツというのは切っても切れない仲だ。選手やチームの入場曲、応援歌、国歌斉唱。移動中にチームの皆で歌って一体感を高める事もあるし、ヘッドホンでお気に入りの曲を聞いて集中力を高める選手の姿もよく見られる。好きが高じて自分で曲を作って発表する奴だっている。引退後に朝の番組でカラオケを歌いまくる元GKもいる。
が、今回フォーカスしたのは試合開始前等にスタジアムで流れる音楽だ。それらは――試合運営者の個性にもよるが――基本的には割とアゲアゲと言うか好戦的というか、
「これから戦いが始まりますよー」
と分かるような曲が多い。
しかしそんなタイミングで調子の外れた、ど下手な歌や演奏を聞いたらどうなるだろう? なんとなく変なテンションになって良い感じで試合へ入っていくのが難しくなる可能性が高いだろう。
いやまあ一流の選手はその程度でメンタルが崩れたりしないし、或いは聞いていないかもしれない。
「試合へ向け集中していたから、会場でどんな曲が流れていたかも覚えていない」
といった言葉だってたまに聞く。
だが相手が歌を操り、歌と共に生きる鳥乙女ハーピィだとしたら? しかも漏れなく全員がサッカードウ選手兼歌って踊れるアイドル歌手だとしたら?
「スワッグなら覚えているだろう? ニューウイングコンサートでマレーちゃんがキーを外して総崩れになった迷シーンを」
「『新しきツバサ』ボリューム11のチャプター3だぴよ!」
「あと音響装置の故障で雑音になっちゃったので、ドミニクさんがアカペラで繋いだクライマックスとか」
「『ザ・バード』の最終章だぴい!」
俺が例を幾つか挙げるとグリフォンは撃てば響く鐘の様に該当のシーンを思い出して叫んだ。
「……ステフ、スワッグたち何を言ってるの?」
「たぶんハーピィのアイドルグループの、魔法円盤のタイトルとその場面が流れる章のことだろ」
「うわぁ……」
盛り上がる俺たちを横目に、ステフから解説を受けたノゾノゾさんが珍しく引いていた。
「彼女たちはサッカードウと音楽のプロで、歌でもパス回しでも繊細なハーモニーを奏でるアーティストだ。それだけに、リズムや音程の狂いに極端に弱いと俺は踏んでいる」
ダスクエルフとジャイアントの引いた態度にメゲず俺は続ける。根拠は他にもある。クリン島で行われた監督会議で、ハーピィチームの監督トナーさんが司会進行のリザードマンを『音痴』と酷評したのだ。それこそ今ステフとノゾノゾさんが俺たちを見る目と同じくらいに。別にそれほど変な口調で喋っていた訳ではないのに。
「音程が狂えばハーピィは監督も選手も影響を受ける。彼女たちの調子が狂えば、俺たちの勝機は何倍にも膨れ上がる」
が、俺がそこまで言ったところで、スワッグがはたと気づいた風に嘴を挟んだ。
「でっでも、そこまでする程のものぴよ?」
「そうだよね。仮にその妨害が上手く行くとしても、ちょっと気が引けると言うか……」
風の精霊コンビは渋い表情になって顔を見合わせた。
「確かにフェアな戦法ではないかもね。でも今は手段を選べる様な状況じゃないんだ」
俺も渋い顔になって呟いた。ここまではショービズの話題で、言わば演出部の三名ステフ、スワッグ、ノゾノゾさんの土俵の話だった。しかしこの先はサッカードウの領域になり、彼女らにまず理解して貰う所から始めなければいけない。
「勝ち点や残留降格の詳しい背景は省くけど、今の俺たちは序盤戦の山場を厳しい状況で迎えているんだ」
何度か何名かには説明してきた通り、1部残留争いにおいて降格の最右翼は『2部から昇格したばかりのチーム』ことゴブリンチームとハーピィチームだ。そしてその次に昨シーズン最終節で奇跡的な残留を果たしたエルフチームが続く。
この3チーム同士の直接対決は残留争いに大きな影響を与え重要度が高い。しかもハーピィは目下3連勝中でこちらは1勝1敗1引き分け。次のゴルルグ族戦も楽観視はできないし勢いでは明らかに負けている。
と言った内容を、サッカードウに詳しくない彼女たちに話しても通じないよなあ。だったら……
「例えるなら2話までは好評だったが3話がやや微妙な深夜アニメで、しかも同時期に始まった他局の番組が声優さん呼んで『大ヒット御礼特番配信』をやってる様な状況でね」
「なんだとっ!?」
その俺の説明を聞いてステフが思わず立ち上がった。
「え? どういう意味?」
まだポカンとしているノゾノゾさんに、スワッグが鶏冠を逆立てて叫ぶ。
「つまりこれは……3話切りの大ピンチだぴい!」
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