D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十二章

コーチにも必要なもの

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 キャプテンでもあり天才魔術師でもあるシャマーさんの言葉に俺は思わず立ち上がった。
「それほど明確な干渉があったんですか!? 何か掴みましたか!?」
 俺は部屋の中――船の形をした俺のツリーハウスにおいては、海図を広げる作戦室にあたる――に彼女が持ち込んだ様々な計測装置に目をやった。
「掴む?」
「ゴルルグ族の盗聴とかハッキングがあったんじゃないんですか?」
 俺とシャマーさんは互いに質問を投げて相手の顔をじっとみた。暗い部屋の中に沈黙が訪れ、装置の魔法エネルギーが発しているジジッ、という音だけが鳴り響く。
「あ、ハッキングじゃ分からないですよね。魔法陣の書き換えとか結界への潜入とか……」
 そう、魔法通信がゴルルグ族によって盗聴されているのではないか? と警戒していたのは前述の通り。今回、俺たちはそれを逆手にとれないか実験をしていたのである。
 策略としては簡単なものだ。外交や商業に使われるような公的或いは大がかりなモノではなく、敢えて個人ユースの魔法装置を使ってセキュリティレベルを下げてハッカー的存在を誘い出し、その動きを分析する。 
 上手くいけばそのルートを逆に辿ってこちらが盗聴返しをする事ができるし、そこまでいかなくても相手のやり口を学べば次回以降、盗聴を妨害して内密の話が出来るようになるかもしれない。
 その為に今回はクラブハウスではなく俺の家から通話を行い、それに探知用の装置をつけてシャマーさんが密かにモニタリング監視をしていたのだ。 ……していたんだよね、シャマーさん?
「ああ、なるほどねー。ハニーポットに幾つかの織が残っているから、それらを繋ぎ合わせて解析して……ってそっちじゃないわよ!」
 シャマーさんは唇を摘みながら話し出したが、すぐに口を止め手を伸ばすと俺の唇をピン、と弾いた。
「さっき分かるべきだったのは魔法の織じゃなくて心の機微! 選手がどれだけいたって、ナリンは寂しいのー」
「はぁ……」
 ナリンさんが寂しい? 彼女もデイエルフに多い大家族の子だがポリンさん始め親戚は近くに多く住んでいるし、寂しいとかあるかなあ?
「ショーちゃんに会えないのが、ね?」
 シャマーさんはそう言うと、その言葉に疑問符でいっぱいになっている俺に近寄り背後からぎゅっと抱き締めてきた。
「シャマーさん!?」
「私もナリンもさー。ショーちゃんから『デニス老公会が何かしてくるかもしれない』って聞かされてたから、まだ心構えはできていたよ? でも心配は心配だったしさー。しかもナリンに至ってはその気持ちを抱えながら、監督の留守をコーチとして預かっているんだよ? もっとその気持ちを慮るおもんばかる必要があるよ?」
 オーバメヤンカルバハル?
「お・も・ん・ば・か・る、よ! どうせあっちのサッカードウ選手の名前で何か語呂合わせでも考えていたんでしょ?」
 ギクリ! サッカードウ選手じゃなくてサッカー選手だけどな! どっちも試合に負けたからって水着で馬車を洗わないし!
「よく考えて? ショーちゃんがこっちに来てから一番ずっと一緒にいたのは誰? 悔しいけどナリンだよ?」
 うむ、それはそうだ。彼女は監督とコーチという間柄だけでなく、雇用主と個人アシスタントでもあり師匠と弟子でもある。
「確かに彼女にはずっと側にいて貰いましたし、離れた今も責任が双肩にかかっていますね……」
「でしょー?」
 俺はナリンさんのナチュラルな生命力に溢れた身体と、しかし意外と細い上半身を思い浮かべていた。
「なんとか、そのストレスを解消してあげないと、ですね」
「うん」
 シャマーさんは出来が悪い弟子がようやく何かを掴んだのを見た先生のように頷いた。
「ゴルルグ戦が終わったら……」
「うんうん」
「コーチ陣にも休暇を与えましょう!」
 俺はちょうど作戦室に貼ってあったカレンダーを見ながら叫んだ。
「うんう……ん!?」
「次のハーピィ戦にはちょっと秘策があって俺はそちらへ注力するつもりでしたが、上手くやればスケジュールを前倒しして仕込みを早く終えられますからね。そこからチームの面倒は俺が見れば良い」
 話しながら現実にある日程表と脳内の工程表を素早く行き来し、ふと突然の早口に呆然としているシャマーさんに気づいた。
「そうだシャマーさん!」
「……」
 そして無言の彼女のバックハグをふりほどき、正面を向いて両肩を掴む。
「お礼を言わなきゃ! ありがとうございます! 俺にはその視点が欠けていました。いやはや、やっぱりシャマーさんは目の付け所が違う!」
 俺は天才魔術師の肩から二の腕をさすりながら、何度も頭を下げる。嬉しいやら恥ずかしいやらだ。選手には
「練習、栄養補給、休息」
の三要素が必須だと何度も説きながら、それをコーチ陣には適応していなかった。ザックコーチについては遠征中にラビンさんとゆっくりする時間が取れたがあれも偶然の産物だし彼も永い間、実家に帰っていない筈だ。
「ジノリコーチもニャイアーコーチも里帰りしてない筈だし、アカサオに至ってはゴルルグ族戦後にそのまま現地解散して、グレートワームでゆっくりして帰ってきたら良い訳ですからね! そう考えたらタイミングもベストだ!」
 残念ながらドワーフ、フェリダエ、ミノタウロスとの対戦はまだ少し後だし、それまでコーチ陣の休暇を引き延ばしては申し訳ない。まあこれはアカリさんとサオリさんが幸運だったということだろう。
「そう言えばシャマーさんもアレですよね? 懇親会にも家族を呼ばなかったし。この機会に……あれ? シャマーさん?」
 俺はそこにきてようやく、彼女の両手がわなわなと動いている事に気がついた。
「ショーちゃんの……」
「はい?」
「バカー!!」
 そして魔術師の器用な指先が、俺の両脇を抓り廻す!
「痛てててくすぐった痛くすぐったい!」
 電撃も100tハンマーも落ちてはこなかった。しかし激しい痛痒さが俺の脇から全身へ流れる。
「ひゃっひゃひゃひゃ……やめてください! どうしたんですかシャマーさん!?」
「もう知らない!」
 そこでシャマーさんは急に指の動きを止め、ふわっと宙を飛び部屋から出て行こうとする。
「え、でも分析とか装置とか……」
「寝て起きたらする……。おやすみ……」
 冷たい声だった。その声と影が刺して見えない顔と浮遊感はまるで幽霊のよう。
「そうです……か? はい……」
 俺のしまらない返事を待たず、彼女は消えた。静かに唸る魔法装置に囲まれて、俺はしばらく呆然と座っていた。
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