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第二十二章
ロスタイムの攻防
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「次のゴルルグ族戦と言えば……もうちょっとして合流するんだよね?」
「ええ。ここでもう少し用事を済ませて、レイさんを王都へ送ってからになりますので。でもコーチを信じていますしナイトエルフのコンビも控えには入りますから。準備期間が短くても勝算はあります」
バートさんが今回持ってきた酒も、やはり良い逸品だった。するっと喉を通って一瞬で体が暖かくなる。良いもの飲んでるな、セレブめ!
「ああ、その、レ……レイさんて子だけど……」
一方、バートさんの言葉はあまりするっと出てこなかった。もう酔っているのかな?
「はい。彼女はまだ未成年で学生なので、アウェイには出さない様にしているんですよ。他のチームには内緒ですが」
デニス老公会とはもう友好関係だ。教えてしまっても大丈夫だろう。
「そうなんだ。アシ……いいよね」
「いい……」
プロ同士多くを語らない。アシの一言ですべてが通じる……。伝説的なサッカードウ選手であるバートさんの目にも、レイさんのテクニックは別格に映っているのだろう。
「やっぱりショーキチさんもあの位の肉付きが好みなのかな!?」
ごめん、通じてなかった。急に熱量の高い声でバートさんに聞かれて俺はややパニックになる。
「好み!? いや、試合へ向けてのコンディションは気にしますがそれもフィジコのザックコーチがメインだし、そーいう目で見た経験は無いので分かりかねるというか……」
「そうなの? でもあの子はショーキチさんの事をそーいう目で見てそうじゃない? 『めおとになる』って」
言ってましたね。てかずっと言ってますからね、彼女。
「あれはレイさんガチ恋勢のウォジーさんへの匂わせ? 牽制? ですよ!」
ウォジーさん――流石にもうさん、をつけてやる。ちょっと可哀想だったし――がレイさんのファンであるのは薄々気づいていた。なぜなら俺が到着するまで遊ばれていた卓上に、レイさんのア・クリスタルスタンドがあったからだ。
デイエルフのみんながみんな、口で言うほどにデイエルフ至上主義ならわざわざ買ったりはしない筈だし。そう考えると特に厳しかったウォジーの俺への態度は、レイさんをそーいう目で見ている彼のやっかみ、嫉妬だったのかもしれない。
「ふーん。じゃあさ、そーいう目で見て私のアシってどう?」
そう言うとバートさんは椅子を移動させて俺の横に座り、片足をクイっ、と俺の膝の上に載せた。
「はい!?」
「ガタッ!」
俺の心は大いに揺さぶられ、ロッカーも同じくらいに揺れた。
「いや、ですから経験ないので……」
「何事にも初めて、ってあるよね! やってみよ?」
そんな励ますような言い方をするものじゃなくない!?
「あ、でもブーツが邪魔で見えないか。ねえ、ぬ、が、せ、て?」
バートさんは酔ったトロンとした目で俺を見て言った。
「いや、別に見なくても……」
「ねえ! 早く」
ブーツのつま先がせつく様にある部位を突きそうになり、俺はそれを防ぐ為に両手で掴んでしまった。
「ん。じゃあそのまま引っ張って」
バートさんはそう言いながらアシを上げ身体を後ろに傾けブーツを引き抜こうと、いや引き抜かせようとし……
「うん、しょ……と、ああっ!」
椅子ごと後ろに倒れてしまった!
「ばっ、バートさん、大丈夫ですか!?」
俺は彼女から目を背けていた為――だってあの角度からだと見ちゃいけない部分が見えちゃうじゃん!――手を伸ばすのが間に合わなかった。慌てて立ち上がりバートさんに近寄る。
「あはははは! 倒れちゃった!」
心配する俺をヨソに、彼女は酔っぱらい特有のノリで大笑いしていた。良かった、怪我は無いようだ。
「もう、笑い事じゃないですよ」
俺はそう言いつつも安堵のため息を漏らし、彼女を助け起こしにかかる。
「ショーキチさんと『めおと』になったら、毎日こうやって笑えるのかな?」
「えっ!?」
バートさんが何かに憧れるような口調で呟き、その言葉に不意を打たれた俺は彼女に引き倒され上に乗る状態になるのを防げなかった。
「私、ショーキチさんにキスするね」
その次に行われた行為は不意打ちではないが、やはり防げなかった。バートさんは下から俺を引き込み凄い力で抱きしめ、唇を重ねた。
「(バートさん力強い!?)」
重ねられた、だけでは済まなかったが、絡みついてくる様々なものを俺は振り解く事ができなかった。酔っているという事もあるし、力比べで負けているというのもあるし、彼女はチーム関係者でも選手でもないので俺の中でストッパーが効きにくいというのも……あ、選手!
「ガタガタ!」
ロッカーがまた激しく揺れ、俺とバートさんは揃って我に返った。
「なっ、何の音!?」
「何でしょうかね! 外ですかね? ちょっと見てきます!」
と慌てて立ち上がりつつ彼女から目を逸らして助け起こす、という器用な真似をする。
「あっ!」
しかし、バートさんが部屋へ入る時に閉めたドアに立ち塞がれる。いくら器用でも壁を開けるほどの器用さを俺は持っていなかった。
「あはは、ここだよ」
笑いながら近寄ったバートさんは湿った声でそう言い、言葉と同じくらい湿った手を俺の手に重ねて壁の一部を触った。音もなく壁が開いていく。
「どうも、です。うーん、特に誰もいないような……」
外にはね! いるのはロッカーの中だから!
「そうだね。あ、私ちょっとお手洗いへ行ってくる」
「あ、俺もです」
酒を飲んだ生物として――エルフも人間も同じらしい――当然の反応が身体に起こっていた。それを解消する必要があるだろう。なおそれ以外の反応についてはノーコメントだ。
「女はこっちだけど……男はあっち」
女と男の部分をやけに強調しながら、バートさんはお手洗いの方向を示した。
「ありがとうございます。では、その……」
俺たちは複雑な視線を絡ませ合いながら、それぞれのお手洗いの方へ歩き出した。否、俺は数歩あるいてバートさんから見えなくなっているのを確認して、すぐ部屋の中へ戻りロッカーを開けた。
「リストさん! 助けて下さい!」
「ええ。ここでもう少し用事を済ませて、レイさんを王都へ送ってからになりますので。でもコーチを信じていますしナイトエルフのコンビも控えには入りますから。準備期間が短くても勝算はあります」
バートさんが今回持ってきた酒も、やはり良い逸品だった。するっと喉を通って一瞬で体が暖かくなる。良いもの飲んでるな、セレブめ!
「ああ、その、レ……レイさんて子だけど……」
一方、バートさんの言葉はあまりするっと出てこなかった。もう酔っているのかな?
「はい。彼女はまだ未成年で学生なので、アウェイには出さない様にしているんですよ。他のチームには内緒ですが」
デニス老公会とはもう友好関係だ。教えてしまっても大丈夫だろう。
「そうなんだ。アシ……いいよね」
「いい……」
プロ同士多くを語らない。アシの一言ですべてが通じる……。伝説的なサッカードウ選手であるバートさんの目にも、レイさんのテクニックは別格に映っているのだろう。
「やっぱりショーキチさんもあの位の肉付きが好みなのかな!?」
ごめん、通じてなかった。急に熱量の高い声でバートさんに聞かれて俺はややパニックになる。
「好み!? いや、試合へ向けてのコンディションは気にしますがそれもフィジコのザックコーチがメインだし、そーいう目で見た経験は無いので分かりかねるというか……」
「そうなの? でもあの子はショーキチさんの事をそーいう目で見てそうじゃない? 『めおとになる』って」
言ってましたね。てかずっと言ってますからね、彼女。
「あれはレイさんガチ恋勢のウォジーさんへの匂わせ? 牽制? ですよ!」
ウォジーさん――流石にもうさん、をつけてやる。ちょっと可哀想だったし――がレイさんのファンであるのは薄々気づいていた。なぜなら俺が到着するまで遊ばれていた卓上に、レイさんのア・クリスタルスタンドがあったからだ。
デイエルフのみんながみんな、口で言うほどにデイエルフ至上主義ならわざわざ買ったりはしない筈だし。そう考えると特に厳しかったウォジーの俺への態度は、レイさんをそーいう目で見ている彼のやっかみ、嫉妬だったのかもしれない。
「ふーん。じゃあさ、そーいう目で見て私のアシってどう?」
そう言うとバートさんは椅子を移動させて俺の横に座り、片足をクイっ、と俺の膝の上に載せた。
「はい!?」
「ガタッ!」
俺の心は大いに揺さぶられ、ロッカーも同じくらいに揺れた。
「いや、ですから経験ないので……」
「何事にも初めて、ってあるよね! やってみよ?」
そんな励ますような言い方をするものじゃなくない!?
「あ、でもブーツが邪魔で見えないか。ねえ、ぬ、が、せ、て?」
バートさんは酔ったトロンとした目で俺を見て言った。
「いや、別に見なくても……」
「ねえ! 早く」
ブーツのつま先がせつく様にある部位を突きそうになり、俺はそれを防ぐ為に両手で掴んでしまった。
「ん。じゃあそのまま引っ張って」
バートさんはそう言いながらアシを上げ身体を後ろに傾けブーツを引き抜こうと、いや引き抜かせようとし……
「うん、しょ……と、ああっ!」
椅子ごと後ろに倒れてしまった!
「ばっ、バートさん、大丈夫ですか!?」
俺は彼女から目を背けていた為――だってあの角度からだと見ちゃいけない部分が見えちゃうじゃん!――手を伸ばすのが間に合わなかった。慌てて立ち上がりバートさんに近寄る。
「あはははは! 倒れちゃった!」
心配する俺をヨソに、彼女は酔っぱらい特有のノリで大笑いしていた。良かった、怪我は無いようだ。
「もう、笑い事じゃないですよ」
俺はそう言いつつも安堵のため息を漏らし、彼女を助け起こしにかかる。
「ショーキチさんと『めおと』になったら、毎日こうやって笑えるのかな?」
「えっ!?」
バートさんが何かに憧れるような口調で呟き、その言葉に不意を打たれた俺は彼女に引き倒され上に乗る状態になるのを防げなかった。
「私、ショーキチさんにキスするね」
その次に行われた行為は不意打ちではないが、やはり防げなかった。バートさんは下から俺を引き込み凄い力で抱きしめ、唇を重ねた。
「(バートさん力強い!?)」
重ねられた、だけでは済まなかったが、絡みついてくる様々なものを俺は振り解く事ができなかった。酔っているという事もあるし、力比べで負けているというのもあるし、彼女はチーム関係者でも選手でもないので俺の中でストッパーが効きにくいというのも……あ、選手!
「ガタガタ!」
ロッカーがまた激しく揺れ、俺とバートさんは揃って我に返った。
「なっ、何の音!?」
「何でしょうかね! 外ですかね? ちょっと見てきます!」
と慌てて立ち上がりつつ彼女から目を逸らして助け起こす、という器用な真似をする。
「あっ!」
しかし、バートさんが部屋へ入る時に閉めたドアに立ち塞がれる。いくら器用でも壁を開けるほどの器用さを俺は持っていなかった。
「あはは、ここだよ」
笑いながら近寄ったバートさんは湿った声でそう言い、言葉と同じくらい湿った手を俺の手に重ねて壁の一部を触った。音もなく壁が開いていく。
「どうも、です。うーん、特に誰もいないような……」
外にはね! いるのはロッカーの中だから!
「そうだね。あ、私ちょっとお手洗いへ行ってくる」
「あ、俺もです」
酒を飲んだ生物として――エルフも人間も同じらしい――当然の反応が身体に起こっていた。それを解消する必要があるだろう。なおそれ以外の反応についてはノーコメントだ。
「女はこっちだけど……男はあっち」
女と男の部分をやけに強調しながら、バートさんはお手洗いの方向を示した。
「ありがとうございます。では、その……」
俺たちは複雑な視線を絡ませ合いながら、それぞれのお手洗いの方へ歩き出した。否、俺は数歩あるいてバートさんから見えなくなっているのを確認して、すぐ部屋の中へ戻りロッカーを開けた。
「リストさん! 助けて下さい!」
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