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第二十一章

最終交渉

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「交渉をするなら形から入りませんとね。で、どこからでしたっけ?」
「お主!? その服は確か我らが保管していた筈。どうやって!?」
「確かカップ戦とか言ってましたよね? カップ戦だけでもデイエルフでスタメンを組めないか? って所ですか」
 慌てるデニス老公会を前に俺は交渉を先へ先へ進めた。戦況が変わるのを、相手の用意が整うのを待って闘うスタイルは俺と俺のチームのスタイルではない。
「実のところ、その妥協点は俺も考えないではありませんでした。ですがやはり受け入れかねます。理由は三つ。一つには、カップ戦は貴重な『実験』の場です。仮に全敗で終わっても降格するというペナルティは無い。実戦でなければ分からない色々な事を試したい」
 ペナルティは無い、と言っても仮に連敗し続けたらやはりチームの雰囲気やモメンタム――懐かしい言葉だ。感情とか意欲の事だよ――は悪くなるんだけどね。まあそれはそれ。
「二つには、カップ戦は効率の良く優勝を狙える場です。たった7試合で、しかも全部を勝たなくても優勝できる。一つ目と矛盾する様ですが、展開次第では本気でカップを取りに行きたい」
 予選リーグは全勝しなくても上位に入ればトーナメントへ進出できるし、準決勝と決勝はPK戦の勝利でもOKだ。組み合わせ次第でチャンスはあると見ている。
「三つには……エルフ代表の未来は、みんなで作っていくモノです。デイエルフだけとか誰かだけとかじゃなくて」
 俺は今までと同じ事を繰り返した。それを聞いたデニス老公会の面々の表情は様々だった。悔しさ、納得、懇願、安堵……。俺は机の影でポケットの中の物の感触を確かめながら続ける。
「さて。こちらにも提案はあります。未来は貴方達の思い通りにはなりません。俺の思い通りにも、ですが。が、過去は別です」
 そう言うと俺はさっき触っていた物をテーブルの上に置いた。
「これは……!?」
「『伝説レジェンドのプレイヤーが君たちの手の中に!』です」
 俺は驚くデニス老公会の皆さんに、昔のCMっぽい声で言った。
「私ってこんなに太ってないよね?」
「いや、首から下はダリオさんだからですって!」
 バートさんの苦情に俺はフォローを飛ばす。机の上に置かれたのは、ユニフォームを着てポーズを取るバートさんのア・クリスタルスタンドだったのだ。
「選手時代のバート……!」
「出来はボチボチですけどね。他にも少々あります」
 俺はそう言いながら、他にも何点かの作品を取り出して置く。首から上は往年の名選手達、下は現役選手の誰かというアイコラ――アイドルや芸能人の顔を雑誌や画像から切り取って、他の人のエッチな画像の顔に張り付けるヤツだ。もうあまり見なくなったけどね――もどきのものではあるが。
「こんな物は売ってなかったではないか!?」
「ええ、これは試作品です。でも売れる見込みはあると思いますし、もしお望みでしたら正規版が出た際にレジェンド選手シリーズをみなさんにプレゼントしますよ」
 俺はそこで一息ついて、言った。
「もちろん、俺を解放し、今後は良好な関係を築いてくれるのでしたら、ですが」
「……なっ!?」
 デニス老公会の反応はまさに『ショーウィンドウのトランペットを見つめる少年』だった。何名かは既に『落ちて』いて、ジャバさんに耳打ちしている。
「ねえ、ショーキチさん。ア・クリスタルスタンドの撮影って何時するの? やっぱり王都で?」
「まだ決まってませんけど。どうしてですか?」
 騒然とする他の老公会を横目に、バートさんが小声で訊ねてくる。
「いやだって……。撮影までに身体を仕上げて行きたいからさー」
「要りますか!? バートさん、今でもグッドシェイプ引き締まった身体じゃないで……いて!」
 誰かが足を踏み俺は大声をあげた。その声で全員の視線が俺に集まる。
「『おまえ達は口出しせず、お人形遊びで満足しろ』と言う事か?」
 それを機にウォジーが皮肉を込めた口調で言った。お、お前と意見が一致するのは初めてだな。
「認めましょう、悪く言えばそうです。一方で良く言えば、これはエルフだけの特権です」
「「エルフだけの!?」」
 俺の言葉に怪しい通販番組の様な合いの手が入る。
「ア・クリスタルスタンドにレジェンド選手のラインナップが加わるのはね。全種族について、生産はウチが一括していますがそんな注文は他から来ていませんし。それに考えてみて下さいよ……」
 余談ではあるが、詐欺師が『考えてみて下さいよ』とは言うときは暗に『冷静に考えないでくれ』との願いが含まれている。
「全盛期と同じ姿のレジェンド選手を多数手に入れられるのは、エルフだけなんですよ?」
「「あっ!」」
 全員がほぼ同時に、それに思い当たったのか声を上げた。
「お気づきですね?」
 そうなのだ。他の種族、例えばゴブリンやハーピィーはエルフほど寿命が長くない。またフェリダエやトロールは近年の強豪チームで、『レジェンド』と言われるような昔の名選手はいない。
 ただエルフのみが、かつて栄光を手にした選手が存命し、しかも当時と変わらぬ姿で生きている。甘めに判定すればドワーフくらいか? ニーズと供給がありそうなのは。
「それにオールスターの投票券は……?」
「つきますよ。なんならサインもつけても良い」
 俺がそう言うとデニス老公会の殆どが拳を突き上げた。ふむ、そろそろタイミングだな。
「もしお望みならお持ちの現役選手のア・クリスタルスタンドにもサインして貰いますか? 今、いる選手に限りますが」
 俺はそう言ってみんなに合図を送った。すると彼女らは一斉に例のアイテムをその身からはぎ取った。
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