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第二十一章

昼しかない日

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 手紙にはかなり簡潔な言葉で、俺がトロール戦の次のゴルルグ族戦についての秘密作戦に従事していること――つまり俺の拐かしはそれくらい長期に渡る可能性があるということか――と、トロール戦での選手起用についての指示が書いてあった。
 システムは442。GKはボナザさん、DFはパリスさんムルトさんガニアさんポリンさんの4枚。ボランチがアガサさんとシノメさんで左ワイドがツンカさん、右ワイドがリーシャさん。2TOPはエオンさんとヨンさん……という内容だった。
 布陣としては別に理不尽なものではない。しっかり守ってサイドのWGを走らせクロスをあげさせ、中央で決める。格下相手なら通じるだろう。
 だがポリンさんに右SBをやらせるのは運動量や守備強度インテンシティの上でやや不安だし、活躍し点も取ったからと言ってエオンさんを2TOPに置くのは安直だ。過去には日韓W杯の前のKリーグの様に、格チーム代表選手を必ず前線のFWに置き得点を取らせ、無理矢理スター選手にする、みたいな策をとった件もあるのだが。
 それが減点その2。ほかにも細かい減点ポイントを見つけたり安心したりしながらスクリーンを横目で見ると実際の布陣は少し異なり、ムルトさんの代わりにパリスさんがCBに、左SBにはティアさんが入っていた。また手紙ではダリオさんが控えにいたが、彼女は観客席で若いドワーフへにこやかに話しかけていた。
 もしかしてカラム君――ドワーフとのプレシーズンマッチでボールパーソンを勤め、ダリオさんに素早くボールを渡して先制点をアシストしてくれた――じゃないか? と眼鏡を外して服の袖に仕舞い目を凝らして見たらまさに彼だった。
 そうか、彼をエルフの国へ招待するの、無事叶ったんだな。良かった。
「本来であれば試合の翌日に、絶情木から出てきたお主たちに録画を見せる予定であったが……まあよい。共に観よう」
 スクリーンに目をやった俺にジャバさんがそう声をかける。ふむふむ、普通に歩けばそんなタイミングだったのね。しかし早歩きで回ったから少し前にズレたと。だとしたら手紙や眼鏡を持ち歩いていたのは随分と気が早いな! それだけ楽しみだったのか?
 と、老エルフ英雄側の思惑はそれとして、バートさんの方は何を意図してそうさせたんだろう? と彼女の顔を見たが、デニス老公会の頭領は黙って首を振って映像に視線を戻した。
 まずは黙って試合を見てくれ、という事か。俺は彼女の意を汲んで、まもなく開始する試合へ集中することにした。

 アローズの試合の入りは悪くなかった。俺が不在でもチームは緩まなかった、と見える動き――コーチ陣がよく鍛えてくれたようだ――だったし、アウェイを1勝1分で乗り越えて帰ってきた選手たちをホームの観客も熱狂的な声援で後押しした。
 相手が普通のチームであればそれで押し込めただろう。先制点すら取れたかもしれない。だがトロールチームは普通のチームではなかった。
 体格を生かした激しい守備は鉄壁を誇り、ブヨブヨの表皮は予想を覆す柔らかなボールタッチを生む。また再生能力においては負傷もスタミナ切れも無いモノにしてしまう。
 昨シーズンの映像や直接、視察したカップ戦の時から何も変わらない姿がそこにあった。だが彼女らは何も変わらなくて良いのだ。
 サッカードウ1部リーグ優勝経験者にして上位に君臨し続ける最強チームの一つ。上にフェリダエ族さえいなければ、もっと多くリーグを制覇していただろう。
 アローズもリーグ開設初期には何度も優勝しているチームではある。しかし現在のチーム力で言えば決して強豪ではない。そんな彼女らが今シーズン初めて本当に強いチームと――ここまでの対戦相手、オーク、インセクター、ゴブリンは中位以下のチームだしガンス族は新月で絶不調だった。どこも強敵とは言えない――当たった。その現実は……なかなか過酷なモノだった。

「ああ、また潰された!」
 この試合で何度目かになる無念の呪詛が老公会の口々から立ち上った。画面には楔のパスを受けたエオンさんが数秒とボールをキープできず奪われ、ツンカさんとティアさんが慌ててフォローへ走る姿が映っていた。
「どうしてだ! ゴブリン戦の様に相手を手玉にとるプレーをすれば良いだろうに!」
「ゴブリンのDFとトロールを一緒にしては失礼ですよ。あとあの時はカウンターの局面でサイドから受けて、ですが今は中央で守備を固めて待ちかまえている相手ですし」
 あと出し手だったパリスさんのボールもイマイチだったとかFWの相方であるヨンさんとの距離が遠いとか、普段ナリンさんやジノリコーチと練習を見守っている時の様なテンションで俺は続けた。
「ショーキチさんだったらどうしてた?」
「そもそもスタメン選びが違いますが……。まあ、使いたい選手が変なもの喰って出れない場合もありますもんね。このスタメンで行くなら、ですね」
 俺は部屋の中を探して前に使った炭の欠片がまだあるのを発見し、座り込んでそれで床に布陣を書きながら話し始めた。
 試合に集中している様で、デニス老公会の面々の耳がバッチリこちらを向いているのを確認しながら、だったが。
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