D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
375 / 693
第二十一章

昼しかない日

しおりを挟む
 手紙にはかなり簡潔な言葉で、俺がトロール戦の次のゴルルグ族戦についての秘密作戦に従事していること――つまり俺の拐かしはそれくらい長期に渡る可能性があるということか――と、トロール戦での選手起用についての指示が書いてあった。
 システムは442。GKはボナザさん、DFはパリスさんムルトさんガニアさんポリンさんの4枚。ボランチがアガサさんとシノメさんで左ワイドがツンカさん、右ワイドがリーシャさん。2TOPはエオンさんとヨンさん……という内容だった。
 布陣としては別に理不尽なものではない。しっかり守ってサイドのWGを走らせクロスをあげさせ、中央で決める。格下相手なら通じるだろう。
 だがポリンさんに右SBをやらせるのは運動量や守備強度インテンシティの上でやや不安だし、活躍し点も取ったからと言ってエオンさんを2TOPに置くのは安直だ。過去には日韓W杯の前のKリーグの様に、格チーム代表選手を必ず前線のFWに置き得点を取らせ、無理矢理スター選手にする、みたいな策をとった件もあるのだが。
 それが減点その2。ほかにも細かい減点ポイントを見つけたり安心したりしながらスクリーンを横目で見ると実際の布陣は少し異なり、ムルトさんの代わりにパリスさんがCBに、左SBにはティアさんが入っていた。また手紙ではダリオさんが控えにいたが、彼女は観客席で若いドワーフへにこやかに話しかけていた。
 もしかしてカラム君――ドワーフとのプレシーズンマッチでボールパーソンを勤め、ダリオさんに素早くボールを渡して先制点をアシストしてくれた――じゃないか? と眼鏡を外して服の袖に仕舞い目を凝らして見たらまさに彼だった。
 そうか、彼をエルフの国へ招待するの、無事叶ったんだな。良かった。
「本来であれば試合の翌日に、絶情木から出てきたお主たちに録画を見せる予定であったが……まあよい。共に観よう」
 スクリーンに目をやった俺にジャバさんがそう声をかける。ふむふむ、普通に歩けばそんなタイミングだったのね。しかし早歩きで回ったから少し前にズレたと。だとしたら手紙や眼鏡を持ち歩いていたのは随分と気が早いな! それだけ楽しみだったのか?
 と、老エルフ英雄側の思惑はそれとして、バートさんの方は何を意図してそうさせたんだろう? と彼女の顔を見たが、デニス老公会の頭領は黙って首を振って映像に視線を戻した。
 まずは黙って試合を見てくれ、という事か。俺は彼女の意を汲んで、まもなく開始する試合へ集中することにした。

 アローズの試合の入りは悪くなかった。俺が不在でもチームは緩まなかった、と見える動き――コーチ陣がよく鍛えてくれたようだ――だったし、アウェイを1勝1分で乗り越えて帰ってきた選手たちをホームの観客も熱狂的な声援で後押しした。
 相手が普通のチームであればそれで押し込めただろう。先制点すら取れたかもしれない。だがトロールチームは普通のチームではなかった。
 体格を生かした激しい守備は鉄壁を誇り、ブヨブヨの表皮は予想を覆す柔らかなボールタッチを生む。また再生能力においては負傷もスタミナ切れも無いモノにしてしまう。
 昨シーズンの映像や直接、視察したカップ戦の時から何も変わらない姿がそこにあった。だが彼女らは何も変わらなくて良いのだ。
 サッカードウ1部リーグ優勝経験者にして上位に君臨し続ける最強チームの一つ。上にフェリダエ族さえいなければ、もっと多くリーグを制覇していただろう。
 アローズもリーグ開設初期には何度も優勝しているチームではある。しかし現在のチーム力で言えば決して強豪ではない。そんな彼女らが今シーズン初めて本当に強いチームと――ここまでの対戦相手、オーク、インセクター、ゴブリンは中位以下のチームだしガンス族は新月で絶不調だった。どこも強敵とは言えない――当たった。その現実は……なかなか過酷なモノだった。

「ああ、また潰された!」
 この試合で何度目かになる無念の呪詛が老公会の口々から立ち上った。画面には楔のパスを受けたエオンさんが数秒とボールをキープできず奪われ、ツンカさんとティアさんが慌ててフォローへ走る姿が映っていた。
「どうしてだ! ゴブリン戦の様に相手を手玉にとるプレーをすれば良いだろうに!」
「ゴブリンのDFとトロールを一緒にしては失礼ですよ。あとあの時はカウンターの局面でサイドから受けて、ですが今は中央で守備を固めて待ちかまえている相手ですし」
 あと出し手だったパリスさんのボールもイマイチだったとかFWの相方であるヨンさんとの距離が遠いとか、普段ナリンさんやジノリコーチと練習を見守っている時の様なテンションで俺は続けた。
「ショーキチさんだったらどうしてた?」
「そもそもスタメン選びが違いますが……。まあ、使いたい選手が変なもの喰って出れない場合もありますもんね。このスタメンで行くなら、ですね」
 俺は部屋の中を探して前に使った炭の欠片がまだあるのを発見し、座り込んでそれで床に布陣を書きながら話し始めた。
 試合に集中している様で、デニス老公会の面々の耳がバッチリこちらを向いているのを確認しながら、だったが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...