D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十一章

心と樹の内側

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「あら、ショーキチ君。ずいぶんたくさん並べて。それはなあに?」
 ベビーベッドの横にボールや本やぬいぐるみを並べる男の子へ、母親らしき女性が優しく問いかけた。
「おもちゃ! てんちゃんがうまれたら、ボクがたくさんおしえてあげるんだ!」
 男の子はそう言って自分の指を折り数え始める。
「さっかーに、かいじゅうに、らいだーごっこに……。あとおべんきょうも!」
「はは! 英才教育だな! でも言っただろ? 天使ちゃんは女の子の予定なんだぞ?」
 新たに優しそうな男性が現れ、母親の肩を抱きながら男の子を笑った。恐らく女性の夫、そしてその気の早い子の父親であろう。
「おんなのこだってさっかーもらいだーもするもん!」
「そうだけど。サッカーは二人じゃできないぞ?」
「おかあさんにいっぱいうんでもらうもん! さっかーだからえっと……」
「11人よ! 流石にお母さんでもそんなに沢山は無理だわ」
 女性はそう言いながら大きなおなかをさすった。明らかに妊婦だ。
「いやいやそれでこそ将吉だ。なんてったって将軍だからな。部下が沢山欲しいだろう。頑張ってくれよ、母さん!」
「もう、アナタったら!」
 母親は窘めるように父親の肩を叩く。おー痛ぁ! と騒ぐ父親を心配して男の子がその肩を撫で、あなたは優しい子ね、と今度は母親が男の子の頭を撫でる。

 ……それは少年の心の奥底に眠っていた光景だった。失ってしまった家族と迎える筈だった命。時がその悲しみを癒すとしても充分な時間が経ったとは言えず、彼には時間そのものの手持ちがあまりなかった。
 彼の側にいる存在たちと比較すれば、それは余りにも少ない……。


 夢を見ていた。仕事の――地球でのコールセンターやこの世界のサッカードウ――夢でもなく、シャマーさんが魔法でかけるものでもない、普通の夢を。
「久しぶりだな、これ系の夢」
 俺はそう呟きつつ身体を起こした。部屋は暗く一瞬、自分が何処にいるか分からない感覚に襲われ、すぐにそれが旅行先でよくある軽いパニックだと気づいて落ち着け、と言い聞かせる。
 たぶんここは檻場館おりばかんの俺の部屋だろう。どうやって帰ったか記憶にないけど。寝汗が酷いからスーツが皺になる前に着替えて内風呂へ……
「いや、違うわ!」
 と考えた所で推測が間違っていた事が分かった。なにせ部屋の形がぜんぜん違うし、俺もいつの間にかスーツを脱いで柔らかいローブ――なんとかスパとか健康ランドで至急されるような、頭からスポッと被る長いワンピースの様な服だ――をまとい、布団ではなくベッドに身を横たえている。
「なんだよ、ここ!?」
 俺は立ち上がり窓らしき方へ近寄ろうとし……
「あれれ?」
 バランスを崩して再びベッドへ横たわる形になった。
「あ、起きた~? 無理しちゃだめだよ?」
 倒れた拍子に壁側を向いてしまった俺の背中に、そんな声がかかった。
「えっと……君は誰? ここはどこ?」
 まさか記憶喪失になった人間の定番みたいな台詞を自分が吐くとは、と思いながら俺は身を捩り声をかけてきた存在の方へ身を捩ろうとする。
「私はこの樹のツリーメイト、バート! ショーキチさんのお世話をするね!」
 その声は恐らく若い女の子のモノで、明るく屈託もなく親しみ易さに溢れていた。だが言っている内容は謎も多いし警戒すべき部分もある。何せ俺の周辺はギャルとかメイドとかが多過ぎるのだ! これ以上、増えたら困る! ってそこじゃないか。
「それはどうも……って、メイドじゃないんですね」
 方向転換を終えた俺は部屋の入り口から歩み寄るその存在がエルフの女の子で、俺と似通ったような服を着ている事に気づいた。
「メイドじゃなくてツリーメイトって言ったでしょ? まだ頭がハッキリしない?」
 彼女がそう言う間に部屋が暖かな光に――光源がどこかはさっぱり分からない。たぶん魔法だろう――包まれ、周囲の様子から彼女の顔からがハッキリと見えるようになった。
 まずここはかなり広さの部屋で、ベッドの他に机と椅子だけが一つある簡素な寝室といった感じだ。素材はオール木材、というか巨大な樹木の内側かもしれない。床が完全に平らではなくうねりがあるし、窓も正確な丸や四角ではなく木の洞を利用したように見える。
 そして女の子の方は明らかにデイエルフで、美しい黒髪をやや長めのボブカットにしていた。これで前がパッツンだったり全体の印象が重かったりしたら『おかっぱ』になるんだろうがその境目はどこなんだろうね? と俺を悩ませる程に表情は柔らかく、明るかった。デイエルフ標準装備の彫りの深い顔立ちも切れ目も威圧感を与えてこない。その意味ではユイノさんに似ているが、描き込みの深さと言うか美少女度可愛さは数段上だった。ユイノさんごめん!。
「いや、頭ははっきりしました。分からないのは状況の方です。教えて貰えますか?」
 こちらの名前を知っているしお世話をするとも言ったし、請えば教えてくれそうな雰囲気だ。俺はバートさんとやらの眼を見て言った。
「うん! でもごめんね、貴男を皆の所へお連れするように言われているの。道すがらで良い?」
 彼女は少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、小首を傾げながら言った。そんな顔をされると断れない。と言うかどの道、断ることなんて出来ないだろう。
「良いですよ。仰せのままに」
 俺は笑顔を浮かべて立ち上がった。状況的に俺は……恐らく拉致監禁されている。
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