353 / 651
第二十章
おかしな10(テン)かい
しおりを挟む
選手の着替えが終わり中へ入るのを許されると、俺は備え付けの黒板にデカデカと『10』と数字を書いた。
「これが今日のキーワードです。何か分かるかな?」
クラマさんの伝達により数字は異世界でも地球のと共通だ。非常にありがたい。
「はーい!」
ティアさんが元気良く手を挙げる。今日の彼女のテーマは『自重』なのだが……最初に口を開くあたり、分かってくれているのか不安だ。
「はい、ティアさん」
「お前がいま抱えているセフレの数!」
なっ!?
「「あるあるある!」」
「「ないない」」
俺が否定するより先に支持不支持を表明する声が渦巻いた。
「ショウキチさん、正解は?」
「もちろんない! バツですよ!」
楽しそうに問うダリオさんに大声で不正解を告げたが、彼女は意にも介さずティアさんに何かを渡した。
「ちぇ、実際はもっと多かったか……」
違うわ! ゼロやわ! と訂正しようとする俺の前で武闘派右SBは姫様から受け取ったものを顔に巻く。
「なにそれ?」
マフラーのような、マスクのようなモノがティアさんの顔下半分を覆っている。しかもご丁寧に、口の部分には赤い×マークが刺繍されている。
「お手つきの選手が回答てきないよう、話すのを禁止するアイテムだよ? 知らないの?」
ユイノさんが意外そうに説明する。いや知ってるけど!
「こっちの馬車ではこのクイズ大会ですごーく盛り上がったのよね、リーシャ姉様?」
「まあね! 私はあまり正解しなかったけど」
エルエルがそう補足しリーシャさんが続いた。地球のこのクイズ形式が如何にして伝わったか知らないが、どうやら移動時のザックコーチ側の馬車でやっていた様だ。
「オホン、次の回答者は誰かいるか?」
ミノタウロスのフィジカルコーチはやや顔を赤くしながら司会進行を始めた。さては車内で似たようなクイズでイジられたな?
「はい! パリス!」
「監督が一度に相手できる人数?」
パリスさんが顔を赤くしながら回答を告げた。この守備のユーティリティプレイヤーはいつもガニアさんとコンビを組んでいて影に隠れているタイプだが、こういう事に積極的に参加するとは珍しい。あちらの馬車でのクイズ大会、盛り上がったんだな。
とか感心している場合じゃない! パリスさん何を言ってんの!?
「「あるあるある!」」
「「ないない」」
再び支持不支持を表明する声が渦巻いた。
「ショウキチさん、正解は?」
「聖徳太子じゃあるまいし! バツですよ!」
相手って話を聞くって意味だよね? もちろんハズレだ。俺の言葉を聞いて再びダリオさんが×マスクをパリスさんに渡す。
それにしても王家の象徴さん……クイズ番組のアシスタント楽しそうですね……。
「ショウトクタイシ、ってフー?」
「たぶんだケド、監督のいた国の武術の達人デスー。タッキのいた寺院にもタイシ、いたヨー」
ツンカさんが疑問を口にしタッキさんが適当な嘘を教える。イカン、こんな事をしていたらツッコミがいくらあっても足りないし時間も無い!
「正解は『10分』です! 開始10分、しっかり守って、代わりにこっちも攻撃しなくて良いから! 10分何も起きなかったら、選手も会場も焦れて勝手に崩れてくれるので!」
そう、時間だ。ここまで見てきた通りゴブリンは選手も観客も手軽に騒ぎたい奴らで、我慢強くはない。ものの10分、試合内容が凪ってるだけで限界の筈だ。
「本当はその根拠を説明する予定だっけど時間も無いので! キャプテンお願いします!」
「はーい。良い、みんな? 本当の正解は、ショーちゃんは『週に10回抱く』だからね?」
俺に呼ばれたシャマーさんは皆を集めて円陣を組むととんでもない事を言い出した。
「いや無いそんな体力!」
「3、2、1、『週に10回』で行くよ? 3、2、1……」
「「週に10回!!」」
例によって俺の否定の声は届かず、皆は楽しそうに唱和してロッカーアウトしていく。恐ろしい事にナリンさんやザックコーチまで追従して、だ。
「ちょっと! そんな体力ありませんし、そもそも相手いませんから!」
しかもその計算だと半分近くダブルヘッダーやないかい!
「ふーん、そうじゃったか。なーに隠すでない、ここだけの話ワシもじゃわい」
一人、取り残された俺の所へジノリコーチがやってきて、何か含みがありそうな笑みを浮かべつつ言う。
「え? ジノリコーチも!?」
おそらくもっとも意外な存在から衝撃のカミングアウトを受けてしまった。
「うむ……」
そしてジノリコーチは懐から小さな動物のマスコットの様なモノを取り出した。
「これは小型版のレプリカじゃがな? ワシは毎晩、あとお昼寝の際にはもっと多きなサイズのヤツを抱いて寝ている」
なんや寝る時に抱くぬいぐるみの事かい! しかもわざわざレプリカも持っとんのかい!
「おぬしは何を抱いて寝ておるんじゃ? こういうの、もっておらんのか?」
いや猫や犬の飼い主さんたちがペット写真見せ合うんじゃないから持ってませんって! ただまあ愛用のぬいぐるみについては、デカいフィジカルエリートである大リーグの選手だって持っていたりするよね。プロアスリートにとって睡眠は非常に大事だし、その為の物品を馬鹿にしたりはできない。
「すみません、無いです」
「なんと! それは残念じゃのう。また今度、見せてくれ」
ジノリコーチはそう言うと例の動物を優しく撫で懐へ戻しながら更衣室を出て行く。
「ぬいぐるみねえ……。しかし睡眠環境改善とグッズの新展開として、考えるのもアリだな」
待てよグッズなら抱き枕の方がアリか!? 俺はダリオさんやツンカさんが表面にプリントされた枕を想像して思わず鼻の下を伸ばした。
「……売れる! これは売れるぞ!」
画像なんてア・クリスタルスタンドの時に撮影したヤツの使い回しで良いだろうし、この世界の住人はこの手の萌えグッズに耐性が無いだろうし……。まいったな、勝ちしかない!
「ひっひっひ。儲かりまっかー」
とほくそ笑んだが冷静に考えれば今は試合の直前で、ここは誰もいなくなった女子更衣室だ。怪しく笑っている場合ではない。
「取らぬ狸のなんとやらの前にゴブリンだ!」
俺は自分の両頬をバチン! と叩いてグランドの方へ向かった。
「これが今日のキーワードです。何か分かるかな?」
クラマさんの伝達により数字は異世界でも地球のと共通だ。非常にありがたい。
「はーい!」
ティアさんが元気良く手を挙げる。今日の彼女のテーマは『自重』なのだが……最初に口を開くあたり、分かってくれているのか不安だ。
「はい、ティアさん」
「お前がいま抱えているセフレの数!」
なっ!?
「「あるあるある!」」
「「ないない」」
俺が否定するより先に支持不支持を表明する声が渦巻いた。
「ショウキチさん、正解は?」
「もちろんない! バツですよ!」
楽しそうに問うダリオさんに大声で不正解を告げたが、彼女は意にも介さずティアさんに何かを渡した。
「ちぇ、実際はもっと多かったか……」
違うわ! ゼロやわ! と訂正しようとする俺の前で武闘派右SBは姫様から受け取ったものを顔に巻く。
「なにそれ?」
マフラーのような、マスクのようなモノがティアさんの顔下半分を覆っている。しかもご丁寧に、口の部分には赤い×マークが刺繍されている。
「お手つきの選手が回答てきないよう、話すのを禁止するアイテムだよ? 知らないの?」
ユイノさんが意外そうに説明する。いや知ってるけど!
「こっちの馬車ではこのクイズ大会ですごーく盛り上がったのよね、リーシャ姉様?」
「まあね! 私はあまり正解しなかったけど」
エルエルがそう補足しリーシャさんが続いた。地球のこのクイズ形式が如何にして伝わったか知らないが、どうやら移動時のザックコーチ側の馬車でやっていた様だ。
「オホン、次の回答者は誰かいるか?」
ミノタウロスのフィジカルコーチはやや顔を赤くしながら司会進行を始めた。さては車内で似たようなクイズでイジられたな?
「はい! パリス!」
「監督が一度に相手できる人数?」
パリスさんが顔を赤くしながら回答を告げた。この守備のユーティリティプレイヤーはいつもガニアさんとコンビを組んでいて影に隠れているタイプだが、こういう事に積極的に参加するとは珍しい。あちらの馬車でのクイズ大会、盛り上がったんだな。
とか感心している場合じゃない! パリスさん何を言ってんの!?
「「あるあるある!」」
「「ないない」」
再び支持不支持を表明する声が渦巻いた。
「ショウキチさん、正解は?」
「聖徳太子じゃあるまいし! バツですよ!」
相手って話を聞くって意味だよね? もちろんハズレだ。俺の言葉を聞いて再びダリオさんが×マスクをパリスさんに渡す。
それにしても王家の象徴さん……クイズ番組のアシスタント楽しそうですね……。
「ショウトクタイシ、ってフー?」
「たぶんだケド、監督のいた国の武術の達人デスー。タッキのいた寺院にもタイシ、いたヨー」
ツンカさんが疑問を口にしタッキさんが適当な嘘を教える。イカン、こんな事をしていたらツッコミがいくらあっても足りないし時間も無い!
「正解は『10分』です! 開始10分、しっかり守って、代わりにこっちも攻撃しなくて良いから! 10分何も起きなかったら、選手も会場も焦れて勝手に崩れてくれるので!」
そう、時間だ。ここまで見てきた通りゴブリンは選手も観客も手軽に騒ぎたい奴らで、我慢強くはない。ものの10分、試合内容が凪ってるだけで限界の筈だ。
「本当はその根拠を説明する予定だっけど時間も無いので! キャプテンお願いします!」
「はーい。良い、みんな? 本当の正解は、ショーちゃんは『週に10回抱く』だからね?」
俺に呼ばれたシャマーさんは皆を集めて円陣を組むととんでもない事を言い出した。
「いや無いそんな体力!」
「3、2、1、『週に10回』で行くよ? 3、2、1……」
「「週に10回!!」」
例によって俺の否定の声は届かず、皆は楽しそうに唱和してロッカーアウトしていく。恐ろしい事にナリンさんやザックコーチまで追従して、だ。
「ちょっと! そんな体力ありませんし、そもそも相手いませんから!」
しかもその計算だと半分近くダブルヘッダーやないかい!
「ふーん、そうじゃったか。なーに隠すでない、ここだけの話ワシもじゃわい」
一人、取り残された俺の所へジノリコーチがやってきて、何か含みがありそうな笑みを浮かべつつ言う。
「え? ジノリコーチも!?」
おそらくもっとも意外な存在から衝撃のカミングアウトを受けてしまった。
「うむ……」
そしてジノリコーチは懐から小さな動物のマスコットの様なモノを取り出した。
「これは小型版のレプリカじゃがな? ワシは毎晩、あとお昼寝の際にはもっと多きなサイズのヤツを抱いて寝ている」
なんや寝る時に抱くぬいぐるみの事かい! しかもわざわざレプリカも持っとんのかい!
「おぬしは何を抱いて寝ておるんじゃ? こういうの、もっておらんのか?」
いや猫や犬の飼い主さんたちがペット写真見せ合うんじゃないから持ってませんって! ただまあ愛用のぬいぐるみについては、デカいフィジカルエリートである大リーグの選手だって持っていたりするよね。プロアスリートにとって睡眠は非常に大事だし、その為の物品を馬鹿にしたりはできない。
「すみません、無いです」
「なんと! それは残念じゃのう。また今度、見せてくれ」
ジノリコーチはそう言うと例の動物を優しく撫で懐へ戻しながら更衣室を出て行く。
「ぬいぐるみねえ……。しかし睡眠環境改善とグッズの新展開として、考えるのもアリだな」
待てよグッズなら抱き枕の方がアリか!? 俺はダリオさんやツンカさんが表面にプリントされた枕を想像して思わず鼻の下を伸ばした。
「……売れる! これは売れるぞ!」
画像なんてア・クリスタルスタンドの時に撮影したヤツの使い回しで良いだろうし、この世界の住人はこの手の萌えグッズに耐性が無いだろうし……。まいったな、勝ちしかない!
「ひっひっひ。儲かりまっかー」
とほくそ笑んだが冷静に考えれば今は試合の直前で、ここは誰もいなくなった女子更衣室だ。怪しく笑っている場合ではない。
「取らぬ狸のなんとやらの前にゴブリンだ!」
俺は自分の両頬をバチン! と叩いてグランドの方へ向かった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる