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第十九章
艶会でええんかい?
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「お、来やがったぜ!」
「遅いよ監督ー! 早くごはーん!」
宴会場は本当に日本の旅館にあるような大広間で、畳敷きではないが柔らかな布が床の上に広げられ、直接その上に座るスタイルだった。
そして入り口付近には大股を開いたティアさんと腕まくりしたユイノさんが陣取り、俺を見つけて大きな声を上げた。
「あのね、君たち。そういう格好の時はもう少しお淑やかにね?」
俺は一人の日本人として思わず苦言を申し上げた。何故なら彼女たちの浴衣の着こなしが――そう、選手もコーチ陣も漏れなく浴衣っぽいものを着ているのである――あまりにも酷かったからだ。
「仕方ありませんわ。温泉で身体が火照ってしまったのですもの……」
「ハァイ、ショー! これ、確か由来はユーの国の服でしょ? だったら正しい着用法をティーチして……ワンオンワンで!」
それなりに着れているが胸元がはだけ過ぎのガニアさんと、いかにもハリウッド女優さんがプレゼントで貰ったものを羽織っているだけ……みたいな格好のツンカさんが、それぞれ艶めかしい目つきで立ち上がり、俺に近づき言った。
確かガニアさんの方は一児の母だよな? 『艶母』の伏線、早くも回収じゃないか……ってやかましいわっ!
「ショーキチ殿! こちらです!」
と、ナリンさんの声が聞こえそちらに目をやる。流石にナリンさんと隣のニャイアーコーチは襟もきちんと閉じて整然としている。ザックコーチはヤ○ザ映画の用心棒の様、ジノリコーチは七五三でアカサオは最早コメント不可能な装いだが、総じてコーチ陣は合格点だ。
「前、失礼しますよ……と」
俺は日本人の必殺技『手刀を縦に切る仕草で人混みを割る』を使ってガニアさんツンカさんの間を通り、上座へ向かう。
その途中でさりげなく全員の着こなしをチェックする。夏祭りで若い子が良くやるみたいな短いコーデ、そもそも浴衣を分かっていないかのような複雑な重ね着、
「なんでその色を選んだ!?」
と言いたくなるド派手な原色の選択……。
ちゃんと着ているのにどエロいオーラを出しているダリオさんやシノメさんまで含めてツッコミ出すと目的地に着くまで1時間はかかるだろう。
まあ、日本でも糸へん産業――呉服とか織物とかまあその辺り――は大変らしいし、脳内のお○ぎとピ○コにはしばらくお休み頂くしかない。
頂くしかないのだが……全般的に言って露出度が高く、湯上がり効果もあって艶めかしくて目の毒だ。俺、本当にこの集団を前にミーティングなんかできるのかな?
「飯、運び入れて良いカ?」
「わっ!」
と、予期せぬ場所から女将が唐突に現れて俺に訊ねた。あ、俺達コーチ陣が座る背後の壁に、小さな扉がある! そこから来たのか。
「はーい! お願いしまーす!」
いやユイノさんが答えるんかい!
「分かったゾ! おーイ!」
俺が何かを言うより先に女将が返事し、ゴブリンの仲居さん達がお膳に載った料理を運んできた。彼女たちも一様に動き易そうな着物を着ているが、色は例のど派手原色ギラギラである。
「ホイ、下がって! 危ないからナ!」
お膳の中央には個人用の鍋があり、その下は小さな石の様なものが鎮座している。見守る間に、女将がモゴモゴと何か唱え指先に小さな火を灯し、その石に近づけた。
「おおお! あれで固形燃料みたいなモノに火をつけているのか!」
ぽっぽっ、と小さな音を立てて石が燃え上がって行く。
「ショーキチ君は見るの初めてかの? アレがゴブリンの使う小賢しい『呪術』というやつじゃ!」
驚く俺にジノリコーチが解説する。普通なら若干、腹が立つ教え癖だが相手がこのロリ幼女で今は七五三の様な姿で、しかも浴衣姿のお色気集団から意識が削がれるとあっては大歓迎だ。
「へえー。エルフが使う魔術とは違うんですか?」
「うむ。呪術は魔術ほど外的体系的ではなく、個々人が体内に持つ呪力を経験則で導き出して使用する術じゃ。呪文書やスクロールといった伝達物もなく口伝がすべてじゃな!」
ふーむなるほど分からん。しかしまあ、温泉の汲み上げだったりお膳の鍋料理だったりに何かしらの魔法っぽい仕組みがあるのは確かだな。
「監督、そろそろ始めた方が良いと思いまーす!」
「べっべつに熱は感知できないけど、料理冷めるの分かるから……」
顎に手を当て感心する俺に、アカリさんとサオリさんが手を挙げ告げた。確かに彼女達の言う通りだ。あとサオリさん、ピット器官――地球の蛇が持ってる熱感知能力で、それで暗闇でも獲物を探したりするやつだ――の話をまだ根に持っているんだな。さすが蛇、執念深い。
「じゃあ、夕食とミーティングを始めましょう。まずは頂きまーす!」
俺は選手達の方を見渡し、なるべく焦点を合わせず宣言した。
「「いただきまーす!」」
すぐさま俺の呼びかけに全員が唱和し、一斉に食事を始める。
「まあ! この茸汁の茸……立派ぁ……」
「山菜が口の中でプリプリしますね……!」
料理はなかなか好評の様で、あちこちから歓声が上がる。良い食事を出す宿を探した甲斐があった。でも一部は嬌声じゃね? もしかしてワザとやってない!?
「ショーキチ殿、ゴブリンチームの解説からですが……何か問題でも?」
顔を赤らめてフリーズしている俺を心配して、ナリンさんが顔を覗き込んできた。その目に鍋の下で燃える火が反射して、ふとある事に気づく。
「そうだ! そうそう、始めましょう! 女将さん、魔法のスクリーンの準備をお願いします。あとこの広間の照明を限界まで絞って下さい!」
「遅いよ監督ー! 早くごはーん!」
宴会場は本当に日本の旅館にあるような大広間で、畳敷きではないが柔らかな布が床の上に広げられ、直接その上に座るスタイルだった。
そして入り口付近には大股を開いたティアさんと腕まくりしたユイノさんが陣取り、俺を見つけて大きな声を上げた。
「あのね、君たち。そういう格好の時はもう少しお淑やかにね?」
俺は一人の日本人として思わず苦言を申し上げた。何故なら彼女たちの浴衣の着こなしが――そう、選手もコーチ陣も漏れなく浴衣っぽいものを着ているのである――あまりにも酷かったからだ。
「仕方ありませんわ。温泉で身体が火照ってしまったのですもの……」
「ハァイ、ショー! これ、確か由来はユーの国の服でしょ? だったら正しい着用法をティーチして……ワンオンワンで!」
それなりに着れているが胸元がはだけ過ぎのガニアさんと、いかにもハリウッド女優さんがプレゼントで貰ったものを羽織っているだけ……みたいな格好のツンカさんが、それぞれ艶めかしい目つきで立ち上がり、俺に近づき言った。
確かガニアさんの方は一児の母だよな? 『艶母』の伏線、早くも回収じゃないか……ってやかましいわっ!
「ショーキチ殿! こちらです!」
と、ナリンさんの声が聞こえそちらに目をやる。流石にナリンさんと隣のニャイアーコーチは襟もきちんと閉じて整然としている。ザックコーチはヤ○ザ映画の用心棒の様、ジノリコーチは七五三でアカサオは最早コメント不可能な装いだが、総じてコーチ陣は合格点だ。
「前、失礼しますよ……と」
俺は日本人の必殺技『手刀を縦に切る仕草で人混みを割る』を使ってガニアさんツンカさんの間を通り、上座へ向かう。
その途中でさりげなく全員の着こなしをチェックする。夏祭りで若い子が良くやるみたいな短いコーデ、そもそも浴衣を分かっていないかのような複雑な重ね着、
「なんでその色を選んだ!?」
と言いたくなるド派手な原色の選択……。
ちゃんと着ているのにどエロいオーラを出しているダリオさんやシノメさんまで含めてツッコミ出すと目的地に着くまで1時間はかかるだろう。
まあ、日本でも糸へん産業――呉服とか織物とかまあその辺り――は大変らしいし、脳内のお○ぎとピ○コにはしばらくお休み頂くしかない。
頂くしかないのだが……全般的に言って露出度が高く、湯上がり効果もあって艶めかしくて目の毒だ。俺、本当にこの集団を前にミーティングなんかできるのかな?
「飯、運び入れて良いカ?」
「わっ!」
と、予期せぬ場所から女将が唐突に現れて俺に訊ねた。あ、俺達コーチ陣が座る背後の壁に、小さな扉がある! そこから来たのか。
「はーい! お願いしまーす!」
いやユイノさんが答えるんかい!
「分かったゾ! おーイ!」
俺が何かを言うより先に女将が返事し、ゴブリンの仲居さん達がお膳に載った料理を運んできた。彼女たちも一様に動き易そうな着物を着ているが、色は例のど派手原色ギラギラである。
「ホイ、下がって! 危ないからナ!」
お膳の中央には個人用の鍋があり、その下は小さな石の様なものが鎮座している。見守る間に、女将がモゴモゴと何か唱え指先に小さな火を灯し、その石に近づけた。
「おおお! あれで固形燃料みたいなモノに火をつけているのか!」
ぽっぽっ、と小さな音を立てて石が燃え上がって行く。
「ショーキチ君は見るの初めてかの? アレがゴブリンの使う小賢しい『呪術』というやつじゃ!」
驚く俺にジノリコーチが解説する。普通なら若干、腹が立つ教え癖だが相手がこのロリ幼女で今は七五三の様な姿で、しかも浴衣姿のお色気集団から意識が削がれるとあっては大歓迎だ。
「へえー。エルフが使う魔術とは違うんですか?」
「うむ。呪術は魔術ほど外的体系的ではなく、個々人が体内に持つ呪力を経験則で導き出して使用する術じゃ。呪文書やスクロールといった伝達物もなく口伝がすべてじゃな!」
ふーむなるほど分からん。しかしまあ、温泉の汲み上げだったりお膳の鍋料理だったりに何かしらの魔法っぽい仕組みがあるのは確かだな。
「監督、そろそろ始めた方が良いと思いまーす!」
「べっべつに熱は感知できないけど、料理冷めるの分かるから……」
顎に手を当て感心する俺に、アカリさんとサオリさんが手を挙げ告げた。確かに彼女達の言う通りだ。あとサオリさん、ピット器官――地球の蛇が持ってる熱感知能力で、それで暗闇でも獲物を探したりするやつだ――の話をまだ根に持っているんだな。さすが蛇、執念深い。
「じゃあ、夕食とミーティングを始めましょう。まずは頂きまーす!」
俺は選手達の方を見渡し、なるべく焦点を合わせず宣言した。
「「いただきまーす!」」
すぐさま俺の呼びかけに全員が唱和し、一斉に食事を始める。
「まあ! この茸汁の茸……立派ぁ……」
「山菜が口の中でプリプリしますね……!」
料理はなかなか好評の様で、あちこちから歓声が上がる。良い食事を出す宿を探した甲斐があった。でも一部は嬌声じゃね? もしかしてワザとやってない!?
「ショーキチ殿、ゴブリンチームの解説からですが……何か問題でも?」
顔を赤らめてフリーズしている俺を心配して、ナリンさんが顔を覗き込んできた。その目に鍋の下で燃える火が反射して、ふとある事に気づく。
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