D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
334 / 693
第十九章

鉄壁の守りの宿

しおりを挟む
「みんな長距離馬車移動、お疲れ様!」
「この宿には温泉がある。部屋に荷物を置いたら夕食前に一度、浸かりに入って固まった身体をほぐすと良い」
「夜のミーティングは夕食をとりながらじゃぞ!」
 宿舎の前に馬車が横付けされた。先頭を切って降車したナリンさん、ザックコーチ、ジノリコーチが後に続く選手たちに声をかける。
「改めて見ても良い所だな……」
 前回ウォルスを訪問した際に仮契約し押さえていた宿は街外れの渓谷に位置する静かな旅館だった。
『ゴブ院温泉 檻場館おりばかん やすらぎの里』
という大きな看板が掲げられた母屋は石と砂だらけのウォルスには珍しい木製の家屋で、山に寄り添うように連なり何階まであるのかも分からない複雑な建築になっている。
 その脇にぶら下がる様に立つ階段を伝って山の影に温泉があり、当然下からは全くのぞき込む事はできないが、上からは谷間に流れる小川とウォルスの中心部の遠景が望める絶景だ。
 サッカードウ好きのゴブリンの街に違わずグランドも完備しており、部屋の一つからはその様子も余すことなく見下ろせる。
 そして何よりも……ここは騒がしい街から遠く離れており、貸し切りにした今は遙か下の敷地入り口を封鎖するだけで、無遠慮なギャラリーもマスコミもスパイもシャットアウトする事ができるのだ!
「素晴らしい宿を見つけたものですね!」
 普段、公務で慌ただしい日々を送っているダリオさんがナリンさんに賞賛の言葉を贈る。姫様にはゆっくりして頂きたい……。
「いえいえ。ただ館内の移動で上り下りが多く、少し選手の足への負担になりますが……」
「なあに、鬼軍曹マガトの階段に比べれば可愛いもんですよ」
「なんだ、それは?」
 足の負担、という言葉を聞きつけてザックコーチ――あちらの馬車の中ではラビンさんとのことを散々、イジられたらしい――が話に加わった。
「練習、特にフィジカルトレーニングが厳しい事で有名なマガトって監督がいましてね。練習場に傾斜の激しい階段と坂を作って選手に走らせるんですよ。プロでも失神するほどの強度でね。確かヴォルフスブルグってチームでは……そうそう、こんな狼がマスコットのってうわぁ!」
 意気揚々と説明を行っていた俺のすぐ横に、顔だけで俺の上半身はありそうな巨大な灰色狼ウォーグがいつの間にか忍び寄っていた!
「うわっ! でか!」
「おう、ようきたなワレ!」
 巨大狼だけでも驚きだが、その背にはしわくちゃのゴブリンのお婆さんが鎮座し、恐らく営業用スマイル的なものを浮かべてこちらを睨んでいた。
「あら、女将! お世話になります」
「かまワン。お前ら、ゴブリンと違って綺麗に使いよるでナ! こちらも大歓迎じゃワイ!」
 その老女が旅館の女将さんだった。以前、仮契約で会った際は屋内にいて当然、狼になど乗っていなかったので目線の高さが違う。ナリンさんが驚く俺の代わりに俺達とその女性を交互に紹介する。
「ウム! ワシはおおかみに乗った女将おかみアン、こちらは相棒のヴォルフィなんだナ!」
 女将がそう言うとヴォルフィ君がニヤリと笑い牙を見せながら頭を下げた。
 狼に乗った女将!? い、今のは笑う所なんだろうか……? と俺が悩む間にもコーチ陣もそれぞれ名乗り、最後にナリンさんに促され選手全員が
「「お願いしーます!」」
 と声を合わせた。
「ま、まあエルフにとってのグリフォンとかゴブリンにとっての灰色狼とか当たり前なんかな?」
 俺は自分を納得させるかのように一人呟く。確かに移動中も何度かこのセットは目にしている。整備されていない鉱山の街だ、馬なんかよりよほど合理的なんだろう。
「何か質問はあるカ?」
 と、最後に女将が口を開いた。あ、これはさっきのがギャグか聞くチャンスだ! 
「はい、しつもーん!」
 しかし俺が手を挙げる前にシャマーさんが朗らかに声をあげた。一応、彼女はキャプテンだし選手の代表だ。質問は彼女に譲ろう。
「どうゾ」
「お風呂は混浴ですかー?」
 んな訳あるか!
「もちろんダ! なにせウチは子宝の湯で有名だからナ!」
 混浴なんかい! あと前半と後半の繋がりオカシいから!
「「おおーっ!」」
 おおーっ、じゃねえよ!
「だってさ! ショーちゃん!」
 シャマーさんが目を輝かせて俺に話を振る。
「いやショーちゃんじゃなくて監督、ね? 言っておくけど俺とザックコーチは内風呂のある部屋を取っているからそこにしか入らないし」
 ザックコーチは新婚さんだし俺はBSSの絡みで頭を悩ませているし。別に混浴でなくても何か間違いが起こりそうな、いや、間違いを起こしそうなエルフがいる状態で、大浴場を利用するつもりは無かった。
「ええ!? つまんなーい」
「でもよ、アレはあるんだろう? 金を払って手に入れたカードを差し込んだら、ちょっと大人なアレが観れる魔法装置!」
 悔しそうに口を尖らせるシャマーさんの肩に手を乗せ、今度はティアさんが問う。
「ティアさんそんな装置あるわけないでしょ!」
「ナリンの要望で外したんだナ!」
 いやあるんかい!
「その節はお手数をおかけしました」
 ナリンさんはそう言って頭を下げる。いやこれは超ファインプレーですよ!
「良いって事ヨ! じゃあ案内するゾ!」
 女将はそう言うとヴォルフィ君の顔を優しく叩き、灰色狼はひょい、ひょいと斜面を駆け上がっていった。なるほど、小鬼ゴブリンにとってこの地形は俺達以上に辛いもんな。狼に乗るのは必然だ。
「さあさあ、さっさと部屋にいくのじゃ! ゴブリン如きがどれほど温泉を分かっておるのか、お手並み拝見じゃぞ!」
 ジノリコーチがそう言って皆を急かせる。同じ鉱山の種族として、ゴブリンとドワーフはライバル状態だ。一刻も早く湯質を確かめたいのだろう。
「そうですね、行きましょう」
「ところで『コダカラ』とは何なのじゃ?」
「えっと、それは……あっ! 俺の部屋は割と上の方だった! お先に失礼します!」
 サッカードウの戦術に関しては天才的なドワーフは、それ以外に関しては幼女のレベルだ。俺はとても説明できる気がせず、逃げる様に割り当てられた自分の部屋へ向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...