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第十九章

転向と参戦

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 繰り返しになるがアローズはWGプレイヤー、フィールドの端に開いてドリブルを行いセンタリングを上げる……というタイプの選手が多過ぎる。人員整理リストラならぬエルフ員整理が必要だ。
 これが地球のクラブチームであれば移籍という形で余剰戦力を放出し、その移籍金なりトレードなりで代わりに足りない選手を補充する、という行為が可能だが残念ながらこの異世界にはその制度は無い。
 となると現存のWGを上手く回転して使い回す、若しくは別のボジションに転向させる、或いはその両方を行う……というのが必要だ。
 で、その先鋒がFWになったリーシャさんであり、ボランチまたはSBへのコンバートを誘導しつつあるエルエル――あちらの馬車でザックコーチとジノリコーチが面談で伝えている筈だ――であり、目の前にいるツンカさんだ。

「IH……中盤の内側で? ちょっとテレブル……」
「アハン? でもさっきウエイトレスさんを見事にやってたじゃないですか? あんな感じですよ。お店の真ん中に立って、四方八方に気を配ってホール業務を行う、みたいな」
「!?」
 俺が軽い気持ちで朝食時の様子に触れるとツンカさんは雷に打たれたような表情になった。
「オーマイ&ガーファンクル! まさか、その適正を自覚させる為にそれを……?」
 んな訳あるか! しかもそれはステフがやらせた事だろ!
「私からは、ショーキチ殿とステフさんがこの馬車移動について以前から綿密に打ち合わせておられた……という事だけ伝えておくわ」
 そこへナリンさんが悪ノリの一撃を加える。なんでそんなドヤ顔なんすか!
「360度のスクリーン……カスタマーに合わせた接客……すべてその布石……」
 真に受けたツンカさんは更に衝撃を受けた顔だ。間で受けるのはDFとボランチのスペースだけにして欲しい。……しかしまあ、
「足が速くキックが良いから」
という理由でなんとなくWGの選手として育ち、なんとなくそのまま過ごしてきたが実は広い視野と戦術眼の持ち主だった、みたいなケースはたまにある。
 例のベルナルド・シウバのマンチェスター・シティでの同僚、ケヴィン・デブライネ選手――いやまだ所属しているかは知らないが――なんかもその例で、たまたまペップに見初められて今の役割を果たしているが、時代や指導者が違えば少し背の高いWG、くらいでサッカー人生を全うしていたかもしれない。
「OK。トライしてみる。挑戦こそツンカの人生!」
 ツンカさんはそう言って拳を俺達の方へ突き出した。うん、デイエルフの皆さんは変人に見えても根がスポ根漫画でできているね! ありがたいけど心配だ。昨晩ぶり二度目ですねこれ!
「まずはDFを背負うプレイとターンから練習ね、ツンカ」
「実戦でも余裕があれば試していきましょう」
 ナリンさんと俺はそれぞれそう言って、順番にツンカさんの拳とグータッチを行う。
「イエス! あとこれも!」
 と、拳が触れ合った直後にツンカさんは俺のその手を掴み、強引に俺を抱き寄せ唇を押しつけてきた。
「つ、ツンカ!?」
「(はとはぷん!?)」
 周囲の目も一斉にこちらを向き、混乱した俺は思わず脳内でデタラメな英語で叫ぶ。いったい何が起きているんだ!?
「ぷはーっ!」
 表立っては言えないが俺の経験でも過去一、濃厚に舌を差し込んできたツンカさんは、十分にそれを堪能した後で口を拭った。
「なっなぜ!? 今までそんなそぶりは微塵も……」
 はとが豆鉄砲を食った様な顔で呟く俺にツンカさんがウインクを送る。
「レイちゃんに悪いし人気もあるし諦めようと思っていたけど、BSSで脳が破壊されるのはノーサンキュー! これからはツンカもショーの争奪戦にジョインするから、よろしくね!」
 そう言うとツンカさんは両手の人差し指をシャマーさんとナリンさんの方へ向けヒュン、と何かを投げるようなモーションをした。
「ふーん、そうなんだー」
「いやわたしは……」
 シャマーさんナリンさんが各々の反応を見せるなか、ツンカさんはまたふりふりと腰を振って去っていった。
 なぜこんな事が……。
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