D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
325 / 697
第十八章

車内鑑賞会

しおりを挟む
「ヨンさんは前線でハイボールを競り合うだけの選手だったけど、運動量と守備で本当にチームを助けてくれている」
「ボナザさんは本当に守備範囲が広いGKになりましたよね! これはペナルティエリア外でプレーしている時間の比較表ですが……」
「デュエルの強いボランチのクエンさんがいなかった、昨シーズンまでのアローズの平均的なボール奪取エリアは今より10mは低くてね」
 そこから夜半まで、俺たちは次々と選手を呼んでは個別ミーティングを行っていった。基本的には昨年までのプレーと今年を動画と数字で比較して良くなった点を取り上げ応援する、といった内容だが、前年はアローズにいなかったクエンさんとリストさんについては例外的にチームへ与えた好ましい変化について言及する事にし、チーム合流が遅れたタッキさんについては練習で見せたアクロバティックなゴールを中心に編集し、少しだけルール講習反則の勉強をつけた。
 これらの動画とデータ比較表はこの日に向けて作成したものだった。移動中のリラックスした時間を使い選手達とより親密な会話をする目的で、だ。
 彼女たちには内緒の話だが、動画は全員同じ時間で構成され話を切り上げるタイマーの役割も果たしている。これは、
「誰々だけ長く話していた!」
という不公平感を誰にも覚えさせない為のものだ。
 一方、データの方は彼女たちが練習で着用するヘッドバンドに特殊な物質を仕込み、それを魔法でリアルタイム監視し集計した成果だ。残念ながらこの世界にはGPSという技術はないし試合中の魔法の使用も禁止されているので精度もサンプル数も満足行くモノではないが、無いよりはましだろう。
 何よりも数字があるか無いかで、
「もっとプレスに参加しよう」
とだけ言うか
「全選手のプレス参加回数は平均10回だが君は5回だ。せめてあと2回は増やそう」
と具体的に言えるかどうかが変わってくる。
 将来、こういったデータの集計を試合でも可能にするようDSDKに交渉して精密さを上げる――代償としてリーグ全体が同じ恩恵を受けるようにはなるだろう――か、或いは満足行くものではないが現状をキープし独占を続けるかは悩み所だ。
 まあ結論を急ぐ事はあるまい。何故ならそれよりも早急に答えを出さなければならない問題が俺の前に迫りつつあったからだ……。

「もう、プロデューサーさん! このエオンを最後の方に回すなんて……好物を後で食べるタイプでしょっ!?」
 その問題は拗ねた様な甘える様な声を出し、自分の顔を指で指すポーズをとりながら俺の前に現れた。
「プロデューサーさんじゃなくて監督だよ、エオンさん。まあ座って」
 白とピンクのモコモコした可愛い寝間着姿のエオンさんに椅子を勧めつつ、俺はこっそりナリンさんに訊ねる。
「(ナリンさん、俺が知らないだけで実はこの世界には『頭部がアルファベットのPの型をした種族』が存在したりします?)」
「(いえ、自分も聞いた事はありませんが……)」
 そうか。そりゃそうだよな。
「遅くなったのはごめん。もう寝るところだった?」
 ジェラートピケのパジャマみたいな服――こちらとしてはどうしてもバルセロナの長身DFジェラール・ピケ選手を思い出してしまうが――を見て謝罪しつつ準備は止めない。
「ええ、美容には良い睡眠が肝心ですからっ」
「じゃあ手早く済ませよう。これを見て」
 俺はそう言って魔法の手鏡を操作し、彼女にも今までの選手と同じように昨シーズンから今シーズンまでの動きと数字をまとめた動画を見せる。
「ふむふむ……」
 こちらもエオンさんの少し残念なプレーから良くなってきた所をピックアップし各部分の説得力を増す為のデータを並べる、という作りだったのだが……
「ぷい!」
 エオンさんは動画の序盤で腕を組み、実際に口でぷい! と言いながらそっぽを向いてしまった。ほんまにおるんやそんな存在……。
「エオン! ショーキチ殿が貴女の為に作った動画なのよ? ちゃんと観なさい!」
「やだっ!」
 ナリンさんが素早く注意をするも、エオンさんは彼女と目を合わせないまま長めの袖から指先だけを出し――萌え袖、で良いんだっけ?――画面に突きつけた。
「だって、あまり可愛く撮ってくれてないんだもんっ!」
 いや、そういう動画じゃないからね?
「ここなんか、凄くブスに映っているしっ! プロデューサーさんもそう思わない!?」
「だからPじゃなくて監督なんだけど……」
 とは言ったものの映像作品の責任者という意味ならプロデューサーであっているのか!? そうやって間を取りながらも、俺は非常に難しい局面を迎えていることに気づきつつあった。

 一般的には職場で女性の容姿をからかう事は紛う事なきセクハラ案件である。いや、嘲る様なニュアンス無しで言及するだけでも十分、アウトでになり得る。
 他方、女性から水を向けられて特に気の利いたコメントを返せないと、それはそれで面白味の無いヤツとして人権を失う。大げさな言い方かもしれないが関西ではあながち嘘でもない。
 もちろんここ異世界は俺のいた現代日本、そして関西と法も倫理も同じではないが、言動を間違えると人間関係と言うか人間エルフ関係が難しくなるのは一緒だ。
 で、それを踏まえた上でここにこの、
「ブスに映ってない?」
という趣旨の質問である。
 まず事実ベースの話で言うと画面の中のエオンさんは相手DFを背負ったり、プレスをかけにいったり、渾身のシュートを放とうとして必死な顔に、つまり少し面白い顔になっている。
 でここで
「ほんまっすね! めっちゃブスになってますやん」
などと言った日には『死』である。コールセンター時代の後輩がそれをやって、何日も村八分にされることで身を持って証明してくれている。
 では
「そんな事ないですよ。可愛く映っていますよ」
と答えたとしても、そんな軽い嘘は簡単にばれる。ばれる上に媚びを売った奴として女性だけでなく男性陣からも唾棄すべき存在として扱われる。 
 ならば俺の選択は……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...