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第十七章

危険な予感か飢饉の予感か

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『シャマーを1列上げて中盤の底を三名で。マイラとクエンはより攻撃参加し易く。1TOPはガニアとムルトで見るんじゃがガニアが密着、ムルトが後方でカバーで良いじゃろう』
「うーむ……」
 ジノリコーチが提案し、ナリンさんが通訳してくれた内容を吟味しながら俺は唸った。もはや1262とも言うべきフォーメーションで確かにそれならばリスクを管理しながら引き続き中盤で優位を保てるかもしれない。
 かなり強引なやり方ではあるが、
「相手が引いたら押し込め、相手が押してきたら更に強い力で押し返せ」というのがドワーフのメンタリティ精神性だ。彼女らしい案と言える。
「とりま5分、様子を見て状況が変わらなければやりましょう」
 開始直後は何もしなくても点数が入り易い時間帯だ。俺は時間を区切りはしたが、ドワーフの策を採用する事にした。

 実際はプレーがなかなか途切れず――ポーズボタンで試合を止めてシステム変更ができるテレビゲームとは違うのだ――シャマーさんを呼んでシステム変更を伝えられたのは後半11分過ぎだった。
『行けそうなんだけどなー。まあ、分かったー』
「シャマーの感覚ではこのままでも良さそうでしたが……」
 指示を受けピッチへ戻るシャマーさんの呟きをナリンさんがこそっと告げる。エルフはやはり耳が良い。
「ええ、俺もそう思います」
 ナリンさんにそう応えつつ時計を見上げる。ここまで10分、チャンスは作れてはいた。インセクターのシステム変更により密度が増えた中盤は更に混沌さを増し、クエンさんの惜しいミドルシュート――良いコースへ飛んだがアロンゾ選手が難なくキャッチ――や突破したティアさんがペナルティエリアのすぐ外で倒される――何かと審判受けが悪い彼女なのでファウルは貰えず――シーンなどゴールへ迫る場面は何度かあった。
 だがインセクターは一向に慌てないし、アロンゾ選手の好守は冴え渡っていた。彼女は蜘蛛ですからこれくらい当然ですが何か? という泰然自若の態度でピンチを防ぎ続けている。流石リーグ最少失点のチームだ。
「ただインセクター相手では絡め手のセットプレーも効き難いですし、変に手札を切ると後のリーグ戦で不利に……」
 俺がそう説明をしている最中に、インセクターベンチの方で動きがあった。
「あっ! 選手交代があるようであります! 2枚換えであります!」
ナリンさんも目敏く気づく。見たところ、バッタのような外見の選手が2名立っている。
「WGをそのまま交換って事ですか……」
 第4審判さんが用意しているボードの背番号を見てもそれで間違いないようだ。タイプとしては同じ選手だろうが、スタメンで出ていたWGの方は中盤に下がって守備に追われていた分スタミナの消耗があったし、その補充という意味合いなのかもしれない。
「こちらはどうするでありますか?」
『実際の動きを見るまで断言はできんが、同じ選手の補充じゃと思う。このままで良いのではないか?』
 ナリンさんから聞くジノリコーチの意見も俺と同じ様であった。何となく後手後手、様子見を強いられているような気持ちの悪さを感じながらも俺は現状維持を指示する他、無かった。
「お、入るぞ」
 リストさんのシュートが大きく外れ、ボールデッドとなり選手交代の機会が訪れた。審判さんの指示で両WGが丁寧にセンターラインまで戻り、背番号のボードを出す第4審判さんの元で投入される選手と入れ替わる。地球の人間や他の種族がやるような、身体に触れて激励するような仕草はまるでない。
「あれ? 目の錯覚かな?」
だが余計な動きが無いぶん彼女たちの姿をじっくり見えて、俺は違和感に気づいた。
「いややはり……違くないか?」
 遠目に、個別に見ている分には同じバッタの交代と思われた。だが両者が近づいて入れ違いにピッチへ入る時に、その差がはっきりと分かった。
「ナリンさんジノリさんマズい! バッタ同士の交代じゃない! あれはバッタから飛蝗です!」

第十七章:完
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