D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
305 / 692
第十七章

忙しい審判

しおりを挟む
「ユキちゃん、ありがと」

 おむすびを頬張る桐矢くんに麦茶を出した。

「休憩って、これからまた?」
「うん、納屋とか、物置とかさ、子供が隠れんぼに入り込んだりするから、オレらは家の周りを見てみようかって、鍵掛かって出れなくなってる可能性もあるしな」
「そっか……」
「なぁ、ユキちゃん食べてないだろ?」
「えっ……」

 食欲が湧かず、何も手をつけれなかったのがナゼかバレてる。
 はいと、おむすびを渡された。続けて楊枝に刺した肉団子まで、口元にきて、私は大人しく肉団子を頬張った。

 晩ごはん、と言うには遅いけれど、こうして夜に桐矢くんと食事をするのは、ここに戻った頃の、泣くばかりだったあの頃以来だ。
 最近では、晩ごはんに誘っても「食べたら帰れなくなりそうだから」と、断られる。食べたらすぐ眠くなっちゃうのは子供の頃から変わらないらしい。

「あのな、チカちゃんのお母さんの、リカコさんがさ、昨夜ゆうべチカちゃんに怒鳴ってしまったんだと、亡くなったお母さん、リカコさんのお母さんな。その手作りの人形を壊したって」

 卵焼きを飲み込み、桐矢くんは話してくれた。

「朝になって、おばあちゃんに直してもらってくるって、言って、チカちゃん、人形を持って出たんだって」
「……」

「リカコさんも、おばあちゃんって言うから、隣の坂木のばあちゃんのことかと思ったらしいんだ。前の日、坂木のばあちゃん家に行ったらしいから」

 私も出会った、メロンをおすそ分けした時だ。

「でも、坂木のばあちゃん家には行ってないって分かって……」
「今朝ね、私が見たのは、坂木のおばあちゃん家とは反対に行く姿だったの」

『おばーちゃん、まってぇ』

 チカちゃんは誰に言ったのか……。
 私は、縁側からしましまさんの拾い物の入ったカゴを持ってきた。

「ねぇ、桐矢くん、今朝しましまさんが拾ってきたバースデーカードね、この“りっこちゃん”って、リカコさんのことだったの」

 告げる私に、は? のまま桐矢くんは固まった。そして、何度かカードと私を見比べた。

「しましまさんはね、拾い物の持ち主にあった時、体を擦り寄せるて教えてくれるの。まるで“待ってたよ”って伝えてるみたいに」
「え……それ、三島の時」

 そう、実際しましまさんの拾い物の持ち主が家にきた時に、桐矢くんが居合わせたのは、三島さんと沖野ヨウコさんが訪れた時だけだ。

「うん、三島さんの時もそうだった。しましまさんがそうやって教えてくれるから、私も声を掛けて縁側まで来てもらってたの」

 縁側でお茶を飲みながら、他愛のない話をし、偶然のようにカゴの中の縁ある物を見つける。そうやって、しましまさんの拾い物を返していた。

「そう、だったんだ」
「こんな話、信じられる?」
「信じるよ」

 応えはすぐだった。

「しましまが、他の猫と違うのは、知ってるから」

 その言葉に私の方が絶句した。

「……それって、どういう」

「見つかったぞー!」

 外からの声に桐矢くんも私も立ち上がり、表に出た。

「チカ!!」
「チカちゃんが見つかったぞ!」
「よかった、よかったねぇ」

 足取りに疲労などは見えない様子で、チカちゃんは戻ってきた。
 懐中電灯に照らされたチカちゃんは、両手に人形を二体抱えて、しましまさんと一緒に、戻ってきた。

 そして、それは、チカちゃんに縋り付き泣くリカコさんと、笑顔の戻った町の人に囲まれた中で、

「はいママ! おばーちゃんが、りっこちゃんにわたしてって」

 チカちゃんは二体の人形を母親に差し出した。

「え……」

 人形を手渡されリカコさんは固まっていた。
 動かないリカコさんに、一度戻ろう、と声をかけられたがチカちゃんは「まって!」と大人たちを止めた。

「あのね、にゃんちゃんが、ママのおたんじょうびのカードもってるの!」

 息を飲んだ。

「にゃあん」

 チカちゃんの足元でしましまさんがひと鳴きする。

「あぁ、よく何か拾って持って帰るって猫か」
 
 しましまさんのことを知る人の声があがる中、動けない私の耳元で「オレが取ってくるから」と残し、桐矢くんは離れて行った。

「誕生日のカードってこれかな?」
「うん!」

 知っていたかのようにチカちゃんはバースデーカードを受け取った。

「それを、猫が拾ってきたのか?」
「そうだよ! その猫は賢いけぇ、こないだは、わたしのお守り見つけてくれたんだよ」

 隣のおばあちゃんに続くのは、

「あー、その猫か! うちのじーさんが作ったルアーも見つけたらしいからな」
「あぁ、ユキさん家の猫か! うちも娘にもらった、手作りのキーホルダーを見つけてくれてたんだよ!」
「鼻がいいんだよ」
「そんな賢い猫だったのか!」
「チカちゃんを見つけたのは、その猫なのか!?」
「すごいな! 猫なのに鼻がいいのか」
「なぁ、カードにはなんて書いてあるって?」

 こんなふうに、大勢の前で知られたくなかった。
 ドクンドクンと心臓の音が頭で響く。

「ユキちゃん、ユキ! 息しろ」
「はっ……、は、とうやくん……」

 呼吸を忘れるほどの不安に、固く握り締めていた手を解いた。

「戻ろう、ユキちゃん」
「…………」

 振り返えり、見たのは、膝を着き、人形を抱きしめたリカコさんと、体を擦り寄せているしましまさんの姿。




 しましまさんの拾い物は町の皆が知ることになった。
 翌日から猫の拾い物を覗きに、何人もの人が家を訪れ、拾い物をする珍しい猫しましまさんも人に追い回された。

 そして、しましまさんは家へ戻って来れなくなり……。

 私は総司くんとの繋がりを失った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

カタクリズム

ウナムムル
ファンタジー
ある日、世界から突如【死】が消え、生命は【不死】となった。 崩壊するヒエラルキー、加速する食糧不足…。 死者の出ない不毛な戦争が続き、疲弊した各国は代表を選抜する。 選ばれし24人の精鋭は【死の概念】が消失した原因究明のため旅立った。 そして、彼等は知る事となる。 【死の概念】の消失、それは序章でしかなかった、と……。 5章からは「小説家になろうで」でお願いします。 登録コンテンツの【カタクリズム:中編】から行けます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気
ファンタジー
不思議な声によって異世界に喚ばれた悠介は、その世界で邪神と呼ばれる存在だった? 歴史の停滞を打ち破り、世界に循環を促す存在として喚ばれた若者の魂は、新たな時代への潮流となる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...