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第十六章
クレイジー湯ー術
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シャマーさんは緊張とは無縁のエルフだ。いつも脱力していて余裕綽々に見える。しかし俺は彼女が本当に心底リラックスした声、というのを出すのを初めて聞く事となった。
「あ~~~あぁ! 生き返るー」
その声は、深夜に女の子を自分の家の風呂に入れる事から生じる緊張感を和らげると同時に、少しの罪悪感と笑いを誘うものだった。
「お湯が冷えたら叫んで下さいね、足しますので」
「ありがとう。今は良い感じー」
俺の家の風呂場は野外にあり、幾つかの光源を用意してはいても薄暗い。だからと言って直に入浴姿が見えてしまう場所に居られる筈もなく。俺は浴場へ繋がる廊下で、背を向けて待機していた。
「綺麗な夜景が見えるのね、ここ。癒されるわー」
シャマーさんの言葉につられて少し外を見る。バスタブとここは少し位置が違うが、森、シソッ湖、王都の街並み、その背後の山々、と暗闇に浮かぶ風景は同じ筈だ。黒い鏡の様な湖面に星明かりや街の街灯が反射し――エルフが住むクリスタルの都は魔法の灯りとそれを増幅する水晶で意外なほど明るく、俺が住んでいた地方都市の夜景を思い出させる――とてもロマンチックだ。
「そうなんですよ。俺の大好きな風景です」
「こんな所に女の子を連れ込んだら、もう一発でしょー? 今まで何人を毒牙にかけてきたの?」
「しません!」
しんみりとした気分が一発で吹き飛んだ。
「そもそも俺以外でそのお風呂に入ったの、シャマーさんが初めてですし」
「(んんんんーー!!)」
俺の言葉に返答はなく、ただ派手にお湯が跳ねるバシャバシャという音だけが返ってきた。
「シャマーさん? 何を?」
「何でもない! あ、石鹸とばしちゃった……」
その返事に続いてボス、と拳大の何かが俺の近くの茂みに落ちる音がする。
「もう、何やってるんですか……」
「ごめん、ショーちゃん。持ってきてー」
いや自分で拾ってくれよ、とは言えなかった。彼女はたぶんいま全裸の筈だし、お湯から出ると湯冷めも……って全裸!?
「拾います! 拾って持って行きますけど……絶対にバスタブに隠れててくださいよ!? 手を伸ばして受け取るんですよ!?」
「あいー」
照れる俺を笑うかのような声でシャマーさんが了解の声を上げた。俺は恐る恐るまず石鹸が落ちたらしい草むらに目をやり、近寄って簡単にそれを見つけ、拾う。
「後ろ向きでそっちへ近付くので、スイカ割りの要領で指示してくださいね!」
「え? どういうことー?」
「あー右とか左とか、あと何mとかです!」
「りょーかい!」
余裕をなくしてつい、通じない概念を使おうとしてしまった。その反省で顔を赤くしながら、俺は後方に腕を伸ばしつつ後ろ歩きする。
「ちょい右、あ、ショーちゃんから見て右のままで良いんだって! 同じ方向を向いているんだし。そうそう、そのまま、そのまま、その……」
シャマーさんの声に誘導されながら少しづつ移動する。見えない方向へ歩くと思ったより距離を感じるよな、という感想が脳裏に浮かんだ途端。 俺は腕を掴まれ、強引に後方へ引っ張られた!
「うわぁ!」
「はーい、一名さまご案内ー!」
バランスを崩した俺はバスタブの縁に膝の後ろを当て、後ろへ倒れかける。逆の縁に後頭部が当たる!? と危惧した直後に、しかし身体は横方面の力を受け、頭の後ろは堅い陶器ではなく柔らかい隆起に受け止められた。
「ちょっと強引だったか……。ショーちゃん大丈夫? 怪我ないー?」
「けぐあないけど大丈夫じゃあびばぜん!」
今や身体全体が湯に浸かり少し泡まみれのお湯が口に入った俺は、文字通り泡を食いながら叫ぶ。
「じゃあちょっと位置を調整しようかー?」
「そういう問題じゃ、うわっ!」
お湯の中で背後からシャマーさんに抱き締められた俺は軽く持ち上げられ――もちろん水と言うかお湯による浮力のたまものである――頭の位置は二つのクッションの間から彼女の頭部と同じ高さに直された。
「お風呂で服を着てるってのも変だよね? 脱ぎましょうねー」
「いやすぐ出ますから! ちょっと駄目ですって!」
楽しそうな声で俺の上着を脱がし、ついでズボンに手を伸ばすシャマーさんに抵抗しながら必死に脱出策を考える。しかし彼女の組み付きはなかなかに上手で――さながら柔術のホイス・グレイシーだ――俺の身体は完全にコントロールされていた。
ん? ホイス・グレイシー? それだ!
「シャマーさんはふざけているようでも本当は優しくて、可愛くて、思いやりがあって、人の嫌がることなんてしませんよね!」
くらえ、ホイス・グレイシーならぬ褒め殺しー! 一日ぶり二度めだ!
「ありがとう、ショーちゃんも素敵よ」
しかし彼女に同じ技は二度、効かなかった。シャマーさんは難なく俺のズボンを脱がし、くるっと身体を入れ替えて真正面に座る。
「ひとの嫌がることは……」
「そう? ここは嫌がっていないみたいだけど?」
それはエッチな漫画の悪者の台詞だろう!
「ショーちゃんは動かなくて良いから。上に乗った私が動くね……」
シャマーさんはそう言いながら、手を添えたそれの上にゆっくりと腰を下ろし……
「あ~~~あぁ! 生き返るー」
その声は、深夜に女の子を自分の家の風呂に入れる事から生じる緊張感を和らげると同時に、少しの罪悪感と笑いを誘うものだった。
「お湯が冷えたら叫んで下さいね、足しますので」
「ありがとう。今は良い感じー」
俺の家の風呂場は野外にあり、幾つかの光源を用意してはいても薄暗い。だからと言って直に入浴姿が見えてしまう場所に居られる筈もなく。俺は浴場へ繋がる廊下で、背を向けて待機していた。
「綺麗な夜景が見えるのね、ここ。癒されるわー」
シャマーさんの言葉につられて少し外を見る。バスタブとここは少し位置が違うが、森、シソッ湖、王都の街並み、その背後の山々、と暗闇に浮かぶ風景は同じ筈だ。黒い鏡の様な湖面に星明かりや街の街灯が反射し――エルフが住むクリスタルの都は魔法の灯りとそれを増幅する水晶で意外なほど明るく、俺が住んでいた地方都市の夜景を思い出させる――とてもロマンチックだ。
「そうなんですよ。俺の大好きな風景です」
「こんな所に女の子を連れ込んだら、もう一発でしょー? 今まで何人を毒牙にかけてきたの?」
「しません!」
しんみりとした気分が一発で吹き飛んだ。
「そもそも俺以外でそのお風呂に入ったの、シャマーさんが初めてですし」
「(んんんんーー!!)」
俺の言葉に返答はなく、ただ派手にお湯が跳ねるバシャバシャという音だけが返ってきた。
「シャマーさん? 何を?」
「何でもない! あ、石鹸とばしちゃった……」
その返事に続いてボス、と拳大の何かが俺の近くの茂みに落ちる音がする。
「もう、何やってるんですか……」
「ごめん、ショーちゃん。持ってきてー」
いや自分で拾ってくれよ、とは言えなかった。彼女はたぶんいま全裸の筈だし、お湯から出ると湯冷めも……って全裸!?
「拾います! 拾って持って行きますけど……絶対にバスタブに隠れててくださいよ!? 手を伸ばして受け取るんですよ!?」
「あいー」
照れる俺を笑うかのような声でシャマーさんが了解の声を上げた。俺は恐る恐るまず石鹸が落ちたらしい草むらに目をやり、近寄って簡単にそれを見つけ、拾う。
「後ろ向きでそっちへ近付くので、スイカ割りの要領で指示してくださいね!」
「え? どういうことー?」
「あー右とか左とか、あと何mとかです!」
「りょーかい!」
余裕をなくしてつい、通じない概念を使おうとしてしまった。その反省で顔を赤くしながら、俺は後方に腕を伸ばしつつ後ろ歩きする。
「ちょい右、あ、ショーちゃんから見て右のままで良いんだって! 同じ方向を向いているんだし。そうそう、そのまま、そのまま、その……」
シャマーさんの声に誘導されながら少しづつ移動する。見えない方向へ歩くと思ったより距離を感じるよな、という感想が脳裏に浮かんだ途端。 俺は腕を掴まれ、強引に後方へ引っ張られた!
「うわぁ!」
「はーい、一名さまご案内ー!」
バランスを崩した俺はバスタブの縁に膝の後ろを当て、後ろへ倒れかける。逆の縁に後頭部が当たる!? と危惧した直後に、しかし身体は横方面の力を受け、頭の後ろは堅い陶器ではなく柔らかい隆起に受け止められた。
「ちょっと強引だったか……。ショーちゃん大丈夫? 怪我ないー?」
「けぐあないけど大丈夫じゃあびばぜん!」
今や身体全体が湯に浸かり少し泡まみれのお湯が口に入った俺は、文字通り泡を食いながら叫ぶ。
「じゃあちょっと位置を調整しようかー?」
「そういう問題じゃ、うわっ!」
お湯の中で背後からシャマーさんに抱き締められた俺は軽く持ち上げられ――もちろん水と言うかお湯による浮力のたまものである――頭の位置は二つのクッションの間から彼女の頭部と同じ高さに直された。
「お風呂で服を着てるってのも変だよね? 脱ぎましょうねー」
「いやすぐ出ますから! ちょっと駄目ですって!」
楽しそうな声で俺の上着を脱がし、ついでズボンに手を伸ばすシャマーさんに抵抗しながら必死に脱出策を考える。しかし彼女の組み付きはなかなかに上手で――さながら柔術のホイス・グレイシーだ――俺の身体は完全にコントロールされていた。
ん? ホイス・グレイシー? それだ!
「シャマーさんはふざけているようでも本当は優しくて、可愛くて、思いやりがあって、人の嫌がることなんてしませんよね!」
くらえ、ホイス・グレイシーならぬ褒め殺しー! 一日ぶり二度めだ!
「ありがとう、ショーちゃんも素敵よ」
しかし彼女に同じ技は二度、効かなかった。シャマーさんは難なく俺のズボンを脱がし、くるっと身体を入れ替えて真正面に座る。
「ひとの嫌がることは……」
「そう? ここは嫌がっていないみたいだけど?」
それはエッチな漫画の悪者の台詞だろう!
「ショーちゃんは動かなくて良いから。上に乗った私が動くね……」
シャマーさんはそう言いながら、手を添えたそれの上にゆっくりと腰を下ろし……
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