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第十六章

危険な作戦と怪しい会合

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「インセクターは前線に二人のWGと一人のCFという3TOPを置いておる。この両サイドは典型的な俊足WGじゃが、サイドを突破しクロスをCFへ放り込む、というシーンはさほど多くない。もちろん状態が良い時はその限りではないが、決してリスクは犯さず相手の守備が整っているようであればすぐ後ろに戻して攻撃をやり直す」
 ジノリコーチはそう言って用意してきたらしい映像を作戦室のスクリーンに流した。画面では彼女に名指しされたWGの選手――見た目はバッタに近い。確かに足は早そうだ――がパスを受けたが、中のDFが揃っているのを見て体勢を直し、後ろにボールを返すシーンが幾つかピックアップされていた。
「ほへ~無理しないんだ。見かけによらず理性的なプレーをしますね」
 ここまで無理をしまくるタイプ、ミノタウロスやらドワーフやらオークやらとばかり対戦してきたので今見た風景はなかなかに新鮮だった。
「無理をしないのか、できないのかは微妙なラインじゃがの」
 ジノリコーチがそう言う間に戻されたボールはトンボの様な外見のSB、ハチの様な外見のMFを経由して逆サイドへ渡っていく。彼女らはそれなりに俊敏そうでパスの繋ぎもスムーズだが身体の線は細く、当たれば俺やエルフでもショルダータックルで吹き飛ばせそうだ。
 いやあの身体に触れてみたくはないけど。
「なるほど。無理が聞くのはCFとボランチとCBくらいですかね?」
 今あげたポジションの選手はそれぞれカブトムシ、サソリ、クワガタと言った見た目でみな鎧の様な外殻を誇っている。ただそこは地球と同じなのか当然、女性なので角とか大顎はさほど大きくない。と言うかあったらヘディングがさぞかし恐ろしいだろう。
「うむ。そいつら以外は線も細いし、足下のテクニックにもそれほど秀でた部分は無い。故にボールを持ち少ないタッチで回し、ボディコンタクトを避けてここぞで勝負をかける。それがボールポゼッション保持の高さと点数の低さの理由じゃ」
「この世界の種族にしては珍しく合理的ですね……」
 感心した俺は思わず、この世界全体に喧嘩を売るような言葉を呟いてしまった。だがジノリコーチは意にも介さずシステム解説を続ける。
「合理的なだけではないぞ? その上で極めて組織的で機能的じゃ。相手のシステムやスタミナの状況に併せて自在にシステムを変更し、数の有利を作ってきおる。ほれ、ほれ、ほれ」
 ドワーフの才女は嬉しそうに何度も画像を切り換える。うん、俺やっぱこの単純な幼女好きだわ……じゃなくて!
「(以前から可変システムを導入している? やはり何者かに影響を受けてるのか? あとどうやってこの舵取りを実現しているか? だな)」
「どうしたショーキチ、不安か? なーに、ワシに策がある!」
 考え込む俺を心配したか、ジノリコーチは安心させるように自分の胸を叩いた。
「え、マジっすか!? いったいどんな?」
 平坦な胸を太く短い腕が叩く風景になごみながら、俺はわくわくして問う。
「おぬしのもたらしたものからヒントを得た戦術じゃ」
「ほう、俺から!」
「その名を……『オーバーロード』という!」
 しかし、ジノリコーチが自信満々に告げた作戦の名は――立場的に――非常に心配になるものだった……。

 ~インセクターvsエルフ戦後。宮殿にて。その1~

「ボクシーはさぁ。『伏線回収』って言葉知ってる?」
「なにかやシャマー!? 唐突に……まあ知っておるが」
「わたしねー。ショーちゃんから『風呂も入らず汗臭いまま来てくれ』って言われた時、それだと思ったのよー」
「はぁ」
「今までどんな色仕掛けをやっても通じなかったのは、ショーちゃんが『匂いフェチ』だからだったんだ! って。そう言えば夢魔法は匂いまでは再現できないから、考えれば考えるほど納得、ってねー」
「シャマー、ぬしは夢の中にまで入って落とそうとしておったのか……。ウチのサソリどもでもドン引きじゃ」
「ん? してその心は?」
「サソリの星は一途な星なんじゃ。今度ショーキチ君に聞いてみるがよい」
「うん、そうするー。でね? 当日はトレーニング後の事を考えると気が気じゃないし、でもその日の練習も狭い所でぶつかり合うから気は抜けないし」
「それであんな展開になったのか。成果は出たようじゃな」
「そのままで来い、て言われててもやっぱ汗はあまりかきたくないし」
「難しい乙女心じゃな」
「あー、うん」
「え? ぬし本当に乙女……」
「で! 悩みながらも少し早く練習を切り上げて作戦室へ向かった訳よ。そしたら何が聞こえてきたと思うー?」
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