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第十六章
虫目の対象
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オフ開けリカバリーの日の夜。となるとコーチ陣の定例会議だ。俺たちはミーティングルームに集まって再び資料を広げていた。
「にっ、人数が多いと緊張する……」
「別にアンタは喋りませんけどー」
そう言ってアカリさんが隣のサオリさんを宥めた。そう、今回はスカウティング担当のアカサオ、双頭のゴルルグ族もいる。コーチ陣フルメンバーだ。
「なんだかお顔を拝見するのも久しぶりという感じですね」
「そっすね。うわ、ナリンさん変わらず作画が良いー」
「お、お手柔らかに……」
蛇の表情は分からないがアカリさんは気さくに、サオリさんは緊張気味にナリンさんの声かけに応える。しかし改めて聞くとアカリさんもややギャル寄りだったな。見た目が蛇過ぎてそこにインパクトなかったわ。
「次は初のアウェイ、しかもインセクター戦じゃ! 監督としても腕がなるのではないか?」
エルフと蛇人間の交流を眺める俺に、ジノリコーチが話しかけてきた。このロリドワーフ、いつもよりテンションが高く見える。
「そんなもんですか?」
「ああ。ポビッチ監督も言っておった。『インセクター戦は、サッカードウの試合と言うよりも、選手を駒に使ったボードゲームをしている気分だ』とな! それだけにお主の手腕が頼りじゃ!」
そう言ってジノリコーチは様々なフォーメーション図を取り出した。それを見ながら、俺はステフやアカサオに説明されたインセクターの種族的特徴を思い出していた。
昆虫人間インセクターは、ガンス族と真逆でこの異世界で最も親しみ難く、理解するのも難しい種族だ。生息地や細かな亜種も多岐に渡るし、そもそも『昆虫』と言っているものの地球で言う昆虫の定義――頭部、胸部、腹部に別れ足が3対で羽がある――に必ずしも沿う存在でもない。
だが大まかに言って見た目が「直立する虫」であればインセクターである事に間違いはなく、話してみればその発声の仕方や精神性で俺たち脊椎生物とは全く別の種族である事が分かる。
正直、町中で彼ら彼女らを初めて見た時はかなりギョっとしたものだ。この世界へ転移し、ここは俺のいた地球とは違うファンタジーな場所だ……とマインドセットできた後でも、のっしのっしと歩く等身大の黒光りするインセクターを見て感じる本能的な恐怖はなかなか拭えなかった。幸いな事に、地球の例のGに似たインセクターはあまりいないとの事だが。
また知性や精神面も俺たちとは大いに異なる。インセクターの大半は喜怒哀楽といった感情が全く伺えず全てを事務的に処理する。接してみるとまるでロボットと会話しているような――いや、ペ○パー君やらア○クサやら人間味とユーモアがあるロボットやAIが存在する現代では、もしかしたらロボットの方が親近感を覚えるかもしれない――気分になる。
ではそんな種族がなぜ、多種族と交流し生産性のない言わば「娯楽」に過ぎないサッカードウのリーグに参加しているのかと言えば……上層部の意向、それにつきるらしい。
そもそもインセクターは完全な階級社会で、生殖出産と意志決定を担当する女王を頂点に、兵士階級、生産階級、社会の運営維持階級、と完全に分かれている。その中の女王たちが、ある時突然に
「我々もサッカードウを行う」
と決定しサッカードウ階級とでも言うべき存在を産み出し、DSDKの承認を得て下部リーグから参加。順調に昇格を繰り返し1部リーグに定着してはや10年……という所だという。
「冷静に考えるとこの戦力でよく1部リーグに居座り続けておるものじゃ、と思うがのう」
ジノリコーチは昨シーズンの資料を見ながらしみじみと言った。
「同率でリーグ最少失点は素晴らしいが得点数も最少。見所はボール保持率3位くらいかの」
ちなみに最少失点のもう一つのチームはトロールだ。オークではない。前節戦ったあの荒くれ姉さんズは守備が自慢ではあるものの、何事にも荒いので意外と失点をする。
「それだけ監督が上手くやっている、という事ですかね。ポビッチ監督が言うみたいに」
俺は半信半疑ながらも監督会議で見たインセクターチームのラリー監督の姿を思い出しながら言った。やや青みがかかった蜂、といった容貌の指揮官は、しかし取り立てて目立つ印象を俺に与えなかったからだ。
「うーん、それなんじゃが……」
「そうとも言えるしそうでないとも言えるっす」
ジノリコーチが何やら腕を組んで悩む間に、そう言って話に加わってきたのはアカリさんだった。
「これを見て下さい。ピッチじゃなくて、貴賓席の方」
アカリさんは魔法の端末を操作して、ある画面の一部を引き延ばした。インセクターのホーム『ストーンフォレスト』での試合だろう。大勢の昆虫が行儀良く座って観戦しているある種、恐怖画像の少し上にそれ、はいた。
「え……なんなんすかこいつ……」
「にっ、人数が多いと緊張する……」
「別にアンタは喋りませんけどー」
そう言ってアカリさんが隣のサオリさんを宥めた。そう、今回はスカウティング担当のアカサオ、双頭のゴルルグ族もいる。コーチ陣フルメンバーだ。
「なんだかお顔を拝見するのも久しぶりという感じですね」
「そっすね。うわ、ナリンさん変わらず作画が良いー」
「お、お手柔らかに……」
蛇の表情は分からないがアカリさんは気さくに、サオリさんは緊張気味にナリンさんの声かけに応える。しかし改めて聞くとアカリさんもややギャル寄りだったな。見た目が蛇過ぎてそこにインパクトなかったわ。
「次は初のアウェイ、しかもインセクター戦じゃ! 監督としても腕がなるのではないか?」
エルフと蛇人間の交流を眺める俺に、ジノリコーチが話しかけてきた。このロリドワーフ、いつもよりテンションが高く見える。
「そんなもんですか?」
「ああ。ポビッチ監督も言っておった。『インセクター戦は、サッカードウの試合と言うよりも、選手を駒に使ったボードゲームをしている気分だ』とな! それだけにお主の手腕が頼りじゃ!」
そう言ってジノリコーチは様々なフォーメーション図を取り出した。それを見ながら、俺はステフやアカサオに説明されたインセクターの種族的特徴を思い出していた。
昆虫人間インセクターは、ガンス族と真逆でこの異世界で最も親しみ難く、理解するのも難しい種族だ。生息地や細かな亜種も多岐に渡るし、そもそも『昆虫』と言っているものの地球で言う昆虫の定義――頭部、胸部、腹部に別れ足が3対で羽がある――に必ずしも沿う存在でもない。
だが大まかに言って見た目が「直立する虫」であればインセクターである事に間違いはなく、話してみればその発声の仕方や精神性で俺たち脊椎生物とは全く別の種族である事が分かる。
正直、町中で彼ら彼女らを初めて見た時はかなりギョっとしたものだ。この世界へ転移し、ここは俺のいた地球とは違うファンタジーな場所だ……とマインドセットできた後でも、のっしのっしと歩く等身大の黒光りするインセクターを見て感じる本能的な恐怖はなかなか拭えなかった。幸いな事に、地球の例のGに似たインセクターはあまりいないとの事だが。
また知性や精神面も俺たちとは大いに異なる。インセクターの大半は喜怒哀楽といった感情が全く伺えず全てを事務的に処理する。接してみるとまるでロボットと会話しているような――いや、ペ○パー君やらア○クサやら人間味とユーモアがあるロボットやAIが存在する現代では、もしかしたらロボットの方が親近感を覚えるかもしれない――気分になる。
ではそんな種族がなぜ、多種族と交流し生産性のない言わば「娯楽」に過ぎないサッカードウのリーグに参加しているのかと言えば……上層部の意向、それにつきるらしい。
そもそもインセクターは完全な階級社会で、生殖出産と意志決定を担当する女王を頂点に、兵士階級、生産階級、社会の運営維持階級、と完全に分かれている。その中の女王たちが、ある時突然に
「我々もサッカードウを行う」
と決定しサッカードウ階級とでも言うべき存在を産み出し、DSDKの承認を得て下部リーグから参加。順調に昇格を繰り返し1部リーグに定着してはや10年……という所だという。
「冷静に考えるとこの戦力でよく1部リーグに居座り続けておるものじゃ、と思うがのう」
ジノリコーチは昨シーズンの資料を見ながらしみじみと言った。
「同率でリーグ最少失点は素晴らしいが得点数も最少。見所はボール保持率3位くらいかの」
ちなみに最少失点のもう一つのチームはトロールだ。オークではない。前節戦ったあの荒くれ姉さんズは守備が自慢ではあるものの、何事にも荒いので意外と失点をする。
「それだけ監督が上手くやっている、という事ですかね。ポビッチ監督が言うみたいに」
俺は半信半疑ながらも監督会議で見たインセクターチームのラリー監督の姿を思い出しながら言った。やや青みがかかった蜂、といった容貌の指揮官は、しかし取り立てて目立つ印象を俺に与えなかったからだ。
「うーん、それなんじゃが……」
「そうとも言えるしそうでないとも言えるっす」
ジノリコーチが何やら腕を組んで悩む間に、そう言って話に加わってきたのはアカリさんだった。
「これを見て下さい。ピッチじゃなくて、貴賓席の方」
アカリさんは魔法の端末を操作して、ある画面の一部を引き延ばした。インセクターのホーム『ストーンフォレスト』での試合だろう。大勢の昆虫が行儀良く座って観戦しているある種、恐怖画像の少し上にそれ、はいた。
「え……なんなんすかこいつ……」
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