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第十六章

魔法会の序列

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「うーっ! うー!」
「うにゃあ……あわわわわわわ」
 俺は思わず悲鳴を上げ、降参とばかりに手で畳……を叩く事はできないので、テーブルを叩く。
「はむ! はむ!」
 噛みついた、と表現したものの実のところシャマーさんはそれほど歯を立ててはいなかった。唇で俺の耳を挟み込み引っ張っている状態だ。これが耳の長いエルフの標準的なプレイなのか!? このままでは……。
「どどどどしたオタくん!?」 
 耳に全神経が持って行かれ忘我の彼方へ行かんとする最中。突然、監督室のドアが開きそんな声と共にナギサさんとホノカさんが現れた。
「あれ、もしかしてホノカもう始めちゃってた!?」
「いや、あーしは後ろだし」
「まだ何も始まっちゃいませ……なんなんすかその格好!?」
 現れたブヒキュアの二人は廊下の灯りが逆光になって見難いが、普段のミニ丈のメイド服を更に短くした、もはや水着と言っても過言ではない衣装を着ていた。しかも人間のギャル姿で、だ。目のやり場に困る。
「だってオタくん、なかなか取らせてくれないからさー」
「もうこっちから行くしかないっしょ! て感じ」
 そう言いながらナギサさんとホノカさんは身体を左右に揺らし――何の為に!?――それと連動して巨大な煮卵と白桃黒い胸と白い胸がぶつかりあった。何か香水でもつけているのか、強いお酒につけた果物が発するような匂いも漂ってくる。
「何を取るって話しですか! あ、時間を取るって話?」
「アレに決まってんじゃん、アレ」
「てかもうやってるしー」
 あわわ! そうだ、ブヒキュアの二人が指さす方向には、まだ俺の耳を口に入れたままのシャマーさんがいた!
「別に何もやってません!」
「その姿勢で? しかもあんな声出して?」
「説得力がナシよりのナシー」
「いや、み……耳たぶを噛まれただけです!」
 俺は諸々を省き、現状だけを説明する。
「何その言い訳ーうけるー」
「『みみたぶ噛んだだけ』が通用するのはバスタ○ドだけだっつーの!」
「はっはあ……」
 俺の言葉を聞いたオークの二人は謎の言葉を吐きながら笑い出した。それを後目に、俺はやや落ち着きつつあるシャマーさんをそっと耳から剥がした。
「あ! 誰かと思ったらシャマーさんじゃん!」
「魔法会の先輩が先だったらあーしら全然あとでいいんでー」
 水着姿の二人はそう言うと今度は急にペコリと頭を下げた。おお、順番は守るんだな。なんかこう、チャラいように見えて礼儀正しいの、『オタクに優しいギャル』ものとしてポイント高いな。
 じゃなくって!
「魔法会の先輩って?」
「いやだってあーしら魔法少女だしー」
「魔法会の末席の末席みたいな?」
 なるほどわからん。
「ブヒキュアって魔法少女なんですか?」
「ショーちゃん、それは壮大な宗教戦争になるから聞いちゃ駄目だよー」 
  ふと、肩口からシャマーさんのからかう様な声がした。良かった、ビーストモードから悪戯娘モードに戻ったんだな。俺の肩に乗せた顎は除けて欲しいけど。
「魔法なのに宗教戦争って……そうなんすか?」
「そうだっつーの」
「なんなら魔法で変身しよっか? ほれ」
 その言葉と共にナギサさんが手を振り、二人の姿は一瞬で初めて会った時のようにマッチョなオーク姿に戻る。確かにこれは魔法による変身でなければあり得ない。
「あーなるほど」
 何がなるほどか分からないが、俺はスン……と冷静になった。どれだけ身体的視覚的に興奮していても、筋肉を見ると落ち着いてしまう性質が男にはまあまあ、ある。聞くところによると普段、筋トレが趣味なグラビアアイドルさんも、撮影の何日か前からはマネージャーさんからトレーニングを禁止されたりすることもあるらしいし。もちろん逆の趣味だっているのだが。
「ありがとうございます。おかげでよく分かりました。じゃあ今日はこんな所で。お疲れさまー」
「お、おう」
「おっつー」
「ちょいちょいちょい!」
 俺は終了の雰囲気を出して頭を下げ、つられてブヒキュアが別れの挨拶を交わす。が、流石にシャマーさんには通じなかった。
「魔法少女があんなに礼儀正しく順列を守ってくれているんだから、ショーちゃんも良い子してお姉さんと悪いことしよ?」
 おっと次は良い子悪い事の違うバージョンか。しかしもう、冷静になってしまった俺にはその陽動は効かない。
「それなんですけど。シャマーさん、明後日の練習後に時間を貰えますか?」
「え?」
「でブヒキュアのお二人は明明後日。どちらも作戦室で」
「おおう! てか連日じゃん! 実はオタくん性豪?」
「作戦室って撮影機材あるっしょ? まさか撮る気?」
 ちゃうわ! 誰がJ1最多出場記録保持者のGK楢崎正剛ならさきせいごうやねん! しかもそっちの監督はせえへんわ!
「ま、それぞれにお願いしたい事があるんでね」
 本当はブヒキュアの二人だけだったのだが彼女たちの乱入で一つ、試したい事ができたのだ。俺は内心のツッコミを抑えつつ、今度こそ部屋から出ようとする。
「分かった。じゃあお風呂入ってすぐに行くね」
 俺の言葉に、シャマーさんは再び少し顔を赤らめながら言った。
「いや、できれば汗も拭かずにでお願いします! じゃあ!」
 説明すべきかもしれないが、俺は歩きながら脳裏に浮かんだプランを練りたい衝動に駆られていた。
「えええ!?」
「汗塗れでしたいってコト?」
「あるいはどうせすぐに汗だくになるからとか……」
 そんな風に当惑する三名を残して、俺は監督室を後にした。
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