D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第十六章

ほめごろとほめごろし

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「それはそうと。特にエルエルは最近、良くやってるよ。この前、ちょっとでも試合に出た事で自信がついたみたい。今度、褒めてあげてね?」
 そう言うシャマーさんが指さす先には、地面に並べた駕籠の間をドリブルですり抜けクロスを上げるエルエルさんの姿があった。
「そうですか! ありがとうございます、今度言ってみます。ただオーバーワークやり過ぎだけは注意しないと」
 話す間にもエルエルさんは同じ練習を繰り返す。監督によっては、特に外国人の監督さんなんかは全体練習から負荷や運動量を計算していて選手の自主練習を禁じる方が多いが、俺はエルフさんの性格を考慮して選手たちの裁量に任せていた。
 彼女らの根本は孤独に狩りをしたり(デイエルフ)魔法を研究したり(ドーンエルフ)する狩人や魔術師であり、孤高な探究家なのだ。サッカーは集団競技だから合わせる必要もあるし集団生活も行うが、一人で自分のワザを気が済むまで磨く時間も必要だ。
「じゃあ、灯り消しちゃう?」
「そうですね。時間がきたら……」
「えい!」
 そう言うとシャマーさんは手をさっと振り、監督室の灯りを全て消してしまった!

 シャマーさん消灯するのはこっちじゃないです! ……と叫ぼうとした俺の腹の上にどすん、っと何かが乗り息が詰まる。
「にへへ。私がどこか分かるまい」
「ぐっ……」
 確かに人間はエルフほど暗闇を見通せない。だがグランドの光は少し差し込んでいるし、何より腹の上の質量がその位置を告げている。
「シャ……マーさん、悪ふざけは……」
 そしてこういう時の行動パターンも把握している。俺は左手で顔面をガードしつつ、右手で腹の上の物体を掴もうとした。
「あれ?」
 しかし「それ」はシャマーさんではなかった。柔らかい布の向こうに更に同じ感触。クラブハウスの至る所にある洗濯物入れと実際の洗濯物。それらを丸めて固めたモノの様だった。
「どうせ私は悪い親分だもーん」
「へっ!?」
 声は真後ろからした。シャマーさんは椅子の背もたれ越しに俺をバックハグし、洗濯物を掴んでいて守れない俺の右側から顔を寄せてきた。
「へっへっへ、ぼっちゃんも悪い子ね? おねーさんと、良いことしましょ?」
「ちょっとシャマーさん!?」
 シャマーさんはそう言いながら俺の首を軽く吸い、右手をそっと胸元へ差し込んでくる。確かこの言い方は
「良い子ね? 悪いことしましょ?」
「悪い子ね? 良い事しましょ?」
「良い子ね? 良い事しましょ?」
「悪い子ね? 悪いことしましょ?」
と4パターンあるが、結局やる事は全部同じな筈だ!
「ふふふ、みっけー」
 などと考えている間にシャマーさんの手は俺の乳首を探りあてた。まずい、このままでは……!
「シャマーさん! シャマーさんは、えっと……は悪い子じゃないですよ」
「えっ!?」
 その時。起死回生を求めて視線をさまよわせた俺は、救いの光を文字通りグランドの光に見いだしていた。
「本当はとても優しくて他者を思いやれるし、それでいて頭も良くて色んな事を考えてくれるし」
「えっ、えっ、何を!?」
「いつも朗らかで楽しそうにしてくれているから安心できるし、そうやってニコニコしているときは少女の様で可愛いけど、真剣に何かを考えている時ははっとするほど美人だし……」
「なっ、どうして急に……」
 そう言って狼狽し――実際、俺の胸元をまさぐる手も、当然ながら俺の首を吸う口も行為を停止していた――声を上擦らせるシャマーさんは、しかし案外まんざらではない様子だった。見えなくても彼女の顔がニヤけているのが分かる。
「急にじゃないです。ずっと言いたかった事です。シャマーさんは本当によくやってくれています」
「うっ……」
 シャマーさんはさっき言っていたではないか。
「エルエルを褒めてやってね?」
と。それは文字通り、試合にまだあまり出れていなくても自主練を頑張っているエルエルたちを思いやっての言葉ではあるが、同時に彼女にも
「自分を褒めて欲しい」
という気持ちは絶対にある筈だ。
 だが恐らく自身ではそれに気づいておるまい。だからもしその気持ちを思いもしないタイミングで、例えば自分がウブな人間にいやらしー悪戯を仕掛けている時にくすぐられたら?
「待って、だっ駄目だから……」
「何が駄目なんです? 俺は本心を言ってるだけですよ?」
 見事なカウンターになって今のようにフリーズしてしまうだろう。これこそ俺がグランドの照明を見て、その下で練習している控え選手達を見て思いついた反撃法だった。
「抱きしめたら壊れそうなほど華奢なのにDFとして屈強なFWでも頭脳的に抑え込んでくれるし、ロングボールを蹴った後に勢いでぴょん、となっちゃう所も小動物みたいで可愛いし、繊細な動きをするこの指で指示を出す所は格好良いし……」
 俺はそう言いながら彼女の手を取り、そっと握りながら俺の胸元から遠ざける。
「うっう……」
 シャマーさんは今や暗闇でも分かるほど顔が真っ赤だ。効いてる効いてる! そうだ、そもそも日本には
「褒め殺し」
というワザがあるんだった! いや意味は全然違うけど。もっと早く使えば良かったな!
「最近は見てないですけど、学校の先生として授業してる姿は……」
「うーっ! ガブ!」
「うひゃあ!」
 気を良くした俺はしかし、やり過ぎた。窮地に陥ったシャマーさんが行った反撃は、なんと俺の耳たぶに噛みつく! というものだった!
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