D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第十六章

鎧袖犬触(がいしゅういっぬしょく)

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 ウチは回転のかかったボールが芝生の上で転がる時のしゅーっ、って音が好きや。世界で二番目に甘い音やと思う。
 ちょうどいま、そんな音を立てながらガンス族左SBの背中側を通ってウチの元へ戻ってきた――確かショーキチにいさんは『裏街道』ちゅうという技やて言ってたんとちゃうかな――ボールを前にトラップして、中を見る。 
 ワンちゃんたちのCB陣はリストねえさんとヨンねえさんのマークにつこうと必死や。前半からポリンやマイラねえさんのパスに振り回されて足腰にきてる所にこのツインタワーやもんな。
「えぐいことすんで……」
 味方のがんばりにタダ乗りするのは悪い気もするけど、もうけ話を逃すのは商売人の娘としてプライドがゆるさん。ウチはGKがクロスに備えて前にステップを踏んだのを視界の隅で見ながらループシュートを蹴ってみる。入った。
「ゴーーール!」
 ノゾノゾちゃんの絶叫アナウンスを聞く前からウチはベンチの方へ走ってた。まんなかでプレイする方が楽しくはあるけど、サイドはサイドですぐあそこへ走っていける利点があるな。
「あの……からマジで!? レイさんすごい!」
 抱きついて、世界でいちばん甘い音ショーキチにいさんの声を聞く。ウチの可愛いひとは物欲しそうな目の輝きを必死で隠しながら紳士的? に背中を叩いてゴールを祝福してくれる。そんな目をするなら、ふだん二人っきりの時にもうちょい大胆に迫ってくれてもええのに。
「ダリオさんを……てエルエルを入れるから、レイさんは左サイドへ……くれるかな?」
「レイ、ナイスゴールです! エルエルを右サイドへ入れるので、ダリオ姫が下がった左サイドへ入って」
 ショーキチにいさんの言葉をナリンさんが通訳するのを聞く。びっくりするほど美人で優しくて頭が良くて……いつもショーキチにいさんと一緒にいられて羨ましいな。
「レイ、分かった?」
「うん。いけたらいくわ」
 せっかく点を決めて嬉しかったのにちょっとあんにゅい? な気持ちになるわ。でもまあ、戦いは始まったとこやし。
「離れるのさびしゅうなるなあ」
 ウチはもう一度、ウチの可愛いひとを抱きしめてピッチへ戻った。大丈夫、サッカーをやってたら何度だってあの甘い音を聞ける。
 だってウチは天才やし。


 ガンス族との試合は後半40分を越えて3-0だった。意外と渋い内容だが、前半22分にリーシャさんが初得点を挙げるまでは前からボールを追ってくれたガンスチームが、失点したことで逆に引きこもり攻略が難しくなってしまった結果だ。
 或いは話し通り新月でテンションの低いチーム状況を鑑みて、ケビン監督がダメージの少ない現実的な戦術を――余談だが昔ある作家さんが、守備的で手堅い作戦を見て「超現実的」と描写してて思わず「それじゃシュルレアリスムやんけ!」と思ったことがある――選んだ、とも言えるかもしれない。
 まあどちらにせよもう勝ち試合だ。たった二試合目で称するにもおこがましいが、十八番のセットプレイも炸裂しポリンさんも初得点で2-0、そしてそのポリンさんと交代で入ったレイさんが右サイドからあり得ない角度のループシュートを決めて3-0。これは決まっただろう。
「しかしレイさん……あんなゴラッソを決めたのにちょっとテンション低かったっすね」
「ええ。左サイドでのプレイに不安があるのでありますか?」
 ナイトエルフのファンタジスタはダリオさんの代わりに左サイドへ移動していた。エルエル――本名はラックさんという。見た目やプレイスタイルが昔のリーシャさんの様なので俺がリトル・リーシャと呼び初めたら本エルフも気に入り、いつしか短縮してエルエルと呼ばれるようになった――を右に入れる以上そうするしかないのだ。
「レイさんが不安を? そりゃないっしょー」
 少し考えて、俺はナリンさんの推測に異議を唱えた。エルエルは典型的なデイエルフのウインガーで、現段階では右ワイドで使うしかない。ついでに言えば経験も余裕も少ないので、このような試合で慣らし運転しておく必要もある。なにせ次節のインセクター戦はレイさんポリンさんの学生組は使えないし。
 しかし当のレイさんは違う。才能の塊だ。もちろん守備をさせるよりは攻撃に専念させた方がずっと良いが、たぶん何処のポジションでやらせても自分を出して輝ける選手だ。
「そうでありますか?」
「ええ。もし俺に彼女の才能の半分、いや三分の一でもあれば地球でサッカー選手になってますよ!」
 これは贔屓目など一切ない本気の評価だ。正直、ときどき羨望の目で彼女を見てしまう。
「ショーキチ殿にはショーキチ殿にしかない才能がたくさんあるでありますよ!」
 ナリンさんはすぐさまフォローするように言った。
「あ、そんな気を遣わせてすみません! 『サッカー選手になってみたかったなあ』という軽い気持ちでして!」
「いや気を遣ってなど……」
「ピピー!」
 ちょっと変な空気になりそうな俺たちを審判さんの笛が救った。3-0で試合終了! 開幕からホーム二連戦で相手もそこまで強くない、と好条件に恵まれたものの二連勝だ。
「じゃあ、いつもの行きましょうか」
 俺はナリンさんと顔を見合わせて、いつものルーティーン仕事をこなすべく歩き出した……。
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