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第十五章
月を欠く空
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「腰がいい……」
「へ?」
「叩くなら腰にして……。優しくね」
「あー、はいはい」
俺は苦笑しながらルーナさんの頭を叩いていた手を、腰を撫でる運転に切り換える。
「質問の続き。生理用品的なモノはどうしてる? 開発部に作らせようか?」
「シャマーにゲキオーチクンを改造したモノを作って貰ってる」
ゲキオーチクン……あ、オーク代表がセンシャで使ってたヤツか! しかしアレがベースとなるとちょっと不便そうだぞ。
「もし良かったら幾つか貸してくれない? 俺だって詳しい訳じゃないけど、なけなしの知識を総動員して改良してみせるから」
俺がそう言うとルーナさんは顔を上げてこっちを見た。
「あ、もちろん使用前のね!」
「分かってるって。ショーキチはスケベだけど、そこまでマニアックな趣味はしてない」
いや後半は肯定するけど前半は否定するぞ!
「スケベでもありません!」
「なんでそこまでしてくれるの? 監督ってそこまでするものなの?」
ルーナさんは小首を傾げてそう問う。
「いやだって、仲間が辛そうにしてたら助けるのが当たり前でしょ? 監督とか選手とかじゃなくてね。あと俺、女性の多い職場にいて自分なりには配慮してたつもりだけど、対応を女性社員任せにしてた部分もあって、心残りだったし」
実の所、パートのおばさんらは俺が相手でも平気で
「おばちゃん生理痛やから早退するで」
くらいは言ってくるが、若い女の子から連絡が来て電話に出たのが俺だと分かるとさりげなく女性社員と変わってくれ……とお願いされる事も多々だった。
『そっか。ちょっと残念だな』
「へ? 何?」
急にルーナさんがエルフ語に切り換えて何か言った。
「何でもない。それで、週末のガンス族戦だけど」
「あ、うん?」
サッカードウの話になると気持ちが一気にそちらへ集中する俺の習性を熟知したルーナさんが、話題を逸らす為にそう言った……という所までは分かっている。が今は追求しないことにした。こういう時期ってメンタル面でも辛いだろうし、冷静に考えたらベッドの上で肩を抱き腰を撫でているという状況から目を背ける必要が俺にもあったからだ。
「もしメンバーに選ばれてもちょっと難しいかな」
「そうか。分かった」
ミノタウロス戦で彼女の活躍を見た時から、
「何故、彼女がスタメンでなかったのだろう?」
という疑問はずっとあった。旅先で合流しチームが始動し、練習、プレシーズンマッチ、開幕戦とプレーを見続けてその疑問は膨らむ一方だった。もしかしたら混血児への偏見でもあるのではないか? と不安になった事もあった。
だが今なら分かる。エルフとしては、良く分からない理由で体調不良になるルーナさんを心からは信頼できなかったのだろう。
今後は……それを解消する啓蒙活動も必要かもしれないなあ。
「了解であります。ルーナ選手は暫時、練習参加を控え養生に専念すべし!」
シリアスな悩みを隠すように俺がそう言いつつふざけて敬礼すると、ルーナさんはクスリと笑いながら俺の手の角度を直した。
「それじゃ天国のパパに叱られちゃう」
「え? 良いじゃんこれくらい」
「ショーキチ、だめ。開けないで」
「こう?」
「だからだめって。そんな角度の見せちゃ、パパが激怒するよ?」
「しょ、ショーキチ殿! そろそろ……!」
急にルーナさんの部屋のドアが開き、ナリンさんが顔を真っ赤にして飛び込んできた。その後ろには、レイさんたちも人間ピラミッドならぬエルフピラミッドの様に重なって控えている。
「何してんの君ら?」
「それはこっちの台詞やでショーキチにいさん!」
「ショー殿は無限に新しいプレイを産み出せるでござるな」
「ベッドの上のファンタジスタっすね!」
ナイトエルフさん達に言われて、俺は自分がベッドの上でルーナさんと互いの肘をつかみ合い密着するような体勢である事を思い出した。
「いや、これはね……。まいったな、どこから説明したものか。ルーナさんさえ良ければ一度、人間の身体の仕組みについて講習会をやった方が良いかもだなあ」
ルーナさんから身を離しつつそう呟くと、彼女は事も無げに頷いた。
「私は良いよ」
「そっか! じゃあ一人一人に説明するのは面倒だし今度、講習会でも開きますか! ナリンさん、その時はまた手配とかお願いします」
「ショーキチ殿の身体……角度……」
許可を得た俺の言葉は、何故かナリンさんには届いてないようだった
「人間の仕組みってどういう意味なん?」
「きっとショーちゃんの身体のサイズとか気持ち良い場所とか教えてくれるのよ」
「なんと! いや確かに知っておかないと二時創作した時に『そんな位置に謎の穴は無いから』と読者に突っ込まれるでござるから、大事でござる!」
レイさんやシャマーさん達も何か別の方向で盛り上がっていた。後にこの時の誤解そのものは解ける訳だが、俺はその場でたいそう理不尽なクレームを受ける事になるのであった……。
ルーナさんの欠場確定を受け、翌日からは左SBのスタメンにアイラさんを入れて練習を行う事となった。またシステムは慣れ親しんだ1442ではあるが、表記としては14222とした方が正確な形――中盤前目の二名は両サイドに開くのではなく、より中央へ近づき後ろの二名と併せて正方形を形成する――を使用する。
これは縦横のスペースを圧縮しプレスを行い易い並びである。しかも両SBが高い位置へ出られるのでハマれば極めて攻撃的に戦える。
「オフサイドトラップもプレスも控えめ」
という先日決めた方針とは矛盾するような形だが、意図的にそれを行う代わりに立ち位置で結果として出来てしまえる設計にしておいて、後はなるべく即興でなんとかしよう……という目論見だ。
難点としては選手同士が近すぎて手薄な逆サイドへ振られた時だが……ガンス族がそういう戦い方をしない、できないのは検証済み。逆にこちらは高いポジションをとった反対のサイドのSBが浮く。プレスからの即興で一気にゴールを襲えればよし、駄目なら良い意味で孤立しているSBへ展開しそこから単騎突破で仕掛けてよし、組立直してもよし……。
と理想を言えばこうだ。だがまあ、全てが思惑通りにいかないのが相手のいる競技である。特に今回は混沌とした状況が発生しそうで、即興性や対応力が要求されるだろう。
そこで俺はコーチ陣にゲーム形式の練習を多目に設定して貰った上で、更に特殊な対戦相手を連れてくる事にした。
「へ?」
「叩くなら腰にして……。優しくね」
「あー、はいはい」
俺は苦笑しながらルーナさんの頭を叩いていた手を、腰を撫でる運転に切り換える。
「質問の続き。生理用品的なモノはどうしてる? 開発部に作らせようか?」
「シャマーにゲキオーチクンを改造したモノを作って貰ってる」
ゲキオーチクン……あ、オーク代表がセンシャで使ってたヤツか! しかしアレがベースとなるとちょっと不便そうだぞ。
「もし良かったら幾つか貸してくれない? 俺だって詳しい訳じゃないけど、なけなしの知識を総動員して改良してみせるから」
俺がそう言うとルーナさんは顔を上げてこっちを見た。
「あ、もちろん使用前のね!」
「分かってるって。ショーキチはスケベだけど、そこまでマニアックな趣味はしてない」
いや後半は肯定するけど前半は否定するぞ!
「スケベでもありません!」
「なんでそこまでしてくれるの? 監督ってそこまでするものなの?」
ルーナさんは小首を傾げてそう問う。
「いやだって、仲間が辛そうにしてたら助けるのが当たり前でしょ? 監督とか選手とかじゃなくてね。あと俺、女性の多い職場にいて自分なりには配慮してたつもりだけど、対応を女性社員任せにしてた部分もあって、心残りだったし」
実の所、パートのおばさんらは俺が相手でも平気で
「おばちゃん生理痛やから早退するで」
くらいは言ってくるが、若い女の子から連絡が来て電話に出たのが俺だと分かるとさりげなく女性社員と変わってくれ……とお願いされる事も多々だった。
『そっか。ちょっと残念だな』
「へ? 何?」
急にルーナさんがエルフ語に切り換えて何か言った。
「何でもない。それで、週末のガンス族戦だけど」
「あ、うん?」
サッカードウの話になると気持ちが一気にそちらへ集中する俺の習性を熟知したルーナさんが、話題を逸らす為にそう言った……という所までは分かっている。が今は追求しないことにした。こういう時期ってメンタル面でも辛いだろうし、冷静に考えたらベッドの上で肩を抱き腰を撫でているという状況から目を背ける必要が俺にもあったからだ。
「もしメンバーに選ばれてもちょっと難しいかな」
「そうか。分かった」
ミノタウロス戦で彼女の活躍を見た時から、
「何故、彼女がスタメンでなかったのだろう?」
という疑問はずっとあった。旅先で合流しチームが始動し、練習、プレシーズンマッチ、開幕戦とプレーを見続けてその疑問は膨らむ一方だった。もしかしたら混血児への偏見でもあるのではないか? と不安になった事もあった。
だが今なら分かる。エルフとしては、良く分からない理由で体調不良になるルーナさんを心からは信頼できなかったのだろう。
今後は……それを解消する啓蒙活動も必要かもしれないなあ。
「了解であります。ルーナ選手は暫時、練習参加を控え養生に専念すべし!」
シリアスな悩みを隠すように俺がそう言いつつふざけて敬礼すると、ルーナさんはクスリと笑いながら俺の手の角度を直した。
「それじゃ天国のパパに叱られちゃう」
「え? 良いじゃんこれくらい」
「ショーキチ、だめ。開けないで」
「こう?」
「だからだめって。そんな角度の見せちゃ、パパが激怒するよ?」
「しょ、ショーキチ殿! そろそろ……!」
急にルーナさんの部屋のドアが開き、ナリンさんが顔を真っ赤にして飛び込んできた。その後ろには、レイさんたちも人間ピラミッドならぬエルフピラミッドの様に重なって控えている。
「何してんの君ら?」
「それはこっちの台詞やでショーキチにいさん!」
「ショー殿は無限に新しいプレイを産み出せるでござるな」
「ベッドの上のファンタジスタっすね!」
ナイトエルフさん達に言われて、俺は自分がベッドの上でルーナさんと互いの肘をつかみ合い密着するような体勢である事を思い出した。
「いや、これはね……。まいったな、どこから説明したものか。ルーナさんさえ良ければ一度、人間の身体の仕組みについて講習会をやった方が良いかもだなあ」
ルーナさんから身を離しつつそう呟くと、彼女は事も無げに頷いた。
「私は良いよ」
「そっか! じゃあ一人一人に説明するのは面倒だし今度、講習会でも開きますか! ナリンさん、その時はまた手配とかお願いします」
「ショーキチ殿の身体……角度……」
許可を得た俺の言葉は、何故かナリンさんには届いてないようだった
「人間の仕組みってどういう意味なん?」
「きっとショーちゃんの身体のサイズとか気持ち良い場所とか教えてくれるのよ」
「なんと! いや確かに知っておかないと二時創作した時に『そんな位置に謎の穴は無いから』と読者に突っ込まれるでござるから、大事でござる!」
レイさんやシャマーさん達も何か別の方向で盛り上がっていた。後にこの時の誤解そのものは解ける訳だが、俺はその場でたいそう理不尽なクレームを受ける事になるのであった……。
ルーナさんの欠場確定を受け、翌日からは左SBのスタメンにアイラさんを入れて練習を行う事となった。またシステムは慣れ親しんだ1442ではあるが、表記としては14222とした方が正確な形――中盤前目の二名は両サイドに開くのではなく、より中央へ近づき後ろの二名と併せて正方形を形成する――を使用する。
これは縦横のスペースを圧縮しプレスを行い易い並びである。しかも両SBが高い位置へ出られるのでハマれば極めて攻撃的に戦える。
「オフサイドトラップもプレスも控えめ」
という先日決めた方針とは矛盾するような形だが、意図的にそれを行う代わりに立ち位置で結果として出来てしまえる設計にしておいて、後はなるべく即興でなんとかしよう……という目論見だ。
難点としては選手同士が近すぎて手薄な逆サイドへ振られた時だが……ガンス族がそういう戦い方をしない、できないのは検証済み。逆にこちらは高いポジションをとった反対のサイドのSBが浮く。プレスからの即興で一気にゴールを襲えればよし、駄目なら良い意味で孤立しているSBへ展開しそこから単騎突破で仕掛けてよし、組立直してもよし……。
と理想を言えばこうだ。だがまあ、全てが思惑通りにいかないのが相手のいる競技である。特に今回は混沌とした状況が発生しそうで、即興性や対応力が要求されるだろう。
そこで俺はコーチ陣にゲーム形式の練習を多目に設定して貰った上で、更に特殊な対戦相手を連れてくる事にした。
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