上 下
264 / 651
第十五章

エルフに嫉妬

しおりを挟む
 翌日はオフ明けなのでリカバリーの日だ。コンディションを整えるのがメインなので練習開始も遅く設定されており、試合に出た選手も余裕の表情で練習グランドに出て身体を動かしていた。
「難しいが一歩一歩確実にー!」
 とは言えガンス族戦への準備は始まっている。選手達はザックコーチの号令に合わせて複雑に配置された駕籠の間を縫うように走り抜けていく。
「うーん、惚れ惚れするなあ」
 アカリさんのレポート、そしてナリンさんやジノリコーチの分析によるとガンス族は直線的なチームだ。スプリント短距離疾走の回数も走行距離も多い。
 但し、細かな方向転換は得意ではない。アローズとしてはガンス族の勢いをそのまま受けるのではなく、少し角度をずらして逆を取る――戦術用語では矢印を裏返す、等と言う――事を狙いたい。その為は急停止や方向転換をスムーズに行えるようなボディコントロールが必要で、それを養えるようなトレーニングを行っているのだが……。
「正直、羨ましいわ……」
 エルフの皆さんは難なく、高難易度な障害物競走の様なコースをクリアして行った。
「何がですか?」
 トレーニングを隣で見守るナリンさんに独り言を聞かれてしまった。
「いえ、もし俺もあんな風に動けたら、パルクールとかやってみたかったなあ、と」
「パルクール……ですか?」
 謎の単語に首を傾げるナリンさんに軽く説明をする。
「それは面白そうな遊びですね!」
「ええ。パルちゃんはクール! でパルクールと覚えれば良いですよ」
 と言ってもナリンさんは清水エスパルスのマスコットなんて知らないだろうけどな!
「しかし……我々の場合は森の中を走り回っていれば自ずとそのパルクールとやらをやっていますし」
 あ、そりゃそうか! 特にデイエルフの皆さんは日常的に森を巡回して木の根を飛び越え岩に登り……ってやってるもんな。
「じゃあちょっとメニューを変えて貰う必要があるかもですね。あれ? でもあれ……」
 ザックコーチと相談しようかとグランドへ戻した視線の先で、誰かが急に踞るのが見えた。まさか河童の川流れ的にそういうの得意な筈のエルフが障害にぶつかってしまった!?
「ルーナ! おい、しっかりしやがれ!」
 ティアさんがそう叫びつつ駆け寄る。なんと、辛そうにしているのは意外な事にフィジカル自慢のルーナさんだった。
「医療班、来て下さい! みんなは練習に戻って!」
 俺もそう指示を出しつつルーナさんの元へ走る。見た所、外傷は無い様だが顔色はすこぶる悪そうだった。
「ショーキチ、ごめん。今日は休んで良い?」
「謝らなくて良いよ、もちろんだよ! 歩ける?」
 どうやら話す程度の元気はあるみたいだ。俺はルーナさんが静かに頷くのを見届けると後ろに下がって後は医療班に委ねた。
「ルーナはどうしたのじゃ?」
「ちょっと昨日からあまり元気がないみたいで……」
 次の練習の準備をしていた為に状況の把握が遅れたジノリコーチが俺に近寄り訊ねる。もっとも、俺も俺で特に説明できる訳でもなかった。
「後で確認して夜のコーチ会議で」
「そうじゃの。分かった」
 ルーナさんを欠くとなると大きな影響が出る。俺はジノリコーチと相談する事を約束し、気を取り直して練習の指導へ戻った。

 何が起きようともいざリーグ戦が始まったらショウマストゴーオン、チームは動き続けなければならない。明日はオーク戦を振り返って修正すべき点に手をつけ、明後日はチーム戦術の熟成、明明後日はガンス族への対策を植え付ける……という予定だ。
 その全てでコーチ陣は連携する事になっているが、各練習においては個々に主担当が決まっていた。例えばチームの修正点は選手達について最も詳しいナリンさんが、戦術については俊英ジノリコーチが、相手チームへの対策についてはアカサオのスカウティングレポートを元に俺が、といった具合だ。
 そしてザックコーチとニャイアーコーチがフィジカルとGKのコーチとしてその都度、助言を与える。そういう段取りの中で俺は自分の担当である相手チーム、ガンス族について監督室に資料を並べて読み込んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

処理中です...