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第十五章

試食隊の結成

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「ユイノさん……それ全部、食べる気?」
「うん! やっぱ試合の後ってお腹が空くじゃない?」
「ユイノはウォーミングアップしかしてないでしょ!」
「そういうリーシャだって!」
「二人とも座って話しなさい」
 立ったまま口喧嘩を始めるGKとFWに、ナリンさんが着席を促した。
「色んな視察を兼ねて、明日のオーク代表のセンシャを見に行こうと思っているんだけどさ。メンバーが決まらないんだよね」
 監督って常にメンバー選考に頭を悩ませるんだよなあ、と愚痴っぽく言う。
「センシャ……行くんだ?」
「色んな視察ってなに?」
「オークのコックさんも来るんです。彼女たちの料理の腕前や、食堂で働く上での協調性なども確認する予定です」
 ナリンさんがそう説明すると、ユイノさんがぱぁ、と顔を輝かせて口を開いた。
「オークの多国籍料理! 良いな! 視察したい!」
「うーん。ユイノさん、何を食べても『すっごく美味しい!』しか言わないから参考にならないんだよなあ」
「え、ひどーい!」
 俺、ナリンさん、そしてこの幼馴染みコンビという4人はチームが揃う前から何度も一緒に食事した仲だ。あっと言う間にその時の空気になって気さくに言葉を交わす。
「でも屋台の数が結構あるそうなので、健啖家食いしん坊は必要かもしれませんよ?」
「でしょでしょ?」
 たった一枚の皿に少しの料理を載せただけの小食ナリンさんが助け船を出し、ユイノさんが嬉しそうに賛同した。
「ユイノさんやっぱ料理にしか目……というか口が行かないんじゃ? リーシャさんも何か言ってくださいよ」
 援護ツッコミを求めて俺はリーシャさんに話を向けた。
「センシャ……アタシも行きたい!」
 しかし、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「リーシャさんが……センシャを!?」
「試合の後、まだペイトーンと話してないから」
 そうだった。今日の試合ではリーシャさんはベンチ外――まあそれは逆アジジ作戦の為で今となってはそれがどれくらい効果あったかは疑問だが――だったのでペイトーン選手と話し合う時間や機会が無かったのだ。
「試合に勝ったからもう『リーシャちゃん』とは呼ばせない。そう約束したけど、腑に落ちないんだ。やっぱり直接対決して決めたい。だから会って、無効を告げたい」
 真面目過ぎる所が短所でもあり長所でもあるFWが力強く言った。
「そうか。じゃあリーシャさんとユイノさんで決定しよう」
「やったあ!」
 ユイノさんが歓声を上げてリーシャさんの手を握り上下にブンブンと振る。
「えっ? いいの?」
「その代わりと言ってはなんだけど、次に戦う時は実力でペイトーン選手を圧倒すること。アウェイだけどいけるね?」
「ええ! やるわ!」
 自分でお願いしておいて叶ったら意外そうなリーシャさんだったが、俺の問いに瞳に炎を燃やして言った。
 くぅ~熱いじゃねえか。俺はゴリゴリの文系ゲーマーだけど、こういうスポ魂モノのノリは大好物なんだよな!
「あとユイノさんも! 料理の食べ比べだけじゃなくて、料理人……料理オークの性格も見比べるんだよ?」
「おっけー! 大盛り頼みやすい感じか、夜食とかお願いできるタイプか、ばっちりチェックするね!」
「そこじゃないわよユイノ!」 
「そうよ! あとでコーチ陣が選手を見る時のチェックリストをこっそり教えるからそれを参考にしなさい」
 ユイノさんが分かってない感じの返事をし、リーシャさんが突っ込みナリンさんがフォローを入れた。ちょっと不安だがなんとかなるか。俺たちはこの体制でオークのセンシャを見学する事となった。

 翌日。俺たちは修理の終わったディードリット号に相乗りしリーブススタジアムへ乗り込んだ。二日連続、ホームスタジアムへ通うとは何か変な感じだ。
「あ、監督! ご苦労様です。今日の入り口はあちらです」
 顔馴染みの船着き場管理のエルフ男性がディードを繋留しつつ、センシャ会の入場口を指さす。ちなみに地球のスポーツ選手だとスタジアムの駐車場の何処へ停めるか? でジンクスがあったりするそうだが、俺には特にないのでいつも彼に任せていた。
「いよいよだな! 腹が鳴るな!」
「ほんと! 空きっ腹に船でフラフラの二乗だよ~」
 ゲートに近づくにつれて屋台の料理から漂う匂いが強くなり、ステフとユイノさんが期待と気合いの声を上げた。
「お二人とモウ、食べる順番を考えるのですよ?」
 その光景を朗らかに笑いながらラビンさんが助言する。今日は一応オフという体なので料理服でもユニフォームでもなく私服だ。女性らしい豊かな曲線の体を包む愛らしいピンクのワンピースに麦藁帽子。人妻というかザックコーチの奥さんなのが口惜しい。
「すみません。休みの日に出て頂いているのにその上、引率まで……」
 今日はステフ、ユイノさん、ラビンさんが先に出店を回って料理とコックさんを確認し、俺、ナリンさん、リーシャさんがセンシャをしているペイトーン選手やサンダー監督に挨拶をしてから遅れて合流、という予定になっていた。そして試食先鋒隊のメンツを見るに統率者は……ラビンさん以外にあり得なかった。
「いえいえ私、オークさんの食文化にモウ興味ありましたから!」
 ラビンさんは恐縮する俺にそう笑顔で答える。この気遣いできる性格に料理の腕前、あのプロポーション、そして旦那さんがザックコーチ……という事でチーム内にこの奥様のファンは多い。元選手でもあるので込み入った話もできるしヨガ教室は選手の母親陣――見た目で言えば俺と同世代に見えるのだが――にも好評だ。地球では『寮母さんを他のチームから引き抜く』みたいな事案もあるが、彼女はなんとしても保護しなければならない。
「そう言って貰えると助かります。俺たちもなるべく早く合流しますから!」
 その為にもよいコックさんを雇用してラビンさんの負担を下げないとな! 俺は心のなかで決意を新たにしながらゲートをくぐった。
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