D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

第十四章

このスロアー、めんどくさい

「ありゃりゃ。入ったか」
『えっ、監督！？　見ない間に動いちゃいましたよ！？　はやく帰って！』
　急いで急いで！　とジェスチャーで俺を促すエルフに苦笑しながらも、俺は中へ戻る。見るとコーチ陣が円になって抱き合い、ダリオさんが足を庇いながら飛び跳ね、恐らく得点者であるリストさんを他の選手たちが手荒く祝福している最中であった。
「あーダリオさん動いちゃダメですって」
『ショウキチ監督！　見事に決まりましたよ！』
　言葉の意図は通じなかったのか無視したのか、ダリオさんは駆け寄って抱きつこうとしつつ……身体の前の水筒の山を見て迂回し背後から俺を抱き締めた。
「えっ！？　バックハグやん！？」
『見て下さい！　見事なエレベータードアです！』
　ダリオさんが指さす先には魔法のスクリーンがあり、アローズの見事な得点のリプレイが流されていた。
　ペナルティエリア外、右コーナーに近い位置。キッカーはポリンさん。アウトスイングで入ったボールはGKから逃げるようにファーサイドに流れ、MFに競り勝ったリストさんが上から覆い被さるようなヘディングでゴールネットに突き刺す。描写としたらそんな単純なモノだが、特筆すべきはリストさんの手前の2名だった。
「ほほう、閉店がらがら！」
　俺は感心して呟く。ムルトさんが交代で下がった今、空中戦で最もマークされるべきはリストさんだ。そしてその彼女にはオーク代表で最強のDFであるペイトーン選手がついていた。
　ついていた……のだが。ポリンさんが合図を送りリストさんがファーへ動いた直後、シャマーさんルーナさんが両脇から現れ肩と肩を寄せ合いペイトーン選手の進路を塞いだ。そう、まるでエレベーターのドアの様に。　
　慌ててシャマーさんについていたオークMFがリストさんのマークへ走るが、タイミングが遅れている上に高さでは圧倒的に不利だ。彼女は暴力的な高さと強さで頭を振り下ろす、ポニーテール姿のナイトエルフに屈するしか無かったのだ……。
　なんて実はこれ、サッカーのセットプレーじゃないんだけどね。バスケットボールでシューターをフリーにする為のスクリーンの一種で、シューターが通り過ぎた後、ご丁寧に二人の選手が閉まるエレベーターのドアの様にくっつきマーカーを止めてしまう作戦なのだ。
　で実際の所、サッカーには進路妨害の反則がありあからさまに邪魔してしまう訳にもいかないので、たまたまターゲットの選手が通り過ぎた直後にたまたま二人の選手が味方同士でぶつかってしまってたまたまマーカーの選手が通れなくなった……という形をとっている。たまたまだらけである。
　この辺りの工夫はナリンさんと選手達が実に上手くやってくれた。そしてマーカーが背の低い相手に代わったとは言え、リストさんも良く空中戦に勝ってヘディングを決めてくれた。
「ポリンさんも良いキックでしたね！」
『はい！　ちゅっ』
　首を回して背後のダリオさんへ話しかけた俺は、素早く唇を塞がれて動けなくなった！
「（わっわっわ！　ダリオさんゴールと関係ないやないけ！）」
　目を回す俺の前歯を挑発的に舌でつつくと、しかしダリオさんはそこで唇と身体を離し駆け寄ってきた医療班へ肩を預けた。
『では中で余韻と治療に浸ります。試合終了までにはベンチへ帰ってきますね！』
『姫様？　余韻とは……？』
　何やら言葉を交わすエルフ達を呆然と見送り、俺はふと、コンコースの上に身を乗り出しているエルフの少年――よくいる、紐で色紙やユニフォームをつり下げ通りかかる選手にサインを求める子らだ――と目があった。
『やるじゃん！　むちゅ！　むちゅ！』
「うっせえ！　試合に集中しろ！」
　言葉は分からないがその仕草で意図は分かった。しばしば得点シーンを見逃す自分を棚にあげ、俺はその少年に悪態をついてベンチ前へ戻る。
「ナイスゴール！　みんな水分取ってね！　あ、マイラさん乾杯！」
　俺は寄ってきた選手達へ水筒を配り、マイラさんと水筒をガチン！　と鳴らしてグビグビ一気に飲み干すと、オーク側ベンチを見て笑いながら言った。
「「麦茶だこれ！」」
　俺たちは会心の笑みを浮かべたが、オークもエルフも誰一人笑っていなかった……。そりゃそうだ。

　その後も試合は緊張感を持って続いた。1名退場、2点差、盛り上がるホームの観客……という中にあってもオーク代表の心は折れていない。敵ながら天晴れ！　ってヤツである。
『なにやってんだ！　早く投げろ！』
『でも監督！　これが！』
　だがベンチサイドでロングスローの機会を得て、ペイトーン選手は再び狼狽しその様子にサンダー監督が怒りの声を放った。
『それがなんだってんだ！？』
『手拭いが濡れて……手もボールも拭けないんです！』
『なっ！？』
　ペイトーン選手と怒鳴り合ったサンダー監督は、ふと何かに気づいてこちらを見た。

　水筒の水で顔を洗った後、残りを全部その辺りの手拭いにぶち撒ける俺の姿を。

『てめえ！　よくも……！』
「水も滴る良い男でごめんなソーリー！」
　俺は憎しみを込めて睨みつけるサンダー監督に、下手なウインクを返した。

　そもそもスローインとは人体――と言ったがオーク体でも同様だ――の構造上、非常に投げにくい投擲方法である。ボールを両手で保持し、頭上を通過させ、両足が地面から離れてはいけないものなのだから。
　しかもそのボールも大きく滑りやすく、投げるのには向いていない。たぶん、そんなに投げ易いボールだったり手段をとれたりしたら『フット』ボールじゃないからだろうが。
　ともかく。改めて言うがサッカーボールは投げ難い。まして遠くへ投げようとするなら、しっかりと水分をぬぐいとって滑り難い様にする必要がある。特に十分に水を撒かれて濡れそぼったピッチの上を転がりまくったボールなら。
　なので。ロングスローに際して投げ手は手拭いやユニフォームでしっかりとボールを拭く、というのが大事な手順ルーティーンになるのだが……。