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第十四章
生観戦ならではの楽しみ
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それはそれとして。そういうタイプの作戦なので次からは相手も警戒するし2連続でやって成功する可能性は非常に低い。と言うかはっきり言って違うチーム相手でもしばらくは使えまい。次に使用できるのは良くてシーズン後半、別のチームに……だろうな。
「直接だったら『スーパーヒーロー着地』か『板野サーカス』で、間接かCKだったら『エレベータードア』か『ブーツレッグ』かな……」
俺は先ほどのオーク代表のCK守備を思い出しながら思案を続ける。セットプレーの守備にもゾーンとマンマークの違いがありチームによって使い分けたりするのだが、オーク代表はセットプレーでもゴリゴリのマンマークだった。
「『かーごめ、かーごーめー』はどうでありますか?」
「あーあれはどっちにも使えるので温存したい気がします」
ナリンさんの口から童謡が流れて思わず少し微笑みながら返す。俺はセットプレイの作戦名について意図的に地球にしかない名称を使っていたが、その為しばしばエルフやフェリダエの口から意外な単語が飛び出して一人、ウケていた。
「どーれーにーしーよーうーかーなー。……あれ?」
しかし。自分の世界にしか無いものを利用しようとするのは、何も俺の専売特許ではないことを直後に知る事になる。
「ペイトーン選手がスローイン?」
俺が考え事をしている間にゾーンプレスに遭ったオーク代表のDFがボールを大きく前線に蹴り出し、ポリンさんが難なくクリアしてオーク側スローイン……という場面になっていた。
場所はオーク代表の右サイドでセンターライン付近。普通であればそのサイドのウイングやSB等がスローインを行う地点である。
しかしエルフの少女――抽選に当選しボールパーソンを務めることになっていた幸運なファン――からボールを受け取り、手拭いでしっかりとボールを拭いているのはスイーパー、特定のマークする相手を持たないDFであるペイトーン選手だった。
「え? まさか……」
守備の事を考えたら中央でカバーに備えるスイーパーがスローインを担当するのはセオリーに叶っていない。だが攻撃の事を考えたら……少し話が違っている。
それに何よりもペイトーン選手がオークにあるまじき丁寧さでボールの汚れや水分を拭き取る仕草、スローイン前の助走距離に、俺は見覚えがあった。
「ナリンさんロングスローです! セットプレーと同じ守備で備えるように言って下さい!」
「はい? 分かったであります!」
ナリンさんは俺の言葉を聞いて素早く通訳し叫ぼうとしたが、ペイトーン選手はもう助走に入り、とんでもない勢いのボールをアローズゴール前に投げ入れていた。
『クリアー!』
ボナザさんが叫びムルトさんの裏に抜けたボールをティアさんがクリアする。右のサイドから投げ入れられたボールを逆のサイドのSBが処理するハメになるとは……なんて飛距離だ。
『どうだ! と言いつつ集中!』
ティアさんがそう叫びつつ首を振り周囲を確認し、オークFWと味方の距離感を確認する。
「不意を打たれましたが選手は準備できていたであります! 『デス90』の成果でありますね!」
「ええ。……ええっ!?」
ナリンさんの言う通り相手スローインで気を抜くような選手はアローズにはいない。いないのではあるが、そんな事はお構いなしにオーク代表の巨漢DF達はゆっくりと前線へ上がり、ペイトーン選手が小走り……を装った歩きで今度はこちらサイドへやってくる。
『もう一度ロングスローです! 間接FKに準じるDFを!』
ナリンさんがそう叫び、ニャイアーコーチも隣に立ってボナザさんに声をかけた。慌ててこちらの前線もアローズゴール前に集まる。
「あーくそ、そういう事か」
俺はベンチの柱を握る右手越しにオーク代表側のベンチを見る。サンダー監督は前に出てドヤ顔でこちらを見ていた。
「(喰えない監督だ)」
『フゴ!』
何とか表情に悔しさが出ないように努力する俺の斜め前で、ペイトーン選手が助走を行いロングスローを再び放つ。
「すげえ……」
ユニフォームに隠れて見えない筈だが、俺は彼女の背……の筋肉に間違いなく鬼の顔を見た。そう、ロングスローに必要なのは背筋力なのだ。
『やらせないっす!』
その迫力とは裏腹に、ボールはクエンさんの守るゾーンに飛び込みあっさりとクリアされた。
『そこだつっこめー!』
しかし、である。クリアされたボールはクエンさんというヘディングの強い選手に当たったと言うのにペナルティエリアを脱するほどには飛ばず、アイラさんの前でバウンドする。
『しかたないのだ!』
さらにサンダー監督の号令に合わせるようにオーク代表の選手達がこぼれ球へ殺到する。その内の一名がアイラさんの苦手な右足の前に入り……
『痛いブヒー!』
踵の辺りを蹴られて大げさに飛び上がり倒れた!
『ピピー! ペナルティキック!』
リザートマンの副審さんが旗を振り合図を送り、ドラゴンの主審さんも素早く尻尾でペナルティ・スポットを指す。
「くそ……」
ロングスローそのものは二度も防いだ。しかしアローズはよりにもよってホーム開幕戦で相手チームにPKを与える事になってしまった……。
「直接だったら『スーパーヒーロー着地』か『板野サーカス』で、間接かCKだったら『エレベータードア』か『ブーツレッグ』かな……」
俺は先ほどのオーク代表のCK守備を思い出しながら思案を続ける。セットプレーの守備にもゾーンとマンマークの違いがありチームによって使い分けたりするのだが、オーク代表はセットプレーでもゴリゴリのマンマークだった。
「『かーごめ、かーごーめー』はどうでありますか?」
「あーあれはどっちにも使えるので温存したい気がします」
ナリンさんの口から童謡が流れて思わず少し微笑みながら返す。俺はセットプレイの作戦名について意図的に地球にしかない名称を使っていたが、その為しばしばエルフやフェリダエの口から意外な単語が飛び出して一人、ウケていた。
「どーれーにーしーよーうーかーなー。……あれ?」
しかし。自分の世界にしか無いものを利用しようとするのは、何も俺の専売特許ではないことを直後に知る事になる。
「ペイトーン選手がスローイン?」
俺が考え事をしている間にゾーンプレスに遭ったオーク代表のDFがボールを大きく前線に蹴り出し、ポリンさんが難なくクリアしてオーク側スローイン……という場面になっていた。
場所はオーク代表の右サイドでセンターライン付近。普通であればそのサイドのウイングやSB等がスローインを行う地点である。
しかしエルフの少女――抽選に当選しボールパーソンを務めることになっていた幸運なファン――からボールを受け取り、手拭いでしっかりとボールを拭いているのはスイーパー、特定のマークする相手を持たないDFであるペイトーン選手だった。
「え? まさか……」
守備の事を考えたら中央でカバーに備えるスイーパーがスローインを担当するのはセオリーに叶っていない。だが攻撃の事を考えたら……少し話が違っている。
それに何よりもペイトーン選手がオークにあるまじき丁寧さでボールの汚れや水分を拭き取る仕草、スローイン前の助走距離に、俺は見覚えがあった。
「ナリンさんロングスローです! セットプレーと同じ守備で備えるように言って下さい!」
「はい? 分かったであります!」
ナリンさんは俺の言葉を聞いて素早く通訳し叫ぼうとしたが、ペイトーン選手はもう助走に入り、とんでもない勢いのボールをアローズゴール前に投げ入れていた。
『クリアー!』
ボナザさんが叫びムルトさんの裏に抜けたボールをティアさんがクリアする。右のサイドから投げ入れられたボールを逆のサイドのSBが処理するハメになるとは……なんて飛距離だ。
『どうだ! と言いつつ集中!』
ティアさんがそう叫びつつ首を振り周囲を確認し、オークFWと味方の距離感を確認する。
「不意を打たれましたが選手は準備できていたであります! 『デス90』の成果でありますね!」
「ええ。……ええっ!?」
ナリンさんの言う通り相手スローインで気を抜くような選手はアローズにはいない。いないのではあるが、そんな事はお構いなしにオーク代表の巨漢DF達はゆっくりと前線へ上がり、ペイトーン選手が小走り……を装った歩きで今度はこちらサイドへやってくる。
『もう一度ロングスローです! 間接FKに準じるDFを!』
ナリンさんがそう叫び、ニャイアーコーチも隣に立ってボナザさんに声をかけた。慌ててこちらの前線もアローズゴール前に集まる。
「あーくそ、そういう事か」
俺はベンチの柱を握る右手越しにオーク代表側のベンチを見る。サンダー監督は前に出てドヤ顔でこちらを見ていた。
「(喰えない監督だ)」
『フゴ!』
何とか表情に悔しさが出ないように努力する俺の斜め前で、ペイトーン選手が助走を行いロングスローを再び放つ。
「すげえ……」
ユニフォームに隠れて見えない筈だが、俺は彼女の背……の筋肉に間違いなく鬼の顔を見た。そう、ロングスローに必要なのは背筋力なのだ。
『やらせないっす!』
その迫力とは裏腹に、ボールはクエンさんの守るゾーンに飛び込みあっさりとクリアされた。
『そこだつっこめー!』
しかし、である。クリアされたボールはクエンさんというヘディングの強い選手に当たったと言うのにペナルティエリアを脱するほどには飛ばず、アイラさんの前でバウンドする。
『しかたないのだ!』
さらにサンダー監督の号令に合わせるようにオーク代表の選手達がこぼれ球へ殺到する。その内の一名がアイラさんの苦手な右足の前に入り……
『痛いブヒー!』
踵の辺りを蹴られて大げさに飛び上がり倒れた!
『ピピー! ペナルティキック!』
リザートマンの副審さんが旗を振り合図を送り、ドラゴンの主審さんも素早く尻尾でペナルティ・スポットを指す。
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