233 / 652
第十三章
実食の前は物色
しおりを挟む
ピッチ内外の準備は順調に進み、いよいよ試合前日。俺たちはプレシーズンマッチと同じくスタジアムでの公開練習を行っていた。
ただあの時と違うのは場所がアローズの本拠地、リーブススタジアムであること。そしてビジターより先にホームチームであるアローズが練習を行っていることだ。
「リーシャ、ナイスシュート!」
練習のミニゲームでリーシャさんが見事なドリブルからゴールを決め、ナリンさんが大きな声で賞賛を送り記者たちが一斉にメモを走らせる。
「ナリンさんうめえ……」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。そう、今のナリンさんの声援はもちろん演技である。明日リーシャさんは出場しない。逆アジジ作戦――試合に出ると思わせて相手に対策を準備させた挙げ句、欠場する作戦――を決行するからだ。その為には殊更にリーシャさんの好調をアピールしておかねばならない。
「新戦力のナイトエルフも破壊力抜群だったが、やはり若手ホープのブレイクが一番だな……」
記者席でエルフのベテラン記者さんがそう仲間に漏らすのが聞こえた。たぶん、紛うこと無き本音だろう。リストさんやレイさんは本当に凄い選手だが旧態依然としたメディアからしたら理解不可能なプレイをするし、未知のナイトエルフでもある。それに比べリーシャさんは若い頃から見られ才能の開花を嘱望されていた期待の選手であるし、地元育ちのデイエルフだ。どうしても贔屓が働いてしまうのだろう。
ま、それも込みでの逆アジジ作戦なんですけどね!
「いやあ、あそこまでされると俺の話す事がなくなっちゃうなー」
俺がそう言いながら記者さん達の後ろを通ると、彼ら彼女らから小さな笑いが起きた。むろん、みなさんと俺とでは言葉の解釈が違う。記者さんたちはリーシャさんの仕上がりについてだと思っているのだろうが、俺は彼女とナリンさんの演技についてである。
「監督、どちらへ?」
「もう練習終わりますから、あっちでさっさと囲みの取材始めちゃいましょうかー?」
作戦は順調だがもし本当に怪我でもしたら台無しだ。俺は練習を予定より早く切り上げ、練習後の会見が用意されているコンコースの方へメディアを誘った。
まさかその事であんな居心地の悪い目に遭うとは、その時は思いもしなかったのだが……。
「お、オーク代表のお出ましだぜ……」
取材を無難にこなしている最中、後方の記者がぼそっと呟きアウェイチーム側の廊下を歩いてくる一団を指さした。
そこにいたのは豚の頭部を持ち、堅太りの身体をトレーニングウェアにむりやり詰め込んだオーク女子代表の皆さんであった。
「ブヒ……邪魔だ、どきな」
静かに凄まれて小人族のライターが慌てて道を空ける。ミノタウロス代表女子チームやトロール代表女子チームで見慣れていたつもりではあるが、オークのセレソン――ポルトガル語で代表のことだ。本来はブラジル代表を示していたが、要は「選抜」って意味なので別の国でも言えなくはない。と言うかこういう呼び方するとちょっと通っぽいのでチャンスがあったら使ってみよう!――もなかなかの面構えだ。
突き出した犬歯、傷跡の残る瞼、潰れた耳……。もうべっぴんさんと言うかべっピッグ(豚)さんだ。
べっピッグさん、べっピッグさん、ひとつ飛ばしてべっピッグ(豚)さん……。たまに顔立ちが違うオークさんがいるのは、多種族との混血だからだろう。大半が純血種以外を下に見るミノタウロスと違い、オークはあまり細かい事を気にしないらしい。おらが種族の血が少しでも入っていたらオークとみなし、自分たちにあまりない素質を持った種族との混血も有用であれば大いに歓迎する……とのこと。
だからこそ俺の子種も賭の賞品になったのだろう。サッカーとか地球の知識までは子供に遺伝する訳ないが、オークにはいないタイプの知者として。
自分で言うのも恥ずかしいけどね。
「そっちじゃないブヒ」
そんな事を考えている間に、オーク代表の為に道を空けた小人族さんを軽く押しのけ先頭のオークさんは俺のすぐ前まで歩いてきた。
「ブヒヒ……。こいつか」
男女の差はあるが、そこには俺がエッチな漫画で見た竿役オークさんと同じ表情があった。
「う……うぃっす」
俺は後ろに回した手で自分の足を抓り震えを隠しながら、挨拶した。
「ブヒ……タマはあるようだね。気に入った」
彼女はそれだけ言うと俺の前から立ち去った。
「ほう……」
「ぶうぶう」
「もつのかね……ブヒ」
その後も次から次へとべっピッグさん達がただ俺を至近距離で眺めて去っていく。別に何をされた訳でもない。だが単に虫に刺されるよりも今にも針を刺そうと振り上げられている時の方が怖いケースもある。
それがまさしくこれであった。
「えと、その……あれ?」
だがその恐怖の中で俺にある疑問が浮かび上がった。
「(あの、何で俺が「選手たちに」物色されているんです? もし負けた時に俺の子種を奪ってくのって……専門家とかじゃないんですか?)」
専門家て何のだよ! と自分にツッコミつつ、俺は付近の記者さんに小声で訪ねた。
「(オークにはそんな気の利いた存在はいない。彼女らのポリシーは「闘って奪え」だ。報酬を手にするのはもちろん闘った当事者、つまり選手だな)」
応えてくれた記者さんの「オークには」の「は」の部分が非常に気になるが翻訳アミュレットの加減かもしれないし単純にそれどころではないので詳しく聞き返すことはできなかった。
ただあの時と違うのは場所がアローズの本拠地、リーブススタジアムであること。そしてビジターより先にホームチームであるアローズが練習を行っていることだ。
「リーシャ、ナイスシュート!」
練習のミニゲームでリーシャさんが見事なドリブルからゴールを決め、ナリンさんが大きな声で賞賛を送り記者たちが一斉にメモを走らせる。
「ナリンさんうめえ……」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。そう、今のナリンさんの声援はもちろん演技である。明日リーシャさんは出場しない。逆アジジ作戦――試合に出ると思わせて相手に対策を準備させた挙げ句、欠場する作戦――を決行するからだ。その為には殊更にリーシャさんの好調をアピールしておかねばならない。
「新戦力のナイトエルフも破壊力抜群だったが、やはり若手ホープのブレイクが一番だな……」
記者席でエルフのベテラン記者さんがそう仲間に漏らすのが聞こえた。たぶん、紛うこと無き本音だろう。リストさんやレイさんは本当に凄い選手だが旧態依然としたメディアからしたら理解不可能なプレイをするし、未知のナイトエルフでもある。それに比べリーシャさんは若い頃から見られ才能の開花を嘱望されていた期待の選手であるし、地元育ちのデイエルフだ。どうしても贔屓が働いてしまうのだろう。
ま、それも込みでの逆アジジ作戦なんですけどね!
「いやあ、あそこまでされると俺の話す事がなくなっちゃうなー」
俺がそう言いながら記者さん達の後ろを通ると、彼ら彼女らから小さな笑いが起きた。むろん、みなさんと俺とでは言葉の解釈が違う。記者さんたちはリーシャさんの仕上がりについてだと思っているのだろうが、俺は彼女とナリンさんの演技についてである。
「監督、どちらへ?」
「もう練習終わりますから、あっちでさっさと囲みの取材始めちゃいましょうかー?」
作戦は順調だがもし本当に怪我でもしたら台無しだ。俺は練習を予定より早く切り上げ、練習後の会見が用意されているコンコースの方へメディアを誘った。
まさかその事であんな居心地の悪い目に遭うとは、その時は思いもしなかったのだが……。
「お、オーク代表のお出ましだぜ……」
取材を無難にこなしている最中、後方の記者がぼそっと呟きアウェイチーム側の廊下を歩いてくる一団を指さした。
そこにいたのは豚の頭部を持ち、堅太りの身体をトレーニングウェアにむりやり詰め込んだオーク女子代表の皆さんであった。
「ブヒ……邪魔だ、どきな」
静かに凄まれて小人族のライターが慌てて道を空ける。ミノタウロス代表女子チームやトロール代表女子チームで見慣れていたつもりではあるが、オークのセレソン――ポルトガル語で代表のことだ。本来はブラジル代表を示していたが、要は「選抜」って意味なので別の国でも言えなくはない。と言うかこういう呼び方するとちょっと通っぽいのでチャンスがあったら使ってみよう!――もなかなかの面構えだ。
突き出した犬歯、傷跡の残る瞼、潰れた耳……。もうべっぴんさんと言うかべっピッグ(豚)さんだ。
べっピッグさん、べっピッグさん、ひとつ飛ばしてべっピッグ(豚)さん……。たまに顔立ちが違うオークさんがいるのは、多種族との混血だからだろう。大半が純血種以外を下に見るミノタウロスと違い、オークはあまり細かい事を気にしないらしい。おらが種族の血が少しでも入っていたらオークとみなし、自分たちにあまりない素質を持った種族との混血も有用であれば大いに歓迎する……とのこと。
だからこそ俺の子種も賭の賞品になったのだろう。サッカーとか地球の知識までは子供に遺伝する訳ないが、オークにはいないタイプの知者として。
自分で言うのも恥ずかしいけどね。
「そっちじゃないブヒ」
そんな事を考えている間に、オーク代表の為に道を空けた小人族さんを軽く押しのけ先頭のオークさんは俺のすぐ前まで歩いてきた。
「ブヒヒ……。こいつか」
男女の差はあるが、そこには俺がエッチな漫画で見た竿役オークさんと同じ表情があった。
「う……うぃっす」
俺は後ろに回した手で自分の足を抓り震えを隠しながら、挨拶した。
「ブヒ……タマはあるようだね。気に入った」
彼女はそれだけ言うと俺の前から立ち去った。
「ほう……」
「ぶうぶう」
「もつのかね……ブヒ」
その後も次から次へとべっピッグさん達がただ俺を至近距離で眺めて去っていく。別に何をされた訳でもない。だが単に虫に刺されるよりも今にも針を刺そうと振り上げられている時の方が怖いケースもある。
それがまさしくこれであった。
「えと、その……あれ?」
だがその恐怖の中で俺にある疑問が浮かび上がった。
「(あの、何で俺が「選手たちに」物色されているんです? もし負けた時に俺の子種を奪ってくのって……専門家とかじゃないんですか?)」
専門家て何のだよ! と自分にツッコミつつ、俺は付近の記者さんに小声で訪ねた。
「(オークにはそんな気の利いた存在はいない。彼女らのポリシーは「闘って奪え」だ。報酬を手にするのはもちろん闘った当事者、つまり選手だな)」
応えてくれた記者さんの「オークには」の「は」の部分が非常に気になるが翻訳アミュレットの加減かもしれないし単純にそれどころではないので詳しく聞き返すことはできなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
性癖の館
正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる