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第十三章
顔キラーパス
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ここで素顔を晒して
「あ! アローズの監督じゃないか!」
「凄い! 現場にきて話を聞いてくれるんだ!」
「流石ですわ監督さま!」
となれば良い。さすかんである。しかし顔を見てもあまりピンと来ず、
「はあ……お前、誰?」
みたいな空気になったらどうしよう!? 世の中、サッカードウに興味がある種族ばかりでもないし今の俺は鼻がまだ赤い。気付かれない可能性は十分にある。
「ええいままよ!」
そんな言葉リアルでは言った事がないが演出効果も考えて口にしつつ、俺は仮面を一気にはぎ取った。
「う……うん?」
「で、どなた?」
「あ、どうも。アローズの監督のショーキチです……」
はい、変な空気になりましたー! そして耐えきれず秒で名乗りましたー! なんかこれ、ギャグが受けなくて焦って説明して余計に滑った感じだ。
「あーっ!」
しかし、救いの声のようなモノが野次馬の中からすぐにあがった。
「アレ、あれ!」
「あ、はい、そうです」
「謎の仮面美女コーチがつけてたのと全く同じヤツ!」
えっ、そっち!?
「じゃあ本物の監督なのか?」
「いや、単に仮面美女コーチの痛いファンで同じのを買っただけかもしれん」
んな訳あるか! 確かに「同じの」ではあるがナリンさんが使用して持ち帰ったモノを微調整して使い回しているだけで、売ってはいない!
……いや? 同タイプをグッズとして販売するのはアリなのか?
「むう。たしかにこれはどわーふのてによるいってんもの……」
ノームの親方さんも俺の手にある仮面をしげしげと眺めつつ呟く。ノームとドワーフは種族としてかなり近しいものがあり、創造物を見て感じるものがあったのだろう。
「え!? じゃあ君、あの可愛いエルフと知り合い!?」
巨人の少女はかなり驚いた様子で言った。
「あーはい。知り合いと言うか、監督とコーチで雇用主と通訳の関係ですが」
「「おおーっ!」」
周囲から一斉に感嘆の声が挙がる。ナリンさん人気は本当に高い様だ。まあほら、監督より通訳さんが人気ってトルシエ監督とダバディさんとかでもあったし、ナリンさんは実際に美人だし、エルフにとっては身内だし、全然ふつうだよね。
……すみません、俺、ちょっと運河に小石を投げ入れながら泣いて良いっすか?
「ではほんとうにあなたがかんとくでこうじのはっちゅうぬしなのか?」
「はいすみません!」
このすみませんは、こんな地味な人間が監督ですみません、ではなくて納期の事だからね!
「あーこほん、これはしつれいしました。じぶんとしましてはよいしごとをしようとしてついむちゅうに……」
「いえ、それは問いません。さっきも言ったように、俺にも巨人さんたちにも同じ程度、非がありますので。ただ今後は全体的な行程の見直しや予算人員の増量も考えますので、どうか彼女たちを罰さず事故無く行って下さい」
「はいそれはもちろんのこと……」
まだ長広舌をふるおうとするノームの親方を手で制し、俺は仮面を被り直した。その光景を見て諸々終わったと察するものがあったのだろう、野次馬たちも少しづつ解散を始め、巨人たちも道具を取り現場へ戻ろうとする。
「ではまた」
ここでは監督ということにそれほどバリューは無いようだ。誰もそれ以上、こちらへ話しかけてこようとはしない。鼻の保護具が悲しみの表情を隠してくれる事に感謝しながら俺は現場を足早に去る。
「あー! ちょっと待って!」
そんな寂しい背中に大きな声がかかった。
「ねえ君、本当に監督やってんの?」
例の巨人の女の子だ。流石のサイズ差、一瞬で追いつきすぐ側で屈んで問うて来る。
「はい。あまりそれっぽくないですよね……」
「羨ましい! アローズって可愛い子が多くて良いよね!」
僻みっぽい俺の声を吹き飛ばすような笑みが眩しい。
「良い子が多いです。良い事ばかりでもありませんが」
「そうなの?」
「例えば宝石店で働いていても、そこの美しい宝石を自分で自由に身につけられる訳でもないでしょ? むしろ綺麗に保つ為に気を使って疲れる事も多いです」
自分でも人間が小さいと思うがシニカルに告げる。
「ふうん。じゃあさ、あの子たちがあんなに輝いて見えるって事は、君がそうしてるおかげなんだ! もっと胸を張りなよ!」
やばい身体のサイズだけじゃなくて心のサイズでも大きく負けてる。
「ありがとうございます。励ますの上手ですね」
「そうかな? ありがと!」
巨人の少女は俺の言葉を受けると指でポーズを決めつつ笑顔を見せた。良く言えば謙虚だが内省的過ぎるデイエルフやエキセントリックなドーンエルフとナイトエルフに囲まれていると、こういうノリは非常に珍しく感じる。
「さっき、親方を投げてる時のギャラリーへの煽りも上手かったですし。何かやってらしたんですか?」
「何かって?」
「何か……音楽の仕事とか」
俺がそう訪ねると彼女はまさか、といった感じで手を振った。やばい、それだけで風圧を感じる。
「ないない! あ、でもね。僕の母さんは普通のファイヤー・ジャイアントだけど、父さんはストーム・ジャイアントなんだ」
「あ! アローズの監督じゃないか!」
「凄い! 現場にきて話を聞いてくれるんだ!」
「流石ですわ監督さま!」
となれば良い。さすかんである。しかし顔を見てもあまりピンと来ず、
「はあ……お前、誰?」
みたいな空気になったらどうしよう!? 世の中、サッカードウに興味がある種族ばかりでもないし今の俺は鼻がまだ赤い。気付かれない可能性は十分にある。
「ええいままよ!」
そんな言葉リアルでは言った事がないが演出効果も考えて口にしつつ、俺は仮面を一気にはぎ取った。
「う……うん?」
「で、どなた?」
「あ、どうも。アローズの監督のショーキチです……」
はい、変な空気になりましたー! そして耐えきれず秒で名乗りましたー! なんかこれ、ギャグが受けなくて焦って説明して余計に滑った感じだ。
「あーっ!」
しかし、救いの声のようなモノが野次馬の中からすぐにあがった。
「アレ、あれ!」
「あ、はい、そうです」
「謎の仮面美女コーチがつけてたのと全く同じヤツ!」
えっ、そっち!?
「じゃあ本物の監督なのか?」
「いや、単に仮面美女コーチの痛いファンで同じのを買っただけかもしれん」
んな訳あるか! 確かに「同じの」ではあるがナリンさんが使用して持ち帰ったモノを微調整して使い回しているだけで、売ってはいない!
……いや? 同タイプをグッズとして販売するのはアリなのか?
「むう。たしかにこれはどわーふのてによるいってんもの……」
ノームの親方さんも俺の手にある仮面をしげしげと眺めつつ呟く。ノームとドワーフは種族としてかなり近しいものがあり、創造物を見て感じるものがあったのだろう。
「え!? じゃあ君、あの可愛いエルフと知り合い!?」
巨人の少女はかなり驚いた様子で言った。
「あーはい。知り合いと言うか、監督とコーチで雇用主と通訳の関係ですが」
「「おおーっ!」」
周囲から一斉に感嘆の声が挙がる。ナリンさん人気は本当に高い様だ。まあほら、監督より通訳さんが人気ってトルシエ監督とダバディさんとかでもあったし、ナリンさんは実際に美人だし、エルフにとっては身内だし、全然ふつうだよね。
……すみません、俺、ちょっと運河に小石を投げ入れながら泣いて良いっすか?
「ではほんとうにあなたがかんとくでこうじのはっちゅうぬしなのか?」
「はいすみません!」
このすみませんは、こんな地味な人間が監督ですみません、ではなくて納期の事だからね!
「あーこほん、これはしつれいしました。じぶんとしましてはよいしごとをしようとしてついむちゅうに……」
「いえ、それは問いません。さっきも言ったように、俺にも巨人さんたちにも同じ程度、非がありますので。ただ今後は全体的な行程の見直しや予算人員の増量も考えますので、どうか彼女たちを罰さず事故無く行って下さい」
「はいそれはもちろんのこと……」
まだ長広舌をふるおうとするノームの親方を手で制し、俺は仮面を被り直した。その光景を見て諸々終わったと察するものがあったのだろう、野次馬たちも少しづつ解散を始め、巨人たちも道具を取り現場へ戻ろうとする。
「ではまた」
ここでは監督ということにそれほどバリューは無いようだ。誰もそれ以上、こちらへ話しかけてこようとはしない。鼻の保護具が悲しみの表情を隠してくれる事に感謝しながら俺は現場を足早に去る。
「あー! ちょっと待って!」
そんな寂しい背中に大きな声がかかった。
「ねえ君、本当に監督やってんの?」
例の巨人の女の子だ。流石のサイズ差、一瞬で追いつきすぐ側で屈んで問うて来る。
「はい。あまりそれっぽくないですよね……」
「羨ましい! アローズって可愛い子が多くて良いよね!」
僻みっぽい俺の声を吹き飛ばすような笑みが眩しい。
「良い子が多いです。良い事ばかりでもありませんが」
「そうなの?」
「例えば宝石店で働いていても、そこの美しい宝石を自分で自由に身につけられる訳でもないでしょ? むしろ綺麗に保つ為に気を使って疲れる事も多いです」
自分でも人間が小さいと思うがシニカルに告げる。
「ふうん。じゃあさ、あの子たちがあんなに輝いて見えるって事は、君がそうしてるおかげなんだ! もっと胸を張りなよ!」
やばい身体のサイズだけじゃなくて心のサイズでも大きく負けてる。
「ありがとうございます。励ますの上手ですね」
「そうかな? ありがと!」
巨人の少女は俺の言葉を受けると指でポーズを決めつつ笑顔を見せた。良く言えば謙虚だが内省的過ぎるデイエルフやエキセントリックなドーンエルフとナイトエルフに囲まれていると、こういうノリは非常に珍しく感じる。
「さっき、親方を投げてる時のギャラリーへの煽りも上手かったですし。何かやってらしたんですか?」
「何かって?」
「何か……音楽の仕事とか」
俺がそう訪ねると彼女はまさか、といった感じで手を振った。やばい、それだけで風圧を感じる。
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