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第十三章

レース開始!

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 俺、ユウゾさんヤカマさん、比較的疲労度の少ない選手が食料を配り、昼ご飯と休憩が終わる頃には殆どのエルフが復活していた。流石はトップアスリートだ。
「じゃあ午後のルールを紹介します!」
 俺は砂浜の岩に登って、皆を見下ろしながら説明を始めた。
「レースは2周! この島を出発してぐるっと回って、今朝出た港のブイを回り込んでここへ戻って来る。魔法の使用や他の船への攻撃は禁止! まあ俺は一人で小型ヨットなので魔法のオール使うけどね」
 そう言うと選手達から一斉にブーイング不満の声が出る。
「当然だろ! こっちはみんなと違って一人なんだし! あ、みんなと言えば、ユウゾさんとヤカマさんはレースでは口出ししないので船長や操舵手を相談して決めるように」
 普段であれば自然とダリオさんやシャマーさんになってしまうケースだが、場所は水の上だ。違った選手が選ばれれば良いな。
 俺は説明が行き渡った事を確認すると、さっさとディードリット号へ向かった。俺は俺で戦略があるのだ。
「スタートは30分後で! ユウゾさんとヤカマさんの合図でね!」

 伝えていた時間の5分前には、2杯のヨットともスタート地点付近に近寄ってきた。その付近にはまた別のボートが2艘おり、レースの審判を行うユウゾさんとヤカマさんがそれぞれに乗船している。
「船長はどうなったー?」
 大きな船に近寄り過ぎるとこっちが危ない。俺は少し離れた場所から、手でメガホンを作って訊ねる。
「こっちは私で、あっちがリーシャだー!」
 ティアさんが大きな声で答えた。ほう、意外だな。
「リーシャはスピード狂だし、私は船長で楽がしたいからな!」
 うん、聞いてみれば意外でも何でもなかった。あとそれを皆に聞こえる状態で大声で言えるティアさんも実に彼女らしい。
「スタートまであと3分だ!」
 ユウゾさんが叫んだ。
「じゃあ、がんばろうね」
「お? おう」
 俺はティアさんにそう告げると、船首を別の方向へ向けた。
「午前に言った通り、スタートラインは俺たちの間に引かれた架空の線上だ。スタート前にこの線を越えるとフライングで失格だから注意して調整するように!」
 ヤカマさんがユウゾさんの方を指差しながら説明する。両者の間は軽く数十mあり、3杯のヨットが同時に通過しても危険が無いようになっている。
 とは言え船とは錨を降ろしても完全に停止するのが難しい乗り物であり、角度や速度を上手く調整しながらスタートライン手前で待機する必要がある。この辺りがヤカマさんの言うところの「注意して調整」の部分である。
 そして付け入る隙でもあった。
「あと1分だ!」
 ユウゾさんが叫んで旗を手に取った。頭の中の60秒針が回り出す。そろそろかな? 俺は選手達のヨット――それぞれ便宜上、船長の名を取ってリーシャ号とティア号としよう――の後方でタイミングを見計らい、帆とオールを調整すると一気に加速を始めた。
「あと30秒!」
 選手の間に緊張が走っているのを感じる。誰も俺のやろうとしている事に気付いてないようだ……と思ったが違った。
「あれ? リーシャ船長! ショーキチ兄さんがなんかもう走ってるで!」 
 リーシャ号の上に張られたネットにしがみついているレイさんが叫んだ。くそ、やはり彼女は視野が広いな。
「えっ!? 何!?」
「なんだって!? ちくしょう、そういう事か! お前ら! 私たちも出すぞ!」
 レイさんの警告を受けたリーシャさんは分かってないようだが、その騒ぎを耳にしたティアさんが慌てて指示を出す。だがもう遅い。
「3、2、1……スタート!」
 ユウゾさんがそう叫んで旗を振り下ろし、その一瞬後に俺のディード――ディードリット号の愛称だ――がユウゾさんとヤカマさんの間を通り抜けた。
「ふふふ。これぞ競艇式スタート法!」
 後方から余裕を持って加速し、最高速に達した状態でスタートラインを通過する。レースはレースでも公営ギャンブルのボートレースで見る手段で、尼崎、住之江、大津と名だたるボートレース場が存在する関西人には何となくTVCMで見覚えがあるヤツだ。正式な名前は知らんけど。
「卑怯ものー!」
「卑怯もお経もありませんよーだ。とんちの勝利ですー。なむさんだ~」 
 罵り声をあげるリーシャさんに向かって一休さんで聞いた適当なお経を返し、俺のヨットはサンダーのように湖面を駆け続けた。
「良い距離空けたぞ!」
 彼女たちは何となく「スタート」の声を聞いてから錨を上げ帆を張り船首を返し……みたいな事を想定していたようだが、それはそっちの勝手な思い込みだ。聞かれれば、俺もユウゾさんもヤカマさんも教えていただろう。仕事でもサッカードウでも、確認不足は良くないね。
「待ちやがれー!」
 2番目にラインを越えたのはティア号、最後がリーシャ号だった。あのミノタウロス戦で俺と同じ様な事をしたティアさん――ラグビーやアメフトのキックの様に、蹴り出す前からレシーバーがダッシュをするセットプレー――はリーシャさんより先に俺の意図に気付いたのだろう。だからリーシャ号に先んじたのだ。
 ま、俺との距離と比べれば少しの差でしかないけどね。そこから暫く、先頭を行く俺は何の障害も無く悠々と船を進めた。これがもし2番手3番手となると違っていただろう。先行する船が引き起こした波や気流を考慮に入れないといけないし、船体の大きさから受ける影響も大きい。
「だからこそあんな手を使ってでもトップに立ちたかったんだよね~。言い訳して良いわけ?」
 罪悪感を紛らわせる為にそんな事を口にしている間にディードは折り返し地点まで来た。俺はブイを丁寧に回り込んでから帆の角度を変更し、真正面の角度からティア号とリーシャ号の様子を見た。
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