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第十三章
フレッシュとフィッシング
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地球にいた頃はそこまで嗜んでいなかったが、やってみると釣りとはなかなか楽しい趣味だった。アクティブでいながらリラックスもできる、アウトドアでありながらどこかに籠もって瞑想をしているようでもある、そんな二面性のある部分がとても魅力的だ。
俺はまあまあ離れたポイントに――お魚さんは敏感なので喧しいと逃げちゃうからね――ボートを停泊させ餌を準備し、釣り糸を垂れた。これでよし、と。
そうして「待ち」の体勢に入ってから、振り返ってヨットの方を見た。
「うーん、カオス……」
ヨットの上はなかなか混乱の様子だった。午前の課題は清掃、荷物の積み込み、船の安全点検、帆を張り出航、湖を縦断、湖北にある無人島沖に停泊……といった所だ。エルフのお嬢さんたちはその最初の二つ、清掃と積み込みから苦戦の連続っぽかった。
「足下! 足下危ないって!」
「重いのだ……!」
濡れた上にゆらゆら揺れる甲板、重い荷物……。普段と全く違う種類の運動にトップクラスのアスリートである筈の彼女たちも苦戦していた。まあ使う筋肉が違うし、平衡感覚も要求されるしね。
「ちょっと! それ、そっちじゃないって」
「えーっ! 先に言ってよ~。何だよこの荷物!」
混乱の中で誤配が起こり、指示者と作業者の間で衝突も起こる。慣れない場の慣れない作業では役割分担とコミュニケーションが非常に大事になる。それを素早く行い一体感を築き上げるのがこのオリエンテーションの目的で、修学旅行や企業研修でしばしばヨットが選ばれる理由だったりもする。
ちなみにだが荷物の中身は昼休みにみんなで喰う食料だ。大事に扱って欲しい。
「お昼ご飯、遅くなりそうだなあ。あ、引いてる!」
2杯のヨットの先行きを心配している間に、竿に当たりが来た。彼女たちには悪いが俺は自分の昼飯だけでも確保しておくことにした。
「だぁーれもいない湖~。二人の愛を確かめたくて~」
太陽が真上を少し越えた頃。俺は無人島の湖岸で替え歌を歌いながら、3匹の魚を焼いていた。
「おい! 何を一人で喰ってんだよ!」
その声に振り返ると、そこには膝に手を当て大きく肩で息をしているティアさんの姿があった。
「ああ、ティアさんお疲れ。ちょっとお昼をね。みんな着いたんだ?」
返事しつつ彼女の背後に目をやる。うん、死屍累々と言った感じか。なんとか無人島に着いた皆はヨットから這うようにして島へ降り、慎みや外面を忘れて倒れ込んでいた。
砂浜にぐったりと寝そべる水着の美女たち……と表現すれば聞こえは良いが、実際はライフジャケットで着膨れ汗とタールで汚れ、とても艶やかなシーンとは言えなかった。
「くそ……余裕みせやがって……」
ティアさんはそう言いながら俺の方へ一歩踏み出したが、砂で足を滑らせて仰向けに倒れ込んだ。
「ティアさんーん? 食べたら元気出ますか?」
俺は枝を刺して焚き火前で焼いていた魚を一本手に取り、ティアさんの顔の上で振った。すると彼女は寝転がったまま腕を伸ばしてそれを俺から奪うと、ガツガツと食べ始める。獣か。
「あーええなあ! ショーキチ兄さん、ウチにもくれへん?」」
そんな声と共に現れたのはレイさんだ。声も立ち姿もまだまだ元気一杯で救命胴着の前を大きく開き、競泳水着に包まれたみずみずしい肉体を惜しげもなく曝け出している。
ん? 彼女も競泳水着?
「レ、レイさんはそんなに疲れてないんですね……」
さすが人間にしたら17歳くらいの少女。若いって素晴らしい。俺は彼女から目を逸らして別の魚に手を伸ばした。
「ウチは身軽やし、上で見張ったり声かけたりする仕事やったから、そんなに負荷無かったしな。でもお腹すいたで! あっ、ありがとう!」
若者なら喰うだろう。俺は気前よく残った二匹とも彼女に渡した。それから次の魚を枝に刺してまた焼き出す。時間は貰えたし大漁だったので、在庫はまだまだある。
「あん! 食べさしこぼしてしもた! ショーキチにいさん、とって?」
「へっ!?」
振り返るとレイさんが胸を突き出し、こちらへ訴えかけるような視線を投げかけていた。その視線を追うと、確かに齧った跡がついた魚の頭部が彼女の胸の谷間に挟まっている。
競泳水着でなぜ谷間が見える!? と疑問に思ったが彼女が着ているのはアレであった。胸元が紐で開け閉めできるヤツ。つまりレイさんは船から下りて救命胴着の前を外し、更に水着の紐を緩めた上で俺の元へ来た訳だな。
「いったいここはどこなんだ……?」
と、その魚の目は訴えかけているようであった。レイさんの碧く湿った肌、弾力に満ちた脂肪の感触は恐らく彼――雄であるのは確認済み――には未体験のものであったろう。ちなみに「うおのめ」の方は足の皮膚の一部が固まってしまう負傷で、サッカー選手にとっても大きな問題となる。予防と治療が肝心だ。予防については足に合わない靴の使用を避け、適切なソールを入れ、練習後にはマッサージなど……。
「なあはよ! 奥にはいっちゃうでえ」
宇宙猫の様な表情で長考に入っていた俺を急かしてレイさんが言った。大ピンチだ。助けてくれるエルフも、ほぼ皆が疲労で倒れていて期待できない。
「はいはい。じゃあ」
しかし無駄に長時間、脳味噌を回転させてた訳ではなかった。俺は両手を伸ばし……
「これで自分で取れるでしょ?」
レイさんの方の両手の魚を一時、受け取った。
「はい。持っててあげるから。手が空いたね良かったね」
俺がそう言うと彼女の顔が驚きから無念へと目まぐるしく変わった。
「この後、正式な昼食だから食べ過ぎないようにね」
俺はそう言いつつ背を向け、次の料理の焼き加減を見る。
「むう。悔しいくらいに頭まわるなあ」
「何か言った?」
「別に! 片方、ポリンにあげてくる!」
レイさんはそう言うと俺から食料を取り戻し去って行った。ふう、危なかったぜ……。
俺はまあまあ離れたポイントに――お魚さんは敏感なので喧しいと逃げちゃうからね――ボートを停泊させ餌を準備し、釣り糸を垂れた。これでよし、と。
そうして「待ち」の体勢に入ってから、振り返ってヨットの方を見た。
「うーん、カオス……」
ヨットの上はなかなか混乱の様子だった。午前の課題は清掃、荷物の積み込み、船の安全点検、帆を張り出航、湖を縦断、湖北にある無人島沖に停泊……といった所だ。エルフのお嬢さんたちはその最初の二つ、清掃と積み込みから苦戦の連続っぽかった。
「足下! 足下危ないって!」
「重いのだ……!」
濡れた上にゆらゆら揺れる甲板、重い荷物……。普段と全く違う種類の運動にトップクラスのアスリートである筈の彼女たちも苦戦していた。まあ使う筋肉が違うし、平衡感覚も要求されるしね。
「ちょっと! それ、そっちじゃないって」
「えーっ! 先に言ってよ~。何だよこの荷物!」
混乱の中で誤配が起こり、指示者と作業者の間で衝突も起こる。慣れない場の慣れない作業では役割分担とコミュニケーションが非常に大事になる。それを素早く行い一体感を築き上げるのがこのオリエンテーションの目的で、修学旅行や企業研修でしばしばヨットが選ばれる理由だったりもする。
ちなみにだが荷物の中身は昼休みにみんなで喰う食料だ。大事に扱って欲しい。
「お昼ご飯、遅くなりそうだなあ。あ、引いてる!」
2杯のヨットの先行きを心配している間に、竿に当たりが来た。彼女たちには悪いが俺は自分の昼飯だけでも確保しておくことにした。
「だぁーれもいない湖~。二人の愛を確かめたくて~」
太陽が真上を少し越えた頃。俺は無人島の湖岸で替え歌を歌いながら、3匹の魚を焼いていた。
「おい! 何を一人で喰ってんだよ!」
その声に振り返ると、そこには膝に手を当て大きく肩で息をしているティアさんの姿があった。
「ああ、ティアさんお疲れ。ちょっとお昼をね。みんな着いたんだ?」
返事しつつ彼女の背後に目をやる。うん、死屍累々と言った感じか。なんとか無人島に着いた皆はヨットから這うようにして島へ降り、慎みや外面を忘れて倒れ込んでいた。
砂浜にぐったりと寝そべる水着の美女たち……と表現すれば聞こえは良いが、実際はライフジャケットで着膨れ汗とタールで汚れ、とても艶やかなシーンとは言えなかった。
「くそ……余裕みせやがって……」
ティアさんはそう言いながら俺の方へ一歩踏み出したが、砂で足を滑らせて仰向けに倒れ込んだ。
「ティアさんーん? 食べたら元気出ますか?」
俺は枝を刺して焚き火前で焼いていた魚を一本手に取り、ティアさんの顔の上で振った。すると彼女は寝転がったまま腕を伸ばしてそれを俺から奪うと、ガツガツと食べ始める。獣か。
「あーええなあ! ショーキチ兄さん、ウチにもくれへん?」」
そんな声と共に現れたのはレイさんだ。声も立ち姿もまだまだ元気一杯で救命胴着の前を大きく開き、競泳水着に包まれたみずみずしい肉体を惜しげもなく曝け出している。
ん? 彼女も競泳水着?
「レ、レイさんはそんなに疲れてないんですね……」
さすが人間にしたら17歳くらいの少女。若いって素晴らしい。俺は彼女から目を逸らして別の魚に手を伸ばした。
「ウチは身軽やし、上で見張ったり声かけたりする仕事やったから、そんなに負荷無かったしな。でもお腹すいたで! あっ、ありがとう!」
若者なら喰うだろう。俺は気前よく残った二匹とも彼女に渡した。それから次の魚を枝に刺してまた焼き出す。時間は貰えたし大漁だったので、在庫はまだまだある。
「あん! 食べさしこぼしてしもた! ショーキチにいさん、とって?」
「へっ!?」
振り返るとレイさんが胸を突き出し、こちらへ訴えかけるような視線を投げかけていた。その視線を追うと、確かに齧った跡がついた魚の頭部が彼女の胸の谷間に挟まっている。
競泳水着でなぜ谷間が見える!? と疑問に思ったが彼女が着ているのはアレであった。胸元が紐で開け閉めできるヤツ。つまりレイさんは船から下りて救命胴着の前を外し、更に水着の紐を緩めた上で俺の元へ来た訳だな。
「いったいここはどこなんだ……?」
と、その魚の目は訴えかけているようであった。レイさんの碧く湿った肌、弾力に満ちた脂肪の感触は恐らく彼――雄であるのは確認済み――には未体験のものであったろう。ちなみに「うおのめ」の方は足の皮膚の一部が固まってしまう負傷で、サッカー選手にとっても大きな問題となる。予防と治療が肝心だ。予防については足に合わない靴の使用を避け、適切なソールを入れ、練習後にはマッサージなど……。
「なあはよ! 奥にはいっちゃうでえ」
宇宙猫の様な表情で長考に入っていた俺を急かしてレイさんが言った。大ピンチだ。助けてくれるエルフも、ほぼ皆が疲労で倒れていて期待できない。
「はいはい。じゃあ」
しかし無駄に長時間、脳味噌を回転させてた訳ではなかった。俺は両手を伸ばし……
「これで自分で取れるでしょ?」
レイさんの方の両手の魚を一時、受け取った。
「はい。持っててあげるから。手が空いたね良かったね」
俺がそう言うと彼女の顔が驚きから無念へと目まぐるしく変わった。
「この後、正式な昼食だから食べ過ぎないようにね」
俺はそう言いつつ背を向け、次の料理の焼き加減を見る。
「むう。悔しいくらいに頭まわるなあ」
「何か言った?」
「別に! 片方、ポリンにあげてくる!」
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