上 下
217 / 651
第十三章

二度漬けは厳禁

しおりを挟む
「リソース……じゃと?」
 話は例の晩の翌朝まで遡る。俺はコーチ陣を作戦室へ集め、約3週間後のオーク戦に向けての戦略を説明していた。
「そう、リソース。世の中には反則を文字通り『罰則、やってはいけない事』と捉えるタイプと『ペナルティの許す範囲なら使える資源、リソース』と捉えるタイプがいます」
 俺はちょうど目の前に座る二名に目をやった。
「これは少し可愛い事に、お二方の種族は前者。フェリダエやミノタウロスやゴルルグ族は後者なんですよね」
 俺がそう言うとドワーフとエルフの二名、ジノリコーチとナリンさんは不思議そうに目を合わせた。
「ドワーフとエルフが揃って……ですか」
「ええ。基本的に貴女たちはできる限り反則を犯さずにプレーをしようとしますよね? しかし反対側のタイプは、もし利益メリットの方が不利益をデメリット大きく上回るなら進んで反則を『使用』します」
「『使用』とな?」
「ええ。そうですねえ」
 俺は実際に観た試合のあるシーンを思い浮かべながら続ける。
「例えば自分にマンマークについているDFが既にイエローカードを貰っているとします。そしてプレイの最中、ちょっともつれ合うような事がありました。そういう時、後者のタイプはですね……意図的に口汚く相手を罵って、もみ合いに発展する事を狙ったりするんですよ」
「はぁ!? そんな事して何になるんじゃ? 最悪、カードを貰ってしまうじゃろ?」
「ええ、もちろん」
 俺がそう言うとニャイアーコーチ、ザックコーチ、アカサオがやや愉快そうな表情を浮かべた。
「そうじゃろ? それは良くない事じゃ」
「良くないですね。まあ加減にもよりますが上手く行けば喧嘩両成敗で、『両者』にイエローカードが出ますね」
 その言葉を聞いてナリンさんがハッと顔を上げた。
「なるほど! そういう事ですか……」
「なんじゃナリン? 先に気づくなんてズルいのじゃ! 教えて!」
「ジノリコーチ、相手DFは……どうです?」
「喧嘩をふっかけられて可哀想なのじゃ」
 うん、そうだね。本当はもっと可哀想なんだけど。
「それはそうなのですが……。最初にショーキチ殿がDFについて言っていた事を思い出して下さい」
「えっとマンマークについてて既にイエローカードを……あっ!」
 ジノリコーチはその小さい口を小さい手で覆って叫んだ。
「イエローカードをもう一枚貰ったら、退場になってしまう!」
「そうです。仕掛けた側目線で言えば、自分はまだ一枚目だからセーフですが相手は二枚目でレッドカードです」
 ナリンさんがそう説明すると、ジノリコーチは恐ろしいモノを見るような目で俺の方を向いた。
「まさかDFを退場させる為に、わざといざこざを……?」
「そうです」
「ズルい! ズルいのじゃ! そんなの相手にも審判にも観客にも失礼なのじゃ!」
 ジノリコーチはそう言うと悔しそうに地団駄を踏んだ。
「確かにズルいし失礼かも知れません。ですが一方では『カードは一枚なら貰っても良い』と考えてそのリソースを有効活用し、相手を退場に追い込んだ上手い行為と言えるかもしれません」
 義憤に燃えるジノリコーチを微笑ましく見ながら俺は応えた。しかしこれでここまで怒るなら、例えば大事な試合に出場停止を喰らわないように、もうちょっと前でわざとカードを貰って累積を消化しておく選手の類を見たら、彼女はどうなっちゃうんだろう? あとやっぱドワーフ代表の空調を使ったあの戦法、ジノリコーチ在籍時には絶対に出来なかっただろうな。
「そんな事を『上手い』とは言わないのじゃ! ……はっ! まさか!? お主、そういう事をアローズにやらせようと言うのか?」
 ニヤニヤ笑う俺を見てジノリコーチがさっと詰問する。
「まさか。さっきも言ったようにドワーフやエルフはそういうタイプではないです。ただオーク代表はそういうタイプでしょうね」
 俺がそう言うとジノリコーチは咄嗟に何かを思い出して叫ぶ。
「確かにそうじゃ! ワシらがカードが出るようなタックルをしてしまうと申し訳ない気分になって謝るのじゃが、奴らは嬉しそうに笑って謝りもせず走り去りよる!」
 そう言われれば俺もハッキリとそんなシーンを思い出せる。と言うかさっきまでもそういう試合映像を観てたからね。
「つまりそんな悪い奴らじゃから、なんとしても懲らしめよう! という作戦会議なんじゃな?」
「違いますよ」
 そりゃ作戦会議と言うより決起集会でしょが! 俺は即座に否定し言葉を続ける。
「オーク代表はそんな風にまあ、ラフプレイとか反則とかイエローカードをリソースとして、使って良い資源として上手く操るチームです。激しいプレイに相手が萎縮したり軽い怪我で調子が狂ったりするのを狙ってね。でもアローズはそんなプレイ出来ないし俺もさせませんし、或いはそれに付き合うつもりもありません」
「ではどうすると?」
「間接的にリソースを減らしてやるんですよ。ファウルの価値を下げる事によって、ね」
 俺は用意した資料を配りながら言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

処理中です...