212 / 697
第十二章
しんこ……く? ん?
しおりを挟む
「えええ!? それって……」
昔のエルフとオークの間で行われた戦争でペイトーン選手がリーシャさんのお兄さんを殺した……て事か?
「それって……」
俺は思わず言葉を失う。平和ボケした――と言うのはある意味、幸せな事でもある――日本人であった俺には分かり難い事ではあるが、この大陸において種族間闘争の戦乱が収まったのはたかだが50年ほど前でまだ多くの関係者も存命であり、様々な記憶も新しいところ、らしい。
大規模な和平交渉と補償が行われ互いに恨みっこ無し、とはなっている筈だがまだしこりは残っているのだろうし、ましてや長命なエルフにとっては昨日の様な出来事だ。その当事者同士の対決となると……。
「だからね。対オークの試合となると、私も冷静じゃいられないと思う。そうなると監督にもチームにも迷惑をかけるからさ。その試合だけは、メンバーから外して貰った方が良いかな? って」
リーシャさんは努めて冷静に言った。そうだよな、そうなるよな。
「うん、分かった。いや。分かったって言うのは嘘だな。俺は戦争とかに詳しくないから。でもリーシャさんの気持ちは最大限に尊重するよ。よく打ち明けてくれたね」
「え? いや、そんな大げさな話じゃ……」
リーシャさんは慌てて打ち消す様に両手を振った。
「ううん、難しくて、勇気のある決断だったと思う。尊敬するよ。リーシャさんはチームにとって大事な戦力だし、ここだけの話アーロンでのメディア向けの催しにも注目選手として連れて行くつもりだったけど、試合からもそれからも外す事にするよ」
「「ええっ!?」」
俺の言葉に両エルフから驚きの声が上がった。
「そんなに私を評価してくれていたの?」
「アーロンに連れて行くの、私じゃなかったの!?」
満更ではないリーシャさんに慌てた様子のシャマーさん。両者の表情は対照的だ。
「私だと思って色々、仕込みをしてたのにー!」
「一体、何の仕込みっすか! 向こうの手違いでホテルが一部屋しかとれてなくて『大人同士、密室、1日間。何も起きない筈がなく……』とかじゃないでしょうね!」
「…………」
俺はそう尋ねると、シャマーさんは黙って干し肉を千切り始めた。
「図星かい!」
「ふふっ……」
俺がツッコムとその様子を見てまたリーシャさんが笑った。
「いや笑い事じゃないですよ! 知らずに話が進んだら大変な事になっていましたよ……」
「まあ監督と同室ってなった時は私もリックの所へ行ってただろうけど」
リーシャさんは笑顔のままさらっと怖い事を言う。と言うか、え? お兄さんの所へ行くって……自ら命を絶ってお兄さんのいるあの世へって事!? やべ、俺、そこまでリーシャさんに嫌われていたのか……。流石にショックだな。
「夫婦水入らずの所へお邪魔するなんて、リーシャまだお兄ちゃん離れできないのー?」
「ふんだ! どうせ仮定の話でしょ!」
シャマーさんがそう言うとリーシャさんは少し気分を害したかのように反論した。
しかし夫婦水入らずって、まさかリックさんもその奥さんも亡くなってるのか!? それは本当に不幸というか……シャマーさんもデリカシー無さ過ぎじゃないか?
「あの、シャマーさん? ちょっとその言い方はどうかと思いますよ?」
「だって本当の事じゃん?」
シャマーさんは悪びれもせずにそう応える。マジかー。シャマーさん、常識外れな所もあるけど人情とかそういう部分はあるエルフだと思ってたんだけどな……。
「確かに夫婦水入らず、てのはもう違うかもね。リックとペイトーンが結婚して、もう2年ほど経つもん」
「まだ2年でしょ? 新婚みたいなものよ。まだまだ止まらないわよー」
新婚だと止まらないってシャマーさん何がだよ!? ってあれ? リーシャさんいま何て言った!?
「結婚って……待って下さいリーシャさん。リックさんとペイトーン選手は……ご夫婦なんですか?」
「そうよ。だってさっきそう言ったじゃない」
言うてへんわ! リーシャさんが言ったのは確か……『ペイトーン選手は私から実の兄、リックを奪い去った』だ。
……あーいや、これはまあ、ある意味では言うてるな。がっつり言うてしもてるな。
「(めっちゃ恥ずかしい勘違いして)……んな!」
「あれ? どうしたのショーちゃん?」
卓上に唯一残った犠牲者、チーズを細かく破壊する俺にシャマーさんが問いかける。
「別に……何でもないです」
「夫婦でする事、想像しちゃった? アチチな夜を想像して興奮しちゃった?」
「えっ! 監督そんな激しいプレイをするタイプ……やば」
「違います!」
俺は大声で否定したが、シャマーさんに加えてリーシャさんまでは悪ノリしてはやし立てる。
「ショーちゃんのびーすとー!」
「やるやるとは聞いてたけどまさかねー」
シャマーさんはともかくリーシャさんまでそんなノリになるとは意外だ。でもまあお兄さんの件で暗い気持ちでいられるよりはずっと良いし、『アチチな夜』というオッサンみたいな古い表現を聞いて、俺になんとなく閃くものがあった
「前言撤回します。メディア向けセレモニーにはリーシャさんを連れて行きましょう!」
「ええーっ!? 私にしておこーよー!」
「何よ、はやし立てた事の意趣返し? 意外と陰湿な性格してるわね」
シャマーさんとリーシャさんはそれぞれらしい反応を返したが、俺は立ち上がってまあまあ、と宥める手つきをした。
「陰湿な性格は否定しませんけどね。俺にちょっと思惑があるんですよ」
そして作戦の背景から説明を始めた……。
昔のエルフとオークの間で行われた戦争でペイトーン選手がリーシャさんのお兄さんを殺した……て事か?
「それって……」
俺は思わず言葉を失う。平和ボケした――と言うのはある意味、幸せな事でもある――日本人であった俺には分かり難い事ではあるが、この大陸において種族間闘争の戦乱が収まったのはたかだが50年ほど前でまだ多くの関係者も存命であり、様々な記憶も新しいところ、らしい。
大規模な和平交渉と補償が行われ互いに恨みっこ無し、とはなっている筈だがまだしこりは残っているのだろうし、ましてや長命なエルフにとっては昨日の様な出来事だ。その当事者同士の対決となると……。
「だからね。対オークの試合となると、私も冷静じゃいられないと思う。そうなると監督にもチームにも迷惑をかけるからさ。その試合だけは、メンバーから外して貰った方が良いかな? って」
リーシャさんは努めて冷静に言った。そうだよな、そうなるよな。
「うん、分かった。いや。分かったって言うのは嘘だな。俺は戦争とかに詳しくないから。でもリーシャさんの気持ちは最大限に尊重するよ。よく打ち明けてくれたね」
「え? いや、そんな大げさな話じゃ……」
リーシャさんは慌てて打ち消す様に両手を振った。
「ううん、難しくて、勇気のある決断だったと思う。尊敬するよ。リーシャさんはチームにとって大事な戦力だし、ここだけの話アーロンでのメディア向けの催しにも注目選手として連れて行くつもりだったけど、試合からもそれからも外す事にするよ」
「「ええっ!?」」
俺の言葉に両エルフから驚きの声が上がった。
「そんなに私を評価してくれていたの?」
「アーロンに連れて行くの、私じゃなかったの!?」
満更ではないリーシャさんに慌てた様子のシャマーさん。両者の表情は対照的だ。
「私だと思って色々、仕込みをしてたのにー!」
「一体、何の仕込みっすか! 向こうの手違いでホテルが一部屋しかとれてなくて『大人同士、密室、1日間。何も起きない筈がなく……』とかじゃないでしょうね!」
「…………」
俺はそう尋ねると、シャマーさんは黙って干し肉を千切り始めた。
「図星かい!」
「ふふっ……」
俺がツッコムとその様子を見てまたリーシャさんが笑った。
「いや笑い事じゃないですよ! 知らずに話が進んだら大変な事になっていましたよ……」
「まあ監督と同室ってなった時は私もリックの所へ行ってただろうけど」
リーシャさんは笑顔のままさらっと怖い事を言う。と言うか、え? お兄さんの所へ行くって……自ら命を絶ってお兄さんのいるあの世へって事!? やべ、俺、そこまでリーシャさんに嫌われていたのか……。流石にショックだな。
「夫婦水入らずの所へお邪魔するなんて、リーシャまだお兄ちゃん離れできないのー?」
「ふんだ! どうせ仮定の話でしょ!」
シャマーさんがそう言うとリーシャさんは少し気分を害したかのように反論した。
しかし夫婦水入らずって、まさかリックさんもその奥さんも亡くなってるのか!? それは本当に不幸というか……シャマーさんもデリカシー無さ過ぎじゃないか?
「あの、シャマーさん? ちょっとその言い方はどうかと思いますよ?」
「だって本当の事じゃん?」
シャマーさんは悪びれもせずにそう応える。マジかー。シャマーさん、常識外れな所もあるけど人情とかそういう部分はあるエルフだと思ってたんだけどな……。
「確かに夫婦水入らず、てのはもう違うかもね。リックとペイトーンが結婚して、もう2年ほど経つもん」
「まだ2年でしょ? 新婚みたいなものよ。まだまだ止まらないわよー」
新婚だと止まらないってシャマーさん何がだよ!? ってあれ? リーシャさんいま何て言った!?
「結婚って……待って下さいリーシャさん。リックさんとペイトーン選手は……ご夫婦なんですか?」
「そうよ。だってさっきそう言ったじゃない」
言うてへんわ! リーシャさんが言ったのは確か……『ペイトーン選手は私から実の兄、リックを奪い去った』だ。
……あーいや、これはまあ、ある意味では言うてるな。がっつり言うてしもてるな。
「(めっちゃ恥ずかしい勘違いして)……んな!」
「あれ? どうしたのショーちゃん?」
卓上に唯一残った犠牲者、チーズを細かく破壊する俺にシャマーさんが問いかける。
「別に……何でもないです」
「夫婦でする事、想像しちゃった? アチチな夜を想像して興奮しちゃった?」
「えっ! 監督そんな激しいプレイをするタイプ……やば」
「違います!」
俺は大声で否定したが、シャマーさんに加えてリーシャさんまでは悪ノリしてはやし立てる。
「ショーちゃんのびーすとー!」
「やるやるとは聞いてたけどまさかねー」
シャマーさんはともかくリーシャさんまでそんなノリになるとは意外だ。でもまあお兄さんの件で暗い気持ちでいられるよりはずっと良いし、『アチチな夜』というオッサンみたいな古い表現を聞いて、俺になんとなく閃くものがあった
「前言撤回します。メディア向けセレモニーにはリーシャさんを連れて行きましょう!」
「ええーっ!? 私にしておこーよー!」
「何よ、はやし立てた事の意趣返し? 意外と陰湿な性格してるわね」
シャマーさんとリーシャさんはそれぞれらしい反応を返したが、俺は立ち上がってまあまあ、と宥める手つきをした。
「陰湿な性格は否定しませんけどね。俺にちょっと思惑があるんですよ」
そして作戦の背景から説明を始めた……。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される
秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる