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第十二章

優先順位

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 王城の外、正確に言えばエルフサッカードウ協会の事務所があるエリアの外付近は、未だに熱心なサポーターや何か情報を得ようとするメディア関係者がウロウロしていた。そんな中に話題のレイさんや俺がノコノコと現れる訳にも行かず、さりとて瞬間移動の魔法は不安――肝心のシャマーさんがいないし――となっては、移動手段はアレに限られていた。
 エルフが手足のように操る、鷲頭に獅子の身体の翼を持った魔獣グリフォンだ。俺も一応、見た目が彼らと同じなスワッグとずっと旅をしてきて慣れはあるが、騎乗して空を飛ぶとなると話は別だ。
 しかも今日はマスコミの目を避けての高速&曲芸飛行だ。それで学校に寄ってポリンさんを拾ってエルヴィレッジへ移動ときたら……。
 高い所が苦手な俺には完全にキャパオーバーだった。移動中はタンデム二人乗り相手のダリオさんに抱きついた――はっきり言ってそのグラマラスボディの感触を楽しむ余裕は無かった――ままだし、降りても目が回ってあまりきりっとした対応はできない。
 なので俺はエルヴィレッジ到着後は具体的な陣頭指揮をナリンさん以下コーチ陣に託し、過去のオークの試合が記録された魔法の水晶球を持って早々に自宅の方へ引き上げさせて貰う事になった。

 エルヴィレッジからあの湖畔の家まで、歩きスマホならぬ歩き魔法の水晶球しながら観たオークの試合はなかなか強烈なモノだった。
 自分たちのサッカードウのアイデンティティを美しいサイド突破(例えば昔のエルフ)や緻密なパスワーク(例えばドワーフ)など攻撃に置くチームも多いが、オークのそれは『守備』。それも相手の負傷やカードをものともしない、激しく荒々しい守備だった。
 もちろん、彼女らだって得点を狙わない訳ではない。だがオーク代表サポーターが最も歓声を上げるのは見事なシュートが決まった時ではなく、相手の脚ごと刈るようなスライディングタックルでオークDFが相手を吹き飛ばした時だった。
 他にも空中戦でヘディング時に相手と頭をぶつける、ショルダーチャージ中にエルボーを入れる、ルーズボールの奪い合いで共に倒れる間際にもの凄い勢いで腕拉ぎを決めて肘を外す……。
 汚い、危ない。とても褒められたプレーではないし、子供にもお勧めできない。だが彼女らはどんな時も誰が相手でも『闘って』いた。恐らくその闘う姿勢、というのが何よりもオークたちの心に響くのだろう。
 前にも触れた通りオークはゴブリンと並ぶファンタジー界の雑魚悪役だ。どちらも命の価格は非常に安く、大量に現れ大量に、善玉に倒されていく。
 だが時に狡猾だったり逃げ足が速かったりするゴブリンに対し、オークの姿勢はいくさに生き、戦に倒れというスタイル……。『猪突猛進』とはよく言ったものだ。恐らく彼女らにとってのサッカー『道』とは倒れるまで闘い続けることなんだろう。
「あらま。また退場だわ」
 俺の観ている映像の中で、オークのDFが2枚目のイエローカードを貰って退場を宣告されていた。ちなみのその試合は対ゴルルグ族戦。オーク代表はもともと荒っぽいプレーをしている上に狡猾な蛇人間に上手く挑発され、その試合での退場者は4人目となった。
 確かリーグの規定では5人目が退場となったら試合終了、0-3で負けた事になるよな……? と思い出す間にオークの監督がテクニカルエリアに出て大声で叫び、チームの動きが目に見えて消極的になった。
「なるほど流石にその分別はあるのか」
 思わず感心して呟く。が、そうは言っても今更ではある。この人数差になっては勝ちの目は殆ど無い。オークの試合と言えば毎試合こんな感じで、故に勝率は非常に悪い。昨シーズンの順位はアローズのすぐ上、9位。弱小チームだ。
 それでもエルフより上にいるのは、その良く言えばアグレッシブな守備によって相手が萎縮しオーク代表が試合の主導権を握る事がたまにあるからだ。
 そうしてイニシアチブを持っている間に得点を取れば勝ち、できなければ退場者を出してしまって相手に負ける……オーク代表の試合はだいたいそんな感じだった。
 今、俺が観ている試合は後者バージョンだ。オーク代表は敗色濃厚で守備一辺倒、その守備も持ち前の激しさがやや軽減し迫力がない。そんな中でクリアボールが偶然に近い形で唯一残ったFWに渡ったが、その選手はただサイドに追いやられ味方が誰もいない相手ペナルティエリアへ無為にクロスを放つに終わった。
「中に誰もいませんでしたね」
 その少しシュールな風景に、俺は思わず笑って続けた。
「中に誰かいれば良かったんですけどねー」
 実際の試合やゲーム内よりも、あるアニメの実況に合成された事で有名な北澤さんの名言を真似して一人で悦に入る。
「まあ実際に中に誰かいたら怖いんだけどなー」
 そうやって自分にツッコミながらふと、前を見た。あと50mほどの所に愛しの我が家がある訳だが、居間の窓から微かに灯りが漏れている。
「中に誰か……いる!?」
 ドワーフ戦へ向けて出発して以来、俺の家はずっと無人の筈だ。出る時に指差し呼称で火の元や灯りの確認しているので消し忘れもきっとない。
「何を見てヨシ! って言ったんですか……?」
 本当に中に誰かいるんだろうか? 怖い! 俺は緊張を和らげる為と足音を消す為に猫の姿を思い浮かべながら家に忍び寄り、そっと階段を登って行った……。
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